( 252519 )  2025/01/20 17:58:27  
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中居正広のスキャンダルを巡る日本メディアの対応について、フジテレビや主要メディアが真相究明や説明責任を果たしていない点が問題視されている。

特にフジテレビは女性被害者を無視し、自社の利益を優先していると批判されている。

日本メディアはどうでもいいことには執念を見せる一方、重要な問題に対しては消極的であることが指摘されている。

欧米では女性がメディアのトップに立つことで性的問題に対する姿勢も変わりつつあり、日本のメディア業界も責任を果たすべきだとの意見が示されている。

(要約)

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(撮影:今井康一) 

 

 中居正広のスキャンダルをどう 「語らない」かーー。フジテレビをはじめとする日本の主要メディアは、『週刊文春』をはじめとするいくつかのメディアが中居による「女性トラブル」を暴露して以来、この疑問に果敢に挑んでいる。この種のスキャンダルは日本に限ったことではないが、日本が特別なのは、メディアが自主性をもって説明責任を求めようとしないことだ。 

 

■フジテレビが「裏切った」もの 

 

 当初、フジテレビがしたのは、報道された特定の幹部社員の関与をプレスリリースで否定することだった。同社によると、上述の幹部は会食のことを知らなかったと主張しているが、中居や女性を呼び出して双方の言い分を聞くこともなかったようだ。 

 

 女性は問題があった初期にフジテレビ幹部に報告したとされるが、そのときに同社はどう反応したのか。彼女を突き放して辞職に追い込む一方で、中居を支持し、この出来事を「なかったこと」にすることだったのではないか。そのような疑問にはフジテレビは何ら答えようとしていない。 

 

 日本の企業はしばしば、自社の利益を追求するだけでなく、従業員や株主の利益や公的利益を等しくバランスさせていると主張する。しかし、今回フジテレビは、哀れな女性に背を向け、自社の利益のためにその3つをないがしろにしたのだ。 

 

 ところが、これに対する日本メディアの反応も、せいぜいフジテレビと中居の公式リアクションの切り貼りで、それ以上の質問はない状況が続いた。 

 

 「被害者が口を割らないので、何が起こったのかわからない。どうしたらいいのだろう?」と日本のあるジャーナリストは嘆く。しかし、昨年12月に『日本経済新聞』がホンダと日産の合併が発表されそうだとスクープしたとき、テレビの取材班はホンダCEOの早朝のランニングに直撃し、質問した。 

 

 日本のメディアはなぜ、中居のような社会的関心の高いスキャンダルについて、同じようなスタミナを示せないのだろうか?  

 

■どうでもいいことの詮索は頑張る日本のメディア 

 

 私のような“外部者”を真に困惑させるのは、日本社会ーーとりわけメディアーーの性的問題に対する鈍感さ、あるいはプライオリティの低さである。 

 

 日本のメディアは日常的にどうでもいいことの詮索には躍起になる。最近ではG7での石破首相の座り方を「解剖」した。20人規模のデモやサルを捕獲する人たちを追うためにヘリコプターを飛ばす。 

 

 

 しかし、どうだろう。中居のような大スターによるテレビ関係者への問題が明らかになると、メディアの真実に対する欲望は突然消え去ってしまう。 

 

 文春は1999年の時点でジャニー喜多川の恐るべき犯罪を報道し、その後名誉毀損裁判で勝訴した。しかし、フジテレビや主要メディアは数十年にわたってこの報道を無視し、ジャニー喜多川の暴走を止めることをしなかった。 

 

 「ジャニー喜多川の犯罪はすべて文春の報道に書かれていたのに、誰も何もしなかった」と、うんざりした様子で語るのは、アメリカ大手メディアの元日本支局長である。BBCの日本語が不自由なジャーナリストが世界に真実を明らかにしたのだ。 

 

 それでも、その後の記者会見では、主要メディアの最大の関心事はジャニーズ事務所を“安楽死”させるのではなく、いかにして延命させるかにあったようにみえた。 

 

 ジャニーズ問題の時もそうだが、国内よりも海外のほうがずっと敏感に反応し、憤慨している。 

 

 1月14日、フジ・メディア・ホールディングスの大株主であるアメリカの投資ファンド、ダルトン・インベストメンツの関連会社であるライジング・サン・マネジメントは、国内メディアが決して要求しなかった説明を求める痛烈な書簡をフジ・メディアHDに送り、第三者委員会の設置を要求した。 

 

 「貴社株式の7%以上を所有する大株主として、憤りを禁じ得ない事態」と書簡には書いてある。ダルトンのような株主を現代の「総会屋」と見る人もいる。しかし、彼らは日本のメディアが束になってもできないような、公共の利益を実行しているのだ。 

 

■外圧によってしか動かない日本の企業とメディア 

 

 ライジング・サンが書簡を送ったことが明らかになった翌日の16日、フジテレビは社長の会見を決めた。またしても「外圧」によって当事者が重い腰を上げたことになる。 

 

 ところが、その会見は「記者クラブ」だけに向けたものであり、フリーの記者は排除され、その模様を映像で撮影することも認められなかった。フジテレビはこの期に及んで、真実へのアクセスを積極的に制限することを選択し、参加した記者たちはその問題点を指摘しつつも、結局はフジテレビの意向に沿った会見が開かれたのだ。 

 

 フジテレビと記者たちは自分たちの職業と国民を裏切っている。民主主義が機能している国なら、このようなあからさまな公共的価値のある情報への制限はありえない。メディアと記者クラブ会員、そしてメディア業界の恥を晒すも同然のことだ。 

 

 

■メディア業界のトップに女性がいるフランス 

 

 欧米ではメディア側による性問題に対する姿勢も大きく変化している。 

 

 フランスでは、政府がテレビ業界における性的問題の解消に踏み切った。「すべてのテレビスタッフは、性犯罪に関する簡単な研修を受けなければならず、従わない場合は公的補助金を受けられない」と、フランスのテレビ業界における複数の性犯罪スキャンダルを明るみにしたテレビプロデューサーのアンソニー・デューフォーは話す。 

 

 「不適切な方法で体を触られないように、モニターを大きくするよう求めるなど、少しばかげていることもあるが、メッセージは明確だ」 

 

 「変化が起きた最大の要因は、メディアで権力の座につく女性が急増したことだ」とデューフォーは加える。フランスのNHKであるフランステレビは、2015年から女性によって運営されている。フランスで最も人気のある捜査番組の責任者は女性だ。ネットフリックス・フランスのトップは女性である。 

 

 一方、アメリカでは2017年にアメリカのテレビ界で最も有名なキャスターであったマット・ラウアーが身元不明の女性からセクハラ被害を訴えられた際、NBCニュースの人事・法務部はこの女性の代理弁護士と面会し、すぐさま調査を実施。申し立ての24時間後には人気番組を20年間担当していたアウラーは解雇された。 

 

 同日、『ニューヨーク・タイムズ』紙や『バラエティ』は、匿名ではあるが信頼性の高い数十件のインタビューに基づく同様の証言を報道している。 

 

■日本のメディアが今しなければいけないこと 

 

 フジテレビの港浩一社長は1月17日の会見で、2023年6月にはすでにこの問題の存在を知っていたが、被害者を「守る」ために行動を起こさなかったと主張した。 

 

 だがこの時点でフジテレビがNBCのように行動していれば、日本にとっていい前例となっていたかもしれない。従業員など利害関係者は守られ、株主は企業価値やブランドの毀損に伴う損失を回避できただろう。 

 

 今からでも遅くない。報道機関としての側面もあるフジテレビ、そして日本のほかのメディアも行動を起こすことはできる。 

 

 なぜ被害者はフジテレビの上司から可能な限りのサポートを受けられなかったのか? なぜ彼女は辞職したのか? フジテレビは彼女を引き留めるために最善を尽くしたのか? なぜフジテレビは中居を呼び出さなかったのか? このような問題を二度と起こさないためにはどうすればいいのかーー。メディアとして探らなければならない問題は山ほどあるはずだ。 

 

 (敬称略) 

 

レジス・アルノー :『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員 

 

 

 
 

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