( 252531 )  2025/01/20 18:10:20  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

昨年、三菱UFJ銀行で発生した貸金庫からの巨額窃盗事件は、多くの人に衝撃を与えました。相続が発生した場合、貸金庫の中身は相続財産となりますが、この事件を踏まえ、相続手続きにおける注意点やリスク管理について改めて確認する必要があるでしょう。本記事では、Aさんの事例とともに貸金庫の相続手続きについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。 

 

昨年、三菱UFJ銀行で銀行員が支店の貸金庫から時価十数億円の金品を盗み出したニュースが話題になりました。貸金庫を借りている人達は、一体貸金庫になにを入れているのでしょうか。また、銀行員は、貸金庫の中を自由に見ることができるものなのでしょうか。さらに、貸金庫を利用している人が亡くなった場合、相続人はどうしたらいいのでしょうか。 

 

相談者のAさんの例でみていきましょう。 

 

48歳のAさんは、大企業の企画部長として勤務していた経歴のある76歳の父親を急な病気で亡くしました。父親は企業年金なども含め、年金を月額30万円ほど受け取っており、預貯金だけでも5,000万円ほど遺してくれました。遺品整理をしていたところ、父親の生前にあまり使われていなかった机の引き出しの中から把握していなかった銀行の通帳と貸金庫のカードを発見します。預貯金のほか、すでに不動産や有価証券を調べていたところですが、「まだあるのか」と相続の手続き等に疲れてきたAさんは半ばやれやれという気持ちに。電話で銀行に問い合わせてみました。 

 

亡くなった父親の相続人はAさんのほか、認知症で介護付き老人ホームに入居中のAさんの母親と、Aさんの3歳年下の弟の3人です。 

 

貸金庫に預けられるものは、契約証書や権利書といった重要書類をはじめ、貴金属や宝石といった貴重品、ほかにも写真や手紙などの思い出の品などです。貸金庫はサイズによって年間1万円〜5万円といった費用で借りることができますが、当然誰もが借りられるものでもなく、金融機関独自の審査がありますので、それなりの資産を持った人が対象になります。 

 

Aさんの父親は、会社員のころから通勤で利用する駅のそばの銀行に口座を作っていたようで、そちらで貸金庫も利用していたようです。 

 

家族すら知らない貸金庫を税務署が知っている理由 

 

被相続人が貸金庫を利用していた場合、中身は相続の対象となりますので、相続手続きを取らなければいけません。 

貸金庫を借りていたことを知らなかったとしても、自治体に死亡届を提出すると税務署に通知が行き、税務署は亡くなった人の預金口座の内容や残高を金融機関に照会する権利を持っています。そのため、貸金庫を利用していたことはやがてわかってしまいます。 

 

税務調査では貸金庫まで同行し、中身をチェックされます。相続税の申告を終えたあとに貸金庫の存在が発覚した場合は、早急に修正申告してしまいましょう。 

 

なお、貸金庫は銀行員が勝手に開けることはできません。契約者(生前に登録した代理人)だけが開けられるようになっています。そのため、銀行側は貸金庫の中身は把握していませんので、貸金庫の相続手続きは預貯金の場合に比べて厳しくなっています。 

 

相続人が貸金庫を開けるときには公平性の確保のため、相続人一人だけでなく、貸金庫を開けることについて相続人全員からの同意が必要だったり、相続人全員の立ち合いが必要だったりします。 

 

 

Aさんが銀行に連絡すると、相続人全員で来るようにいわれました。ですが、Aさんの母親は認知症で足腰も弱っている状態です。Aさんは、母親の代理人を立てることで理解してもらい、弟とともに銀行に向かうことにしました。 

 

日本は高齢化や核家族化が進んでいますので、相続人の年齢が高齢だったり、遠方に住んでいたりと、どうしても貸金庫の開扉に立ち会うことができない場合が出てきます。銀行側は相続人全員の立ち会いを求めてくることがありますので、そのような場合はまずは銀行側に相談してみましょう。 

 

なお、相続人の行方がわからない場合もあります。相続手続きを進めるときには、必ず相続人同士での話し合いをしなければいけません。連絡が取れる相続人だけで分割協議をすることは認められないのです。貸金庫を開扉するときも同じです。もし、相続人で行方がわからない人がいるようであれば、戸籍の附票を取り寄せるなどして現在の住まいを確認し、連絡を取る必要があります。それでも相続人を見つけられない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる方法があります。 

 

父親の貸金庫の中身 

 

当日、Aさんは弟と母親の代理人となった母親の実妹、そして念のために税理士資格を持つ友人を連れて銀行に行きました。実際に貸金庫を前にすると、なにが出てくるのかとドキドキしました。 

 

 

扉が開くと、中身は100gのインゴット2枚とマンションの権利証、高級時計が入っていました。これらはすべて評価額を算出する必要があります。マンションの相続税の計算には不動産の相続税評価額が用いられ、相続税評価額は建物と土地にわけて評価を行います。高級時計も動産として相続評価を行い、相続財産とする必要があります。金は上場株式のように価格が毎日変動しますので、相続開始日(被相続人が亡くなった日)を基準として1gあたりの買取価格を確認して計算します。 

 

Aさんと弟は帰り道に、 

 

 

 

「なんで時計が貸金庫の中にあるんだよ」 

 

「気持ち悪いなぁ。彼女からのプレゼントかよ」 

 

「マンションってなんなんだよ。もしかして誰かまだ住んでるんじゃないか?」 

 

「キーホルダーに付いてたあの鍵かなぁ」 

 

「とにかく明日にでも一緒に行って確かめようぜ」 

 

そんな会話をし、その日は別れました。なんだか亡くなった父親の知らない部分を突き付けられたようで、「母親が認知症でよかったかもしれない」ふとそんなことを思いました。 

 

なお、貸金庫の中にはマイナス財産も入っている場合があります。借用書や連帯保証人になっている保証債務の契約書などがあった場合、相続税の計算でプラスの財産から差し引く債務控除の対象になります。 

 

 

父親は家族に内緒でマンションの一室を購入していました。Aさんと弟は事前に管理会社に連絡しておいたため、部屋の中を確認することができました。2人が案じていたような誰かが住んでいる気配はありませんでしたが、家具やテレビなどは揃っていました。 

 

 

 

「さっぱりとはしてるけど、こんな机やテレビなんかも相続財産になるのかな?」 

 

「おいおい、面倒くさいなぁ。家にも書斎があるのになんでこんな部屋なんか買ったんだよ」 

 

「昔、誰かと住んでたりして」 

 

「やめろよ! 相続税納めたら時計も含めてとっとと売っちゃおうぜ」 

 

家具や家電も相続財産等して評価をする必要があります。相続税評価方法は、その家財道具の価値によって異なりますが、1個あたりの価値が5万円以下の動産については、「家財一式」や「家具等一式」といった形で、まとめて評価を行うことができますが、一個あたりの価値が5万円超であれば個別に評価をすることとなります。時間の経過とともに価値は減るため、一般的な家具・家電であれば5万円を超えるものはほとんどないでしょう。 

 

なお、相続が発生した場合は、相続人全員で遺産分割協議を行いますが、Aさんたちは母親が認知症ということと遺言書もありませんでしたので、法定相続分でわけることにしました。 

 

2人ともそれぞれがすでにそれなりの資産を形成していたことと仲がよかったこともあり、トラブルはありませんでしたが、長寿化が進むなか、被相続人や相続人が認知症となっていたり、相続でのトラブルが発生したりするケースはよくあります。遺言書の作成や、家族によって財産管理を行う家族信託などは今後ますます重要になってくるでしょう。 

  

 

川淵 ゆかり 

 

川淵ゆかり事務所 

 

代表 

 

 

 
 

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