( 251941 )  2025/01/19 16:55:38  
00

1980年代の国産車で採用が相次いだ4WS。近年、欧州メーカーでの採用が目立っているが、それはかつてのものから大幅に進化している。 

 

 4WSとは、4輪操舵のことだ。4輪駆動の4WDとは違う。 

 

 通常、クルマは前輪を操舵し、進路を変える。後輪は前を向いたまま、方向を変えることはない。しかし、4WSの機構では、後輪も前輪と同じように向きを変える。これによって、小まわりがより利くようになったり、高速道路で車線変更をする際などに安定性が高まったりする。 

 

 4WSが熱心に開発されたのは、1980年代の日本だった。90年のバブル景気へ向けて、新技術開発がたくさん行われ、その目玉のひとつでもあった。だが、多くがとん挫して、過去の技術という印象をもつ人は多いだろう。 

 

 一方、欧州の自動車メーカーでは近年、4WSの採用が増えている。それは、ドイツの部品メーカーが進化させたシステムを実用化したからだ。 

 

 かつての4WSは、機械的な仕組みや、油圧作動装置を利用して、後輪を操舵する仕組みだった。しかし新しい4WSの特徴は、電気モーターで後輪を操舵する。これによって、きめ細かく操舵できるようになり、4WSの利点が拡張されることになった。 

 

 4WSには、逆位相と同位相がある。逆位相は、前輪とは逆向きに後輪を操舵する機能で、これによって小まわりするようになる。同位相は、前輪と同じ向きに後輪を操舵する機能で、こちらは安定して進路を変えるなどに役立つ。 

 

 これらの機能が効力を発揮する一例が車線変更だ。 

 

 とはいえ、通常は前輪だけの操舵によってクルマが進路を定める運転をしているので、逆位相にしても同位相にしても、その介入が適切でなければ運転者に違和感をもたらす。それで、80年代の技術は多くがとん挫した。 

 

 しかし、素早く、こまめに回転を調節できるモーターは、コンピュータの指示に従い、デジタル的に後輪の操舵方向や操舵角度を実現する。これに、走行速度や、運転者のハンドル操作など、クルマの走行情報を組み合わせ、後輪を操舵することにより、運転者に違和感なく、利便性を実感できる4WSができたのである。 

 

 ことに、大容量の駆動用バッテリーを床下に車載する電気自動車(EV)は、ホイールベースが長くなる傾向にあり、それによって小まわりしにくくなる懸念を払拭するのに役立つ。またこうした機能のため、より多くの電力が必要でも、EVなら十分な電力量を備えるので、採用しやすくもなるだろう。 

 

 ただし、前進する場合に違和感を覚えなくても、後退させるときは内輪差の感覚がつかみにくいときがある。それでも慣れれば、使いこなせるのだろう。また、4WSを解除するスイッチをもつクルマもあるようだ。 

 

御堀直嗣 

 

 

 
 

IMAGE