( 252204 )  2025/01/20 05:11:39  
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公共交通におけるマナー問題は、ネット上で炎上することがあり、一部の声が大きくなる現象がある。

田中辰雄氏と浜屋敏氏の調査によればネット上の投稿の半数以上がわずか0.23%の人々によるものであり、過激な発言をする参加者も少数派である。

特に高齢者層がネット上で批判的な意見を主導していることが指摘されており、彼らの生活経験や孤立感が影響している可能性がある。

ネット上の炎上は社会全体の問題意識を反映しているわけではなく、一部の声が大きくなりすぎているという認識が必要だと述べられている。

(要約)

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公共交通(画像:写真AC) 

 

 公共交通におけるマナー問題は、日常的に議論され、時にはネット上で激しい炎上を引き起こすこともある。優先席を譲らない行為や、混雑した車内でのリュックの扱い、イヤホンの音漏れといった問題は、SNS上で特定のエピソードが拡散されると瞬く間に「世間の怒り」として目立つようになる。 

 

 しかし、これらの声が本当に 

 

「世間の総意」 

 

を反映しているのか、疑問が残る。本稿では、ネット上での公共交通マナー炎上がいかにして少数の声によって形作られているのか、その背景を深掘りしていく。 

 

田中辰雄氏、浜屋敏『ネットは社会を分断しない』2019年発表(画像:KADOKAWA) 

 

 田中辰雄氏と浜屋敏氏の10万人大規模調査によると、ネット上の投稿の“約半数”は、わずか0.23%の人々によって書き込まれている(公共交通に限らず)。具体的には、 

 

「435人に1人」 

 

が過半数の意見を占有している計算になる。さらに、このなかで過激な発言をするのはさらに一部に過ぎず、田中氏によれば、炎上参加者は実に 

 

「40万人に1人」 

 

という割合にすぎない。いわば“はぐれメタル”のようなレアキャラなのだ(はぐれメタルは可愛いが)。さらに、米ワシントンポストの報告によれば、 

 

「SNSユーザーの59%」 

 

がニュースの元記事を読まずに、タイトルだけでコメントやリポストを行っていることが示されている(2016年調査)。海外での調査ではあるが、この傾向が、ネット炎上の議論の質を低下させる要因となっているといえる。つまり、元記事を読まずに 

 

「タイトルだけで反応する」 

 

ユーザーが、わずかな情報に基づいて感情的な意見を発信している。 

 

これらのデータが示すのは、ネット炎上が社会全体の問題意識を反映しているのではなく、ごく一部の声が増幅されているだけだということだ。声高なレアキャラが騒いでいるだけなのである。 

 

インターネットの書き込みイメージ(画像:写真AC) 

 

 興味深いのは、ネット上での批判的な声が 

 

「高齢者層」 

 

によって主導されているという調査結果だ(前述の大規模調査)。 

 

 従来、高齢者はインターネットリテラシーが低いとされてきたが、近年ではスマートフォンやSNSの普及により、この層のネット参加が増加している。その一方で、高齢者層は生活環境の変化や社会的孤立によるストレスを抱えやすく、ネット上で感情的な発言を行う傾向がある。 

 

 また、高齢者が公共交通を利用する機会が多いため、公共交通マナーに関する議論に積極的に参加する背景もある。優先席の譲渡問題や車内の騒音に敏感であり、自らの視点が唯一の正義であると考える傾向が強い。この 

 

「自分の経験が全て」 

 

という視点が、過激な発言を生む原因となっているのだろう。 

 

 

公共交通(画像:写真AC) 

 

 公共交通マナーに関するネット上の議論を真剣に受け止めるあまり、企業や自治体が過剰反応してしまうケースが見受けられる。しかし、前述のとおり、これらの声は極めて偏ったものであり、実際の利用者全体の意見を反映しているわけではない。 

 

 さらに、ネット上の炎上は問題を解決するどころか、新たな対立を生むことすらある。例えば、リュックを背負った乗客に対する過剰な非難は、利用者間の不信感を煽り、結果としてマナー向上の取り組みを妨げる要因となることもある。ネットの声が 

 

「見せかけの正義」 

 

を作り出し、それが現実世界に負の影響を与える可能性を、冷静に見極める必要がある。 

 

 ネット上での批判が特定の問題に集中する現象は、新しいものではない。歴史を振り返ると、マスメディアが主導していた時代でも、 

 

・騒音おばさん 

・電車内の迷惑行為 

 

といったテーマが繰り返し取り上げられ、特定の個人や集団が批判の矢面に立たされることがあった。 

 

 このような報道が過熱する背景には、 

 

「自分はマナーを守っている」 

 

という自己肯定感を得たい心理が働いていると考えられる。他人を批判することで、逆説的に自分の行動が正しいと確認したい――この心理は、ネット社会でも変わらず存在しているのだ。 

 

 公共交通マナー問題を根本的に解決するためには、まず「ネットの声」がすべてではないという認識を広めることが重要だ。少数派の意見に振り回されるのではなく、実際の利用者の声を多角的に収集し、それに基づいて現実的な施策を講じる必要がある。 

 

 例えば、車内マナーに関する啓発キャンペーンを行う際にも、「みんな守っていない」という批判的な視点ではなく、 

 

「小さな配慮が社会を変える」 

 

という建設的なメッセージを発信すべきだ。また、バリアフリー設備の拡充や、利用者同士のトラブルを防ぐ仕組みづくりを進めることが求められる。 

 

森達也『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(画像:筑摩書房) 

 

 最後に、公共交通マナー問題を改めて列挙してみよう。 

 

・ベビーカーや車いすの利用者が乗車・移動する際に協力しない、スペースを譲らない行為。 

・優先席での座席占有や、高齢者、妊婦、障害者に席を譲らない行為。 

・電話での通話や、大声での会話など、他の乗客に不快感を与える行為。 

・他の乗客のスペースを奪う行為。 

・ドア付近に立ち続け、乗り降りの妨げになる行為。 

・歩行者エリアでの無謀な走行、信号無視、車道逆走などの危険行為。 

・列を守らず、順番を無視して乗車する行為。 

・車内や駅構内でゴミを放置する行為。 

・イヤホンやヘッドホンの音量が大きく、他の乗客に聞こえる。 

・リュックを背負ったまま乗車し、他の乗客に迷惑をかける。 

・飲酒後に公共交通機関を利用し、周囲に迷惑をかける行為。 

・エレベーターやスロープを、本来の利用者以外が占有する。 

・駐車場での不正駐車や、電気自動車用充電スペースの不正利用。 

・歩道での高速走行や放置、規定外の場所での使用。 

・交通ルールを無視し、他の車両や歩行者に危険を及ぼす行為。 

・本来必要としない人が利用し、必要な人が使えない状況を作る。 

・他の乗客を押しのけて無理に乗り降りする行為。 

・運転手に対する無礼な態度や、料金トラブルの発生。 

・車内スペースを大幅に占有する量の荷物を持ち込む行為。 

・指定のキャリーケースを使わずにペットを車内に持ち込む。 

・通勤ラッシュ時に大型荷物や自転車を持ち込むなど、混雑を助長する行為。 

・他人のスマートフォン画面を覗き込む、撮影するなどの行為。 

・駅の階段や通路で無謀に走り、他の利用者に危険を及ぼす行為。 

・シェアバイクやカーシェアを適切に返却せず放置する行為。 

 

確かに腹立たしい部分もあるが、それにヒステリックな書き込みをしているのは、ごく一部の人だ。あなたの家族が、あなたの友人が、あなたの隣人がそのようなことをしている確率は極めて少ない。大多数は穏健な常識人なのだ。 

 

 ネット炎上は、ときに私たちの社会観を歪める危険性がある。しかし、その裏には決して一部の声だけで語り尽くせない現実がある。 

 

 公共交通におけるマナー問題も同様だ。日常生活で起こる小さな摩擦を過剰に批判するのではなく、共感と理解を持って対処することで、より良い社会が築けるはずだ。ドキュメンタリーディレクター・森達也氏の著作タイトルを借りれば、 

 

「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」 

 

私たちはこの視点を忘れず、日々の行動に反映させるべきだろう。 

 

伊綾英生(ライター) 

 

 

 
 

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