( 252946 ) 2025/01/21 15:52:20 0 00 新党発表記者会見で水を飲む石丸伸二・前広島県安芸高田市長=15日午後(写真:共同通信社)
(渡辺 喜美:元金融担当相、元みんなの党代表)
■ 「単なる選挙互助会」「腰掛け気分の素人しか…」
石丸伸二氏の新党「再生の道」(The Path To Rebirth)が発表された。意表をつく政治モデルで、さながら「人材発掘石丸塾」のイメージを彷彿とさせるが、キーワードは「原理原則」という感じだ。
政治のプロないしオールドメディア方面からは、次のような批判や懸念が寄せられている。
一方、好意的評価には次のようなことが言われている。
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■ 「政治屋」が紛れ込む可能性がないとは言えない
石丸氏が一掃したい「政治屋」とは、訳の分からない力学で議員となり、長期間議席にしがみつく党利党略・自分ファーストの利権屋とでもいう存在だろうか。新党(政治団体)の掟は2期8年で、都政の利権構造に精通した頃には辞めるのだから、少なくとも新たに当選する「再生の道」所属の政治屋はいなくなる。
問題は、都議会127議席での多数派を目指すわけでもなく、自民・公明・都民ファーストで現有80議席の過半数割れ(63議席以下)を狙うわけでもないとしながら、自民から共産まで現職は党派を問わずノーチェックで新党に受け入れる方針だ。数の確保には好都合だが、選挙目当ての「政治屋」が紛れ込む可能性がないとは言えない。
折しも都議会自民党(政治団体)のパーティ収入等約3500万円と支出約2800万円の不記載が立件された。都議1人当たり100万円のノルマを超えた分が中抜きされたもの。自民議員25人が関わったものの、起訴されたのは会計実務を担う職員のみ。しかし、自民党内には公認の是非を含め激震が走っている。
石丸氏の会見ではさすがに不記載議員の受け入れまでは肯定しなかったが、自民現職は離党せずに「再生の道」公認となれる。当選後は党議拘束がないので自民会派と同じ投票行動が可能だ。
■ 変動が激しい傾向の都議選
都議選は変動が激しい傾向がある。2013年アベノミクスがスタートして間もなくの選挙は自民20議席増の59人、自公が全員当選の82議席。民主は28減の15議席。
第三極みんなの党は維新の会との選挙協力を解消したが、初挑戦で7議席を獲得した。候補者ごとのローカル・アジェンダも容認、YouTubeライブ配信のコンテスト方式候補者公募も行った。私自身、声を枯らして全候補の応援に行ったし、手厚い支援もした。
維新の会は1減の2議席。しかし、みんなの党の7人は、直後にみんなの党純化路線派4人と、維新合併派3人に分裂し、翌年の党解体の前哨戦となってしまった。
恥を忍んで言えば、前年から続いていた党内クーデター計画を見誤った私の失敗の教訓である。権力抗争の中で温情主義は裏目に出るのだ。
2017年の都議選は小池百合子知事が都民ファーストの会を作った。大勢の新人候補を擁立。私のベテラン秘書も新人の選挙指導に当たった。
都ファは連合の組織内候補も抱え、公明と選挙協力を行った。結果は55人当選の大勝利。自民は34議席減の23人と大惨敗。小池氏は「新進党」(新政党・日本新党・公明党・民社党の切り貼り新党)の亡霊に取り憑かれたかのようになった。
■ 議員が政党に縛られることの異常さ
いわゆる地域政党は数多くあるものの、議会で多数を占めた代表例は大阪維新の会と都ファだけだろう。いずれも首長主導で「二元代表制」という理念にはそぐわない。
二元代表とは、首長と議会議員を地方自治体の主権者たる住民が別々に直接選ぶ制度であり、首長・議会の両者に程よい緊張関係があることが前提だ(政治学者・大森彌)。首長選と議会議員選は有権者の投票行動が異なり、時には両者が全面対決になる不安定さも持ち合わせている。
一方、日本国は一元代表で衆議院の多数派が総理大臣を選ぶ。国会議員は選挙で選ばれた全国民の代表として位置づけられる。
「代表」とは誰かの「代理人」ではない。代理人は委任者のために働く一方、代表は自らの思想と信念に基づいて行動する。中世ヨーロッパの身分制議会は僧侶や豪族貴族などの各身分から命令を受けた議員で構成された。近代議会制の根本理念は「命令委任の禁止」に他ならない。
つまり、今風に言えば、議員は業界団体(農協、医師会、特定郵便局長会、経団連、労働組合その他)や選挙区の「手足」としてではなく、全国民のために働くことが求められる。それが国会議員に課せられた政治道義上の至上命令(義命)なのである。
実は、この近代議会制の根本規範と、政党に支配され党議拘束を受ける議員との矛盾相剋は、かなり深刻なテーマにもかかわらず、政治改革の中でほとんど議論されない。
タテマエ(規範)とホンネ(実態)で言えば、タテマエが消滅し、ホンネのみが残っている状態なのだ。車に例えると、ボディーがなくエンジンむき出し状態で車を走らせているようなものだ。その異常さに気づいていない。
それどころか、国政政党の系列化が二元代表であるはずの地方議会で当然のように行われてきた。
■ 構造的課題解決の可能性を秘める石丸新党
国政レベルで私が主張してきた解決策は、会社に会社法があるように政党のガバナンスを規定する政党法を作ること。そして、議会は政党の垣根を超えた個々の議員の政治信念に基づくクロスボーティング(交差投票)を認めること、である。
石丸氏は20〜30年先を見据えて都民の利益を最大化できる候補を擁立したいと語っていた。石丸氏の「青臭い」常識はずれのスキームを私なりに読み解くと、そこには現代民主制の構造問題が横たわっていることが分かる。
困った時「原理原則」に立ち戻ると、そこには必ず答えが書いてある。
地域政党「再生の道」は別に多数派を目指さなくて良いし、国政政党とは等距離と言っても実際の連携相手は維新だろう。都ファと同根の国民民主は今のところ様子見。受け入れ現職議員のクオリティを高めるのは、党首のワザ次第である。
議会運営に会派は不可欠なので、選挙前に「再生の道」会派を登録しておいた方が宣伝になるだろう。選挙後は会派の党議拘束をかけず、個々の議員の思想と信念と政策にお任せで良い。権力抗争とは無縁の党首はストレスも少ないに違いない。
「再生の道」には、あわよくば、都議会の中での「触媒」になってほしいと思う。つまり、自分自身は変わらないが、周りのものに強烈な化学変化を起こさせ、排気ガスの浄化もできるプラチナのような存在である。
そして、東京「都」の統治構造や一極集中が戦時体制で確立されたものであり、その改革(例えば首都機能移転や道州制・自治権拡大)が必要であることを訴える候補者が出てくれるとなお、結構だ。
渡辺 喜美
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