( 252916 )  2025/01/21 15:17:49  
00

大揺れの兵庫県(兵庫県庁) 

 

 1月18日、元兵庫県議の竹内英明氏(50)が亡くなった。自殺と見られている。斎藤元彦県知事の疑惑を調査する百条委員会で委員を務め、出直し知事選の際はSNS等で“反斎藤派”と名指しされて誹謗中傷の攻撃を受けていた。竹内氏は昨年11月、県議を辞職する理由を「家族を守るため」と語っていたという。 

 

 *** 

 

 昨年11月17日に投開票された兵庫県知事選は「SNSの勝利」「オールドメディアの敗北」と言われた。それまで百条委員会やメディアから追及を受けていた斎藤知事が逆転勝利を収めたのは、「斎藤さんは悪くない」といったSNSへの書き込みが拡散されたおかげとみられたからだ。関係者は言う。 

 

「逆に『悪いのは反斎藤派』といった書き込みも拡散されました。百条委員会で委員長を務めた奥谷謙一県議も反斎藤派と言われた一人で、『NHKから国民を守る党(N党)』の党首・立花孝志氏が大勢の賛同者を引き連れて自宅兼事務所に押しかけ、拡声器で『出てこい奥谷』『あまり脅しても自死されたら困るのでこれくらいにしておく』などと街宣をかけ、その動画を配信しました。それがSNSで拡散され、怖くなった奥谷さんは家族を避難させたそうです。その次の目標として名指しされたのが竹内さんでした」 

 

 竹内氏は斎藤知事が再選した翌日、“一身上の都合”で県議を辞職した。 

 

「あまりにも誹謗中傷が酷く、家族から『議員を辞めて』と懇願されたために辞職したそうです。LINEのIDも変えたほどですから、よほどのことだったのでしょう。彼が辞職した日、そのLINEに『あまり思い詰めないでください』と送ったら、『一緒にいる家族のために頑張ります』という返信が来ました。しかし、その後も誹謗中傷が収まることはなかったようです。辞職からちょうど2カ月となる1月18日、自ら死を選んでしまったのです」(関係者) 

 

 その翌日、N党の立花氏は竹内氏の自殺の原因について自らが配信した動画で言及した。 

 

 

「竹内さんが『兵庫県警の継続的な任意の取り調べを受けていた』『明日、逮捕される予定だった』などと発言し、それもまたSNSで拡散されました。死者への冒涜としか言いようがありません」(関係者) 

 

 1月20日に開かれた兵庫県議会の警察常任委員会では、竹内氏に対する言葉の暴力に関して質問があった。通常、こうした質問には担当幹部が答えるが、県警トップである村井紀之本部長が答える異例の対応となった。 

 

村井本部長:こういう場で個別案件の捜査について言及することは通常、差し控えているが、事案の特殊性に鑑み私のほうから答弁する。竹内氏については、容疑者として任意で調べをしたこともないし、ましてや逮捕するといったような話はまったくない。まったくの事実無根であり、明白な虚偽がSNSで拡散されていることについては、極めて遺憾であると受け止めている。 

 

 完全否定である。“明白な虚偽”がなぜSNSで拡散されてしまうのだろう。ITジャーナリストの井上トシユキ氏に聞いた。 

 

「昨年の兵庫県知事選では、SNS上で敵と味方が大きく分かれる二項対立が目につきました。加えて、敵に対しては何をしてもいいという風潮が行きすぎてしまったように思います。でも、どちらが正義でどちらが悪といった二分化など、現実社会ではできるはずがない。必ずグラデーションがあって、それを突き詰めて考えるか取材するしか真実に近づくことはできません。ところが、二項対立でないと理解できない愚かな人がいる。そうした人たちがろくに事実を検証することもなく、“明白な虚偽”を拡散したがるのです」 

 

「ネットこそ真実」と本気で言う輩もいる。 

 

「ネットの情報は玉石混淆です。それを見分けるには教養と知識が必要であり、一番大切なのは取材です。『ネットにこそ真実がある』という言葉は2000年代初頭に流行った2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)でも言われていましたが、当時はまだ取材をしようとする人も中にはいました。ところが、今のSNSにはいません。『情報を確かめた』と書き込む人も、ネットで確認しただけ。それでウラが取れたと勘違いしている者も少なくない。その情報を確実と思い込み、拡散して悦に入っている者もいるわけです。ウラ取りをしたわけでもなく、“ネットこそ真実”という証明にもなっていないことに気づいていない短絡的な人々なのです。竹内さんは、そうした群衆による暴走の犠牲になってしまったように思います」(井上氏) 

 

 県警本部長が明確に否定したことで収まるだろうか。 

 

「彼らはまず『警察が嘘をつかないわけがない』『それを報じたのはオールドメディア』という論理構成になるようです。加えて『立花さんが嘘を言っているとは限らない』『竹内さんにも非がなかったとは言えない』といった投稿も目立ちます」(井上氏) 

 

 そうした投稿をしがちな世代などはあるのだろうか。 

 

「さまざまな世代にいるわけですが、目立つのは年齢が高めの方です。40代後半から50代前半の就職氷河期世代で割を食った人々が多いという印象があります。やはり何か抱えているんでしょうね」(井上氏) 

 

 やめさせる手立てはあるのだろうか。 

 

 

「若い人はまだ可能性がありますが、中高年になると難しい。自分が気に入らないものは読みませんし、『もっと読解力をつけたほうがいい』と言っても『読解力がないのはお前らだ』『ネットで真実を知っているんだから』と頑なになるので、つける薬がないというのが正直なところ。あなたたちの無責任な発言が一人の人間の命を絶ってしまうことにもなるんだと、重く受け止めてもらいたいですけどね」(井上氏) 

 

 前述の奥谷県議はN党の立花氏を名誉毀損で刑事告発し、受理された。また、百条委員会の委員を務めた丸尾牧県議は、動画15件の内容が虚偽や名誉毀損にあたるとしてYouTubeの運営会社に削除要求したことを発表している。今回、県警本部長の異例の発言は、兵庫県警のやる気を感じさせるが。 

 

「警察も人員に限りがあるので一網打尽というわけにはいかないでしょう。それでも一罰百戒というのは次善の策だと思います。あまりにも酷い虚偽を拡散した者、その尻馬に乗って拡散させようとした者なども、逮捕して厳罰にしたほうがいいと思います」(井上氏) 

 

 刑法230条の第2項には、虚偽の事実によって死者の名誉を毀損した場合は処罰されると明記されている。 

 

 根拠もない虚偽を発信したN党の立花氏は、県警本部長の全面否定を受け、「事実と異なることをインターネットで発信したことについて謝罪させていただきます」と謝罪した。だが、遅すぎる。 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

IMAGE