( 251466 ) 2025/01/18 17:34:16 0 00 今回は品川区・中延を紹介。写真は「なかのぶスキップロード」の入り口(筆者撮影)
建築会社や不動産会社などが毎年発表する「住みたい街ランキング」。トップテンの顔ぶれを眺めると、常連の吉祥寺や恵比寿、新宿、目黒、最近だと北千住や大宮なんかも人気だ。しかし、どれも「まぁそうだろうな」と思えるような街ばかり。 この連載では、住みたい街ランキングにはなかなか登場しないけれど、住み心地は抜群と思われる街をターゲットに定め、そこを実際に歩き、住む人の声と、各種データを集めてリポート。そして、定番の「住みたい街」にはない、「住むと、ちょっといい街」の魅力を掘り起こしていく。
2025年のひとつめは、東急大井町線、都営浅草線の「中延駅(東京都品川区中延)」。地元の人たちに街の魅力を聞くと、決まって最初に口にするのが「交通の便の良さ」である。
■アーケード商店街「なかのぶスキップロード」が駅を結ぶ
都営地下鉄、中延駅のA3出入り口から街に出ると、左手すぐに横浜に直行できる国道・第二京浜が見える。右手にほんの少し歩くと、東急大井町線の「中延駅」だ。
【画像16枚】かつては“東京の田舎”と呼ばれることもあった街・中延。再開発も進みつつあるが、懐かしい風景と人情が今も色濃く残る
2つの駅の間には、地元に密着した店が並ぶ。東急大井町線の中延駅から、500mほど北上すれば東急池上線の「荏原中延駅」だ。
街の人たちが語るとおり、交通の便はすこぶる良さそうである。
東急大井町線で、中延の隣は「戸越公園駅」と「荏原町駅」だ。
1日の平均乗降人員を見ると戸越公園は1万2977人で、荏原町は1万4734人。そして中延は2万487人と突出している(どれも2023年度)。地下鉄への乗り換え需要もあることから、この数字なのであろう。
上に挙げた駅たちは中延を支点に、半径600mほどの円の中にすっぽり収まる。この界隈は、少し大きな通りには商店が並ぶが、ひとつ道を入ると、住宅地が広がる。
また、東急大井町線の中延から、東急池上線の荏原中延までは、アーケード商店街の「なかのぶスキップロード」がつなぐ。日常の買い物はこちらでなんでも揃うから便利だ。
「目ぇつぶって歩いていても、あ、そろそろあの惣菜屋さんだな、ということは焼肉屋も近いなとかって分かるんだ。それぞれの店がそれぞれにいい匂いの料理を作ってるからねぇ。
もちろん、ホントに目ぇつぶって歩いてたらアブネェからそんなこたぁしないよ。でもね、そのくらい、地元の人たちにとっては日常使いの商店街なんだよ」
杖をついたオジサンが、なかのぶスキップロードの魅力をそんなふうに語ってくれた。
■創業61年の喫茶店が語る住み心地
同商店街を、中延駅の方向に戻る。地下鉄浅草線の中延駅近くにある昭和テイストたっぷりの喫茶店「ニュープリンス(東京都品川区中延4-6-1)」で話を聞くことができた。
昭和39年にオープンしたこちらのお店。オーナーは長く西山郷子さん(74)が担ってきたが、最近は息子の直也さんに代替わりしたとのこと。
外資系の企業に勤めていた直也さんは、去年脱サラし店を継ぐことを決心した。現在は「まだまだ修業中(本人談)」なのだそう。イチから自家焙煎の技術を学び、近く本格的に提供を始めるのだという。
■かつては「東京の田舎」と呼ばれていた
オープン当初からレイアウトは基本的に変えていないという店内。伺った日は、美空ひばりのジャズアルバムがかかっていた。壁一面の食器棚は、建具屋による造り付けで、「東日本大震災の揺れでも、びくともしなかった」(郷子さん)と、年季の入った柱を撫でながら教えてくれた。
「私が小さい頃はね、近所の古い人たちの話を聞くと、ここらへんは東京の田舎だって言われていたんですって、昔の地名はエバラ村だったって、そんな感じが今でも残っているんですよね。人情が厚いっていうのかしらね。そういう街なんです」(郷子さん)
そんな郷子さんは、幼稚園から高校まで、別の街にある私立の学校に通った。だからだろう、少し客観的な目で街のことを語ってくれる。
「ここは、五反田、大井町、自由が丘、そうした街に取り囲まれているでしょう。あちらはどんどん発展してね。良くも悪くも中延は取り残された感じがあるんですよ。
でも、そのおかげで今でも古い味わいが残っていてね、昔ここらへんに住んでいた人が懐かしがって訪ねてくることもあります。新旧が混在した素敵な街ですよ」(郷子さん)
■地元密着の店が多く揃っている
一方、息子の直也さんは商売人の目線で街を語る。
「母が言うように、新旧が入り交じった街で、うちのように地元密着のお店も多い。そういう商売人も住みやすい街なんですよ。
これも地元密着型なんですけど『文化堂』っていうスーパーマーケットがあって、全国的にはさほど知名度がないかもしれないけど、中延では知名度100%のお店です。
ここが便利なのは、でっかいマヨネーズとか、業務用の調味料なんかをけっこう豊富に扱ってくれていることなんです。私たちみたいな商売人が多い街なので、そのニーズに合わせてくれてるんでしょうね」(直也さん)
■2025年の巳年は中延が熱い
さて、今回中延を選んだひとつの理由が今年の干支にある。実は、中延駅から徒歩5分の場所に「蛇窪神社(東京都品川区二葉4-4-12)」があるのだ。
名前のとおり、ヘビを祀った神社である。名前のとおり、と思わず書いてはしまったが、そもそもの由緒は別のところにあるようだ。荏原の一帯がかつて「蛇窪」という地名だったのである。
地名に蛇の文字が使われていた理由は定かではないが、どうやら近くを流れる河が蛇のようにウネウネと蛇行していたことから、この名が使われるようになったようだ。
神社の由緒は、鎌倉時代にまで遡る。文永8年(1272年)北条四朗左近大夫陸奥守重時は、五男の時千代に多数の家臣を与え蛇窪(現在の品川区二葉)に残って当地域を開くよう諭して、自らはこの地を去った。時千代は家臣の多くを蛇窪付近に居住させた。その後、家臣たちが蛇窪の地に神社を建立した。これが現在の蛇窪神社であるとのことだ。
蛇窪神社の境内には白蛇の像がそこかしこに置かれている。蛇窪神社と白蛇の関係も、鎌倉時代に縁がある。当時、天祖神社の社殿の左横に清水が湧き出る洗い場があり、そこに白蛇が住んでいた。これが神社と白蛇の出会いだ。
時を経て、洗い場がなくなり、白蛇は現在の戸越公園の池に移り住むようになった。 あるとき、土地の旧家森谷友吉氏の夢枕に白蛇が現れ「一日も早くもとの住みかに帰してほしい」と懇願した。森谷氏はこの話を宮司に伝えて、白蛇をもとに戻すよう願い出た。
宮司は辨財天社を建立することに決め、現在の駐車場に池を掘り、池の中央に小島を設け、その中の石窟に石祠を造って白蛇を祀った。(※同神社HPを筆者が要約)
門前に店を構える「遠藤米穀店(東京都品川区二葉4-4-7)」の遠藤彰さんは次のように語る。
「ここは昔、荏原郡上蛇窪村っていう地名だったんですよ。現在の東急大井町線戸越公園駅も蛇窪駅だった。うちはこの地で100年前から店をやっています。私で3代目です。2025年は巳年なので、お客さんもかなり増えていますね。
蛇窪神社は御朱印の人気ランキングでも、上位の常連なんです。街もこの人気にあやかって、御当地街灯なんかも作って盛り上げていますよ」(遠藤さん)
■街のことは地元の不動産屋さんに聞け
商店街、全国でも有名な神社、気の良い商店主の皆さん。中延という街は、歩いていて飽きない。気がついたら、日が暮れていた。
帰宅するサラリーマンや、夕食の食材を買い求める人たちの姿が目立ってきた。どこの街も同じだが、夕暮れのあわいの中に、昼間とは違った風景が見えてくる。
■駅周辺では再開発が進む
いくつかの不動産屋さんに断られ、今日はもう諦めようかなと思い始めていたときに、見つけたのが、地元で40年の歴史がある「中延不動産(東京都品川区中延2-5-13)」だ。
ご主人の谷中裕一さんに話を聞くことができた。
「この近辺にはかつて同潤会アパートが立ち並んでいた一角もあります。荏原中延駅の周りも、少し前までは木造の長屋が並んでいました」(谷中さん)
同潤会アパートとは、1923年(大正12年)に発生した関東大震災の復興のために建てられた集合住宅群だ。建築から長く経過し、建て替えが進んでいる。
「この界隈でいうと、中延2丁目、中延3丁目、東中延1丁目、東中延2丁目は品川区の木造密集地域に指定されていて、再開発が進んでいます。駅周りには新しいマンションも増えてきているんですよね。
かつての風景とは様変わりし始めています。この地域は交通の便の良さもあって、もともと人気の高い場所なんですけど、最近はさらに人気が出てきています。
30㎡前後のワンルームだと12万〜13万円くらいから、ファミリーでも住める40㎡前後で2DKくらいになると15万〜16万円くらいからのご紹介ですね」(谷中さん)
東京のど真ん中で、新旧の街並みが混在する中延。交通の便が抜群で、古くから店、商店街も元気となれば、住むにはかなりいい街だ。白蛇を祀る「蛇窪神社」があるおかげで、12年に1度の巳年である今年は、観光客も増えるだろうと思われる。話のネタにちょっと行ってみるのもいいだろう。
【大きな画像でもう一回見る】かつては“東京の田舎”と呼ばれることもあった街・中延。再開発も進みつつあるが、懐かしい風景と人情が今も色濃く残る
末並 俊司 :ライター
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