( 252879 )  2025/01/21 14:36:08  
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埼玉県川口市に住むクルド人に関する取材をしていた記者が、市内でのクルド人にまつわるトラブルや報道と、実際の現地の様子とのギャップについて報告している。

クルド人の暮らしや問題点、日本での難民申請の厳しさ、解体業での不法就労、および市内でのトラブルや対立構造について詳細に描写されている。

クルド人コミュニティの中には問題行動を起こす人々もおり、地域社会での摩擦が報道されているが、実際には様々な背景が複雑に絡み合っている様子が伝えられている。

(要約)

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クルドカー 

 

【全2回(前編/後編)の前編】 

 

 埼玉県川口市でクルド人がさまざまなトラブルを起こしている。その一方で、それらの報道を「ヘイト」だと指摘する人たちもいて、市内は親クルド派と反クルド派に割れているとも。いったい真相はどうなのか。実際、現地に住んで2カ月間取材をしてみると――。 

 

 *** 

 

「埼玉県の川口市で暮らしながら、クルド人を取材しませんか?」 

 

 編集部から唐突に提案された。冗談だと思った。暮らす? ずっと川口にいるってことでしょうか?  

 

「ウイークリーマンションにしばらく滞在して、できるだけ市民に近い気持ちで取材してほしいんです」 

 

 そう念押しされた。 

 

 川口ではクルド人がさまざまなトラブルを起こし、厳しく批判する報道がなされている。一方で、そうした報道を「デマ!」「差別!」とうったえる層もいて、対立構造が生まれている。そこに門外漢の記者が肌感覚で記事を書くというミッションだ。しかし、言うは易し行うは難し、ではないか。 

 

 クルド人は、主に中東北部の山岳地帯に住むイラン系民族。国を持たず、4000万人ほどがトルコ、シリア、イラン、イラクなどに暮らしている。そんな彼らがこの10年ほどで川口に急増。行政のルールを無視したゴミ捨て、地域住民女性への執拗(しつよう)なナンパ行為、トラックや改造車での暴走、大音量でのレイヴ(音楽パーティー)……などを行っている。 

 

 解体業で働くクルド人が運転するトラックは道路運送車両法で定める最大積載量を超える荷を積むことが多く、荷崩れなどを起こし、“クルドカー”と呼ばれるようになった。 

 

 暴動も起きた。2023年7月、川口市立医療センターに約100人のクルド人が集結。きっかけは不倫。解体業の当時45歳の男が、妻と浮気した26歳と35歳の男の頭部や頸部を切りつけた。双方のファミリーが搬送先の病院に集まり、警察車両が何台も出動、機動隊も動員。救急搬送の受け入れが5時間半ほどストップした。 

 

 昨年1月には10代の女子中学生が、20歳解体業のクルド人の男にコンビニの駐車場に停めた車内で性的暴行を受けた。容疑者は懲役1年執行猶予3年の判決となったが、その執行猶予中の9月に12歳の少女に再び性的暴行をし、逮捕、起訴されていることが12月になって判明した。 

 

 同9月には市内前川で、無免許で乗用車を運転するトルコ国籍(川口にいるクルド人はトルコ国籍として報道されるケースが多い)の18歳解体業の男が二人乗りのバイクに衝突して逃亡。死亡者が出た。 

 

 

 そんな街に、緊張を覚えながら入ったのは昨年9月。 

 

 しかし筆者が滞在しようとしているJR西川口駅周辺にとくに荒れた様子はない。ただ、外国人の多さに驚いた。歩くと、さまざまな国の言葉が聞こえてくる。 

 

 市の人口は約60万6000人。その7.9%(2024年12月、川口市調査)が外国人。中国人、ベトナム人、フィリピン人、トルコ人……など。 

 

 クルド人はどんな顔なのか? 体つきなのか? 彼らが毎日集まるというクルド人経営のケバブ店を訪れた。店内には肉を焼く香りが満ち、聞きなれない言語での会話が飛び交う。店員も客もみんなクルド人だ。 

 

「僕、日本人ですけれど、入っていいですか?」 

 

 店長らしき人に、日本語でおうかがいをたてた。 

 

「モチロン。ココハニホンデスカラ」 

 

 店内で日本語が通じることが分かり安堵する。 

 

 クルド人は皆腕が太い。胸板は厚い。もみ上げとあごひげはつながり、タトゥー率が高い。深夜の街でこの人たちが前から歩いてきたら、身構えるだろう。だがこれも偏見かもしれない。 

 

 ともあれ川口市の最初の印象は、多国籍感は強いが、ごくふつうのベッドタウン。平穏だ。これでは編集部からのミッション、クルド人によって荒れた川口のルポは書けないのではないか。 

 

 しかし取材を進めると、駅前の光景と報道とのギャップの理由が分かった。 

 

 川口市の面積は61.95平方キロメートル。東京に当てはめると、千代田区と港区と新宿区を合わせた面積よりも広い。クルド人は前川、芝、上青木、柳崎、北園町……など、駅から離れた地域に分散して暮らしている。東京の丸の内あたりにいる人が新宿歌舞伎町の実情を知らないのと同じで、トラブルが発生している地域とそのほかとのギャップは大きい。 

 

 川口市に住むクルド人は約3000人とされる。正確な数は行政でも不明。入管局(出入国在留管理庁)が市と情報を共有していない。 

 

 これまでに約9700人のクルド人が日本に来て難民申請しているが、認められたのは1例のみだという。 

 

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民の定義では次のとおり。 

 

「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」(UNHCRのホームページより) 

 

 この難民の定義に日本に来るクルド人は該当しない。にもかかわらず、日本とトルコは友好関係にあるので、トルコ国籍のクルド人たちはビザ免除で入国し、在留資格のないまま川口市にとどまる。 

 

 まず正規のパスポートで入国し、入管局に難民申請。しかし難民申請する外国人が多過ぎて入管が処理しきれず、審査結果が出るまで2〜3年を要する。その間入管施設に収容されるのが原則だが、飽和状態なので“仮放免”の名目で日本に滞在する。さらに就労資格も住民票も健康保険もないので、仲間を頼って川口市などで暮らす。仮放免中、多くの場合クルド人は解体業で不法就労。結局難民申請は承認されないが、再申請して滞在期間を延長。これを何度もくり返し、川口で暮らし続ける。 

 

 

 24年6月、改正入管法が施行。2度難民申請が承認されなかった外国人は、強制送還できることに。それ以前は何度でも申請をくり返せたので、20年以上川口で暮らすクルド人もいる。 

 

「彼らは難民だと主張していますが、UNHCRの定義にはあてはまりません。それに高額な航空券を購入して日本に来ているくらいなので、生きられないほど貧しくはないはずです」 

 

 そう語るのは、川口市議会議員の奥富精一さん(51歳)。奥富さんは、市内でもクルド人が多く住む前川や上青木を地盤にしている。 

 

「クルド人が川口で暮らし始めたのは2000年ごろです。当初はとくに問題はありませんでした。その後母国から呼んだ子や日本で出産した子が成長し、仲間も呼び寄せて人数が増え、2010年代からトラブルが続くようになりました」 

 

 川口市のこの深刻な状況は全国に知られ、「仮放免のクルド人はすぐに強制送還しろ」という反クルド派と「クルド人と共存する道を探そう」という親クルド派が反発し合っている。 

 

 市議にも、奥富さんのようにクルド人の増加に強い危機感を抱く側と、クルド人の集まりに招かれる側がいて意見が対立している。 

 

 駅周辺ではなかなか取材にならないので、夜、赤芝新田を訪れてみた。市内北部、東京外環自動車道とその下を走る国道298号沿いのこの地域は、ちょっと異境のよう。クルド人経営の解体業者が資材を置く“ヤード”が集中している。 

 

 解体業は、日本人が好まない人手不足の業種・職種で、ずっと需要があるので次々とクルド人が従事。日本に呼んだ仲間も誘った。赤芝新田にはヤードと本社機能を置く会社もあれば、ヤードだけ置く会社もある。住民登録しているクルド人も7人いる(川口市調査)。 

 

 赤芝新田に入ると、闇に包まれ、ひと気がない。コンビニも見かけない。JR京浜東北線が走る市の南部に住む人に聞くと、ほとんど近づかない地区らしい。 

 

 昨年4月末のゴールデンウイーク前半、ここでレイヴが行われた。100人を超えるクルド人が集まり、中東系の音楽を大音量で鳴らした。彼らは周辺の路上にクルマを停め、警察車両が駆け付けて警告すると、高額な音響設備を用意したから絶対に音量は下げない、と主張。日本人も10年後にはわれわれを理解する、と反発したと報じられた。 

 

 

 帰路、前川もまわった。奥富さんによると、最初にクルド人が住み始めた地域らしい。静かで平和に見えるが、コンビニではクルド人4〜5人が駐車場の地べたに座り、ビールを飲んでいた。イートインにもいる。解体業のトラックをモップで洗ってもいる。仕事上がりなのだろう、みんな作業着姿で土や埃にまみれている。彼らが店内を歩くとフロアは泥だらけになり、店員がモップでゴシゴシ拭いていた。 

 

 レジの男性によると、これが前川のコンビニの日常だという。地べたに座って飲食するのは彼らの文化・習慣らしい。この状況が続き、日本人の客足は遠のいたという。特にお年寄りや女性客が減ってきたそうだ。 

 

 クルド人は気が短い人が多く、突然もめ始めるシーンに出合うこともあるようだ。 

 

「24年夏にも、クルド人が金属バットなどを手にして乱闘する事件が2件起きました。市内のある公共の場所ではクルド人の子がディスプレイを荒らし、職員が止めると、母親が、差別でうったえる! と大騒ぎしていました」(奥富さん) 

 

 前川の南に隣接する上青木には中央通り公園がある。「たまご公園」と言われ、子どもたちに親しまれている。奥富さんと同期の市議、青山聖子さん(48歳)によると、暖かい季節はクルド人中学生の遊び場にもなっていた。 

 

「公園内の公衆トイレで、10代のクルド人の男の子がクルド人やフィリピン系の女の子と行為をしていて問題になったことがあります。夜が明けると、トイレのまわりに使用済みの避妊具、ストッキング、酒瓶、たばこの吸い殻が散乱していました」 

 

 最近は1990年代の日本のギャル・メイクのようなクルド人少女が目立つようになったそうだ。 

 

「かつて日本の若い女の子の間で流行したヤマンバ・ギャルのようなメイクです。彼女たちにはブルーのアイシャドウが映えるんですよ。川口では“クルド・ギャル”と呼ばれています」 

  

*** 

 

こうした状況に危機意識を持つ市議らがいるのはすでにご紹介した通り。 

しかし、そうした市議に対して何と「東京湾に沈める」といった脅迫が寄せられることもあるというのだ。 

 

驚きの実態については、後編【「川口はクルド人のもの」「東京湾に沈める」などのメッセージが… 川口市議が明かす苦悩 「無免許運転、他人名義、無保険が横行」などの問題も】に詳しい。ここでは市議がこの問題に取り組む難しさを明かしている。 

 

石神賢介(いしがみけんすけ) 

ライター。1962年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。著書に『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)など。 

 

「週刊新潮」2025年1月16日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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