( 252456 ) 2025/01/20 16:42:14 0 00 photo by iStock
ドン・キホーテ(以下、ドンキ)がますます絶好調の兆しを見せています。同店を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の2024年6月期売上高は、2兆円を突破。小売業界において売上高4位にまで成長を遂げながらも、すでに2030年以降の具体的な戦略を提示し、さらなる飛躍を目指しているのです。
ドンキ好調を生み出す要因としてあげられるのが、他社には真似できない圧倒的なプライベートブランド力と、業界の常識を覆すような店舗づくり。つまり、良い商品をうまく売るビジネスモデルが功を奏しているということになります。しかしながらドンキに対するイメージを広く聞いてみると、「あの雰囲気が苦手」、「ごちゃごちゃしていて欲しいものはなさそう」という声もまだまだ聞こえてくるのです。確かに世界的歌手のブルーノ・マーズを起用したCMや、2023年11月から始まった弁当・惣菜ブランド「偏愛めし」には、万人受けしがたい奇妙さがあり、ドンキならではの世界観は健在です。常にアンチが存在しそうなドンキが成長を続けられる強さの理由とは一体何なのでしょうか……?
私はスーパーマーケット研究家として国内外3万店以上のスーパーを見てまいりましたが、ドンキの強みはズバリ、挑戦と失敗を恐れないことにあると断言できます。つまり、大ヒットもあれば、失敗もあるということ。そして経営面でのバランス調整力こそが、企業としての成功に導いているのです。
ドンキに関する経営視点の考察は他でも多く取り上げられていますから、ここでは買い物をする顧客目線におけるドンキの魅力(良い・悪い)を考えてみたいと思います。お客はどんなことに喜び、満足度を高めているのでしょうか? そこで商品ジャンルを“食料品”に絞り、強みとして打ち出している5つのポイントをご紹介。皆さんにとってそれが魅力につながるのか否か? を判定いただきながら、ドンキ活用術のヒントにして読み進めていただければ幸いです。
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ディスカウントストアのイメージが強かったドンキにおいて、食品が注目されるきっかけを作ったのは、「素煎りミックスナッツ」。ナッツを愛する開発担当者が独断と偏見によって配合率を決めて生み出したミックスナッツは年間売り上げ20億円を突破する大ヒット商品になりました。そして注目すべきは、ヒット後の独創的なチャレンジにあり。続々とユニークな新フレーバーを提案し続けているのです。一般的にミックスナッツのバリエーションと言えば、塩味やトリュフ味ですが、ドンキでは黒胡椒、紅生姜、ハーブソルト、和からし、ロレーヌ塩という驚きのあるラインナップに。
もう一つは、調味料ジャンルでは異例となる年間1億円の売り上げを記録した「ごまにんにく」。バター醤油味やマヨネーズ味という新フレーバー開発にとどまらず、海苔やごまだれなどいった別の売り場においてごまにんにく味を採用するなど、垣根を超えた自由な商品づくりが光ります。このように、成功時にさらなるチャレンジを歓迎する企業姿勢は、商品づくりにもわかりやすく反映されているのです。
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賞味期限間近の3連ベーコンが130円、販売終了のスナック菓子が半値以下… 。店舗に足を運んでみて気がつくのは、その日によって、お店によって異なる “訳ありの激安商品”が並んでいること。ドンキでは「圧倒的驚安プライス」というPOPを活用しながら販売しています。
激安よりも安い驚安という独自コンセプトを掲げ、そこに安さの理由をわかりやすく記載することで、お客に説得力と安心感をもたらすのです。この売り方は、まさにディスカウントストアのスタイル。ドンキでは各店舗、各売り場の現場担当者に自分の判断で仕入れや値付けができる大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所(応じた商品や売り方)を実現しているのです。
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ドンキではそれまで掲げてきた「お客さま第一主義」という企業原理を2011年に「顧客最優先主義」に改定しました。お客と顧客は違うのか? 第一と最優先では何が変わる? など一見わかりにくいものの、その差こそがドンキを成功に導いている根源とも言えます。
冒頭に触れた弁当の事例で考えるとわかりやすいでしょう。2023年11月からはじまった「偏愛めし」は、“みんなの75点より、誰かの120点。”をコンセプトに、誰かの“好き”にとことん振り切った美味しさを提供する弁当・総菜ブランド。酒がよく進むような「フライドチキンの皮だけ弁当(レッドチリ)」や、あえて1日寝かせたシチューにごはんを合わせた「2日目のこてこてシチューライス」など、強烈な個性が光る商品がずらりと並んでいます。このような事例は冷凍パスタでも発見。「復刻にんにく6倍ペペロンチーノ」や「24倍辛爆熱アラビアータ」は、やり過ぎ感がありながらも購買意欲を搔き立てるバランスが秀逸です。
これらのコンセプトには必ずや否定派がでてくるような要素が含まれますが、顧客のニーズをがっちり、徹底的に満たすためのカタチを重視していることがわかるでしょう。変化対応や創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する精神が具現化されている商品は、他にもたくさん見つけることができます。
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そうはいっても、強烈な独自性を一人歩きさせないのがドンキのバランス力。世の中のトレンドフードや注目テーマをとらえた売り場や商品には脱帽させられます。
例えば、流行が続いている韓国フード。韓国最大手コンビニ「CU」の人気商品を独占的に販売したり、人気の韓国のりに日本らしさを加えた「明太子フレーバー」をPB商品として開発したりするなど、本気の姿勢が見て取れます。また焼きイモやオートミールなど、腸活ブームに合わせた商品づくりにもわかりやすさが光ります。
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モノや情報が氾濫する忙しい現代の中で、多くの人が手放せなくなりつつあるのが、スマートフォン。ファストフードやカフェなどではモバイルオーダーを中心としたスマホ決済サービスが快適になり、スーパーでもその流れが加速しています。もちろんドンキはそのリーダー的存在。顧客はスマホのアプリをインストールしてクレジットカードと連携することで、お得な買い物が可能になるのです。
具体的には、評価の高い商品を破格プライスで会員限定に販売する「マジ価格」や、商品や店舗に対する意見や要望を投稿できる「マジボイス」というしくみ。特に優遇感を享受しやすいのは、デジタルネイティブ世代と言われる若年層(15~24歳)。すでに20%はアプリ会員とのことで、1月には若年層の学生majica会員限定で韓国のりやカイロを11円(おひとり様1点まで)で提供するなど、SNSを活用した驚安プロモーションが積極的に行われているのも見逃せません。
2024年6月期の決算発表において吉田直樹社長は、「電子マネー「majica(マジカ)」のアプリ会員数を現在の2倍となる3000万人への拡大をめざす」と言及し、今後はさらにアプリ機能が強化されることが予想されます。
PPIHは今後の成長戦略及び数値目標について、新型コロナウイルス等による小売業界の環境変化に合わせて 中期経営計画を修正し、Visionary 2025/2030 (※)を発表しました。同社のもう一つの柱であるグローバル戦略や、新年早々に飛び込んできた西友売却問題などをふまえると、同社が今後ますます食に注力していくことは間違いないでしょう。他社を圧倒するようなユニークな快進撃が続くのか、今後も目が離せません。
※2030年に向けてPPIHグループが目指す姿を明確にした中期経営計画。数値目標としては、営業利益1200億円(2025年6月期)から2000億円(2030年6月期)に。定性的な戦略として国内事業、海外事業、ECG活動を3つの柱とし、具体的な施策まで落とし込んでいる。
スギ アカツキ(食文化研究家)
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