( 253046 )  2025/01/21 17:46:02  
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バラエティー番組「熱狂マニアさん!」がBPOの審査対象となったTBS(写真:yu_photo/Shutterstock.com) 

 

 「これは宣伝じゃないか——」テレビ番組の本編で、商品の広告宣伝をしている場面に出くわすことが実に多い。スポンサーに恩を売るのに躍起で、視聴者に見透かされようが、呆られようが構わずといった感じだ。 

 

 そんな中、放送倫理・番組向上機構(BPO)がTBSのバラエティー番組について、「広告と誤認される疑いがある」として、放送倫理違反の有無を調査するため審議入りした。果たして、BPOの目的である「放送業界の自浄機能の確立」に合致する判断がなされるのか。タレント中居正広氏の女性トラブルもあり、放送やテレビ局の体質に不信感が広がる昨今、BPOの判断は非常に重要な意味を持つだろう。 

 

 (岡部 隆明:ジャーナリスト) 

 

■ 放送時間のほとんどで「ニトリ」と表示 

 

 BPOの放送倫理検証委員会は、2024年10月19日に放送されたTBSのバラエティー番組『熱狂マニアさん!』について、「広告と誤認される疑いがある」として、審議入りすることを明らかにしました。番組では、インテリア大手「ニトリ」の商品を多数紹介するとともに、ほとんどの放送時間で、画面左上に「ニトリ」と表示されていたということです。 

 

 委員会は、放送倫理上の問題の有無を調べて結論を出します。なお、TBSは「審議入りの事実を重く受け止め、引き続き真摯に対応してまいります」とコメントしています。(1月10日朝日新聞デジタル) 

 

 このニュースに接して、TBSの別のバラエティー番組を思い出しました。それは、38年間続いた長寿番組『世界ふしぎ発見!』の後番組として、2024年4月にスタートしたマネーリサーチバラエティー『いくらかわかる金(かね)?』です。 

 

 その初回放送で、4つのコーナーのうち、2番目は「ニトリで一番買う人の購入金額はいくらかね?」というテーマでした。私は「これはニトリの宣伝だな」と思いながら見ていました。『ふしぎ発見』が好きだったこともあって、「浮かした番組制作費は、いくらかね?」という嫌味な感情さえも湧いてきました。 

 

 ゴールデンタイムのバラエティー番組の中で、これだけ会社と商品を宣伝してもらえれば、ニトリは大喜びするだろうと想像しました。「宣伝効果は、いくらかね?」と言いたくなるほど、宣伝の色彩が濃い展開でした。 

 

 こうして恩を売ることによって、TBSはニトリに対して、今後のCM出稿の増量・増額を期待したのでしょう。持ちつ持たれつ、相互互恵関係を築けるのかもしれません。「お値段以上」のメリットを双方が享受できたので、『熱狂マニアさん!』でも、再び甘い汁を吸おう、ということになったのではないかと邪推しています。 

 

 

■ 「CMはCMだとわかるように」が放送法の趣旨 

 

 TBSに限らず、他局でも同じようなことを平然と行っています。その背景には、放送広告収入が頭打ち、という民放の抱える経営課題があると思います。そして、放送法で明確に禁止されていない、という隙を突いている実態があると言えます。 

 

 放送法第12条では、CM放送について、「視聴者が『これはCMである』と、はっきりとわかるようにしなければならない」という趣旨の内容が書かれています。つまり、「CMはCMだとわかるように」放送せよ、ということです。一方、「番組本編で広告・宣伝をしてはならない」とか「番組本編でCM効果と同等のものを放送してはならない」とのルールはありません。 

 

 日本民間放送連盟(民放連)の放送基準では、「広告放送はコマーシャルとして放送することによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」と定めています。これを読み解くと以下のようになるでしょう。 

 

 <商品やサービスの広告について> 

・視聴者が番組本編と混同しないよう区別すること 

・視聴者が「これは広告だ」と、わかること 

・そのために、広告はCMの枠内で放送すること 

 

 しかし、放送されている番組を見る限り、民放各局がこれを遵守している印象はありません。「放送基準」は拘束力がなく、「努力目標」みたいなものという認識なのでしょうか。それとも、放送法と同様に番組本編内での広告を明確に禁じていないのを、いいように解釈しているのでしょうか。いずれにしても、広告収入の確保を最優先し、公共の電波の重みを忘れている姿は品位を欠いています。 

 

 私はBPOの判断を注視していますが、「広告と誤認される」ポイントを分量の問題にしてはならないと考えています。ほんの数秒であっても、広告は広告です。今回の審議対象になっている番組内でのニトリの商品紹介について、「多数紹介したから広告だ」という捉え方になるとすれば、それは違うと思います。 

 

 もし「広告の色合いが強くならないように」とか「過剰にならないように」といった、分量や程度の問題に矮小化すると、番組本編での商品紹介自体はBPOが是認することになります。つまり、「派手にやらなければOK」と、BPOが「お墨付きを与える」ことになるのです。 

 

 

■ 特定スポンサーのテレビCM制作現場をニュース番組で紹介していいのか?  

 

 私は、放送業界の将来にとって、都合よく拡大解釈できるような曖昧な決着にすべきではないと考えています。目先の利益は失うかもしれませんが、業界の健全な発展を目指すには、小狡い手法を排除すべきだと思います。 

 

 BPOが業界の論理に特段の配慮することなく、あくまで公共性に立脚して審議し、判断することを期待しています。BPOはNHKと民放連が作った、政治権力など外部からの介入に対する「防波堤」だとか、既得権益を死守するための「互助会」にすぎないという揶揄があります。BPOの目的の一つである「放送業界の自浄機能の確立」に向けて、どれだけ本気で取り組むのか、BPOそのものの存在意義も問われていると言えます。 

 

 そもそも、なぜこの番組だけがBPO審議入りとなったのか、理由は判然としません。これまでにも、明らかに宣伝のような内容を扱う番組はいくつもありました。そして、そういう番組が今も毎日、放送されています。視聴者の中にも、「何を今さら?」と感じる人が多いかもしれません。 

 

 実際に最近もそんな番組に出くわしました。 

 

 それは、ニュース番組で、ある食品メーカーのCMの製作現場を映したものでした。CMに出演しているタレントに焦点を当てる体裁をとっていますが、完成したCMをニュース番組の中で流すので、結局は商品の紹介をしていることと変わりません。 

 

 実に巧妙な仕組みだと感心してしまいましたが、「ニュース番組の中でCMを流して、特定スポンサーの商品を紹介する是非をどう考えるのか?」。そんな疑問をすぐに抱きました。私は前述した「ニトリ」と同様の問題だと思いました。 

 

 おそらくは「ただ、タレントの活動の一場面をエンタメ情報として伝えているのだ」「視聴者に有益な情報を届けているのだ」といった理屈なのでしょう。そんな理屈が成り立ってしまいそうなところが恐ろしいです。後日、その放送局で、当該のスポットCMが何度も流れているのを確認しました。 

 

 CM製作現場に潜入し、タレントのインタビューでエンタメ情報を装いながら、CMを番組本編で「堂々と」放送する、この新手の商品紹介が定番になるような予感がします。 

 

 

■ 中居正広氏の降板についてもまともな説明をしていない 

 

 今回のBPOでの審査を、放送業界の体質改善につながる機会にしてもらいたいと思います。旧ジャニーズ事務所の性加害問題が取り沙汰される過程で、放送局の「不作為」と「ご都合主義」が疑問視されました。 

 

 もやもやした空気が拭えない中、今度は中居正広氏の女性とのトラブルが発生しました。震源地のフジテレビだけではなく、放送局全体に対しても、不信と不審が募っています。中居氏の降板や番組休止について、民放各局は相変わらず横並びで、「総合的判断」として実質的に何も答えません。そういう、ご都合主義が不信感を招いていることを自覚したうえで、言動で健全さを示すことが求められているのではないでしょうか。 

 

 2024年の一連の選挙報道において、SNSの威力を実感する一方で、テレビや新聞の影響力が相対的に低下しました。その現象を捉えて、「オールドメディア」だと烙印を押されました。 

 

 「オールド」は、当初は旧態依然、時代錯誤といった文字通り「古い」という意味でした。ところが、このところ、不健全とか不埒といったニュアンスが付け加えられているように感じます。テレビ局や番組にまつわる、ちょっとしたトラブルでさえも、過大なマイナス評価となって、「これだからオールドメディアは…」と断罪されることが増えている気がします。 

 

 もちろん、報道系番組の中には安定した視聴率で推移しているものもあり、テレビの底力を感じさせます。テレビ視聴が生活習慣に組み込まれていると思われる中高年世代が主な支持層ではありますが、テレビはまだメディアとして重要な一角を占めていると言えます。 

 

 不確かな時代だからこそ、厳密な取材や事実確認を行って、確かな情報を発信しよう——。制作現場には、そうした信念で真摯に仕事に向き合っている人が少なくないはずです。そんな現場や視聴者を無視して、スポンサーが喜ぶ手法を繰り出すことばかりに注力する方向性は、どう考えても異常です。 

 

 近視眼的発想と内向き志向によって、放送業界は「ガラパゴス化」を極めてしまうのではないでしょうか。外界から隔絶されたガラパゴス諸島の生物のように、放送業界も規制に守られ、独自の「進化」を遂げてきました。 

 

 しかし、進化の形に歪みが現れているようです。このままでは、その歪みが、テレビに対する視聴者の負の感情を増幅してしまうのではないか…。そう危惧します。 

 

岡部 隆明 

 

 

 
 

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