( 253051 )  2025/01/21 17:52:45  
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 日本中の成績優秀な受験生たちが目指す国立大学の最高峰、東京大学。合格すれば、前途洋々の明るい未来が待っているーー受験生たちは、かたく信じて今日も勉学に励んでいるが、そんな時代も今や昔。東大卒を取り巻く社会環境は激変、新卒でも苦戦するケースが往々にしてあるのだ。エッセイストのトイアンナ氏が解説するーー。 

 

 人材不足のなか、東大卒でも内定できない人がいる。ある東大卒の女性が、悩みを告白してくれた。 

 

「納得内定をとりたかった」 

 

 と、彼女は語る。 

 

 島崎さん(仮名)は、2024年に東大を卒業した。成績は上位だという。周囲は国家公務員総合職として、官公庁の中でもトップクラスの現場で働いている。民間就職をしたゼミの同期は、総合商社や外資系コンサルティングファーム、インフラなど、手堅い有名企業へ内定した。 

 

 島崎さんが就活を始めたのは大学3年生の夏。周囲と同じように、夏インターンへ応募した。しかし、島崎さんだけが苦戦していた。 

 

「Webテストや、ES(エントリーシート)は通過するんです。多分1社も落ちてないですね。でもGD(グループディスカッション)や面接は全部落ちました」 

 

 その後、学部4年になってからの求人に応募するも、同じく面接で苦境が続く。10社ほど受けても内定が取れないことに傷つき、半ば引きこもり状態に。卒業はできたものの、就活はやり直しとなった。 

 

「本当につらいのは、卒業してからです……」 

 

 島崎さんは、そう語った。卒業後、一念発起して30社以上の求人に応募したが、書類すら通過しなくなったのだ。島崎さんは、当初想定していた大手メーカーへの応募を諦め、他業界へも応募した。しかし、それでも書類は通らない。 

 

「WebテストとESが強みだったのに、それも通らないんじゃどうしたらいいかなってなってて……。東大生の中でも成績はいい方なので、起業するしかないのかなって考えてます」 

 

 と、肩を落とした。ここまでご覧になって、「島崎さんが内定を取れなかったのは、面接やディスカッションのスキルが不足していたからだ」と感じたあなたは、残念ながら古い人間である。 

 

 日本は新卒至上主義だ。年功序列がなくなりつつある現在においても、新卒一括採用の文化は根強い。ベンチャーでも「新卒を採用できるようになりました」というと、いっぱしの企業扱いされるくらい、新卒採用イベントは定着している。 

 

 

 実際、2024年11月の一般的な有効求人倍率(季節調整値)は1.25倍。それに対し、2025年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.75倍である。有効求人倍率の数値が大きければ大きいほど、労働者1人あたりに集まる求人の数が多いことを示す。東大卒であることを除いても、既卒は明らかに不利なのだ。 

 

 さらに、既卒は「中途ですらない」ことがネックになる。中途採用は、これまでに培った実務経験で判断される採用プロセスだ。すなわち、これまでに就労経験がない既卒は応募資格こそあれど、不利になりやすい。 

 

「第二新卒」という、既卒向けの求人はある。しかし、この募集をかける企業は限られる。新卒にこだわりがない外資系企業やベンチャー、そして中小企業が中心となるのだ。古き良き日本の大企業に行きたい場合、第二新卒の門は狭い。こういった事情から、第二新卒専門に情報を集約した、大手Webサービスは存在しない。いわゆる「就活エージェント」を介して、限られた求人に応募するのが一般的である。 

 

 こういった事情を知っている東大生ならば、卒業前に「就職留年」の手続きを取る。就職留年とは、卒業単位を取得しきっているものの、就活を続けるためだけに留年を申請するものだ。就職留年さえすれば、「まだ学生です」という立場さえ確保すれば、新卒のステータスで就活を続けられる。島崎さんも、卒業前に就職留年すべきであった。 

 

 しかし、島崎さんはそうしなかった。なぜなら、友達が少なすぎて情報を得られなかったからである。 

 

 島崎さんは、友達が少ないほうだと自認する。 

 

「サークルは1年生のときだけ入ってたんですけど、ほとんど顔を出さなくて……。最後に友達と言えそうな人と遊んだのは大学2年生のときです。ゼミの子は割とガツガツしてて、勉強会を毎週熱心にやりながら就活もサークルも頑張るみたいな子たちで、ちょっと話しが合わなかったですね」 

 

 こういった事情から、島崎さんは就活情報をSNSやネット検索でしか得てこなかった。そのため、周囲が当然のように得ている「就職留年」のオプションを知らなかったのだ。 

 

 

 さらに、島崎さんはエージェントと契約すれば就活指導を受けながら求人を探してもらえることや、登録するだけで企業からオファーがもらえるサービスがあることなど「友達がいる2022年時点の就活生なら知っている情報」を逃していた。 

 

 筆者は2012年卒であり、当時の就活手段は限られていた。就活はリクナビ、マイナビのような大手求人サイトに登録し、どんどん応募していくスタイルに限られていたのだ。しかし、今の就活は大きく変わった。サービスに登録するだけで企業から「ぜひ面接を受けてください」と連絡がくる「逆オファー型」の求人も増えたほか、就職エージェント経由での内定も増えた。 

 

 人材不足だからこそ、企業はあの手この手で採用手法を増やす。そして、コミュニケーション能力が不足している人材であっても、適材適所に配置しようとする大手企業が増えた。「対面では話下手でも、メッセージのやりとりなら得意かもしれない」といった、配慮をしてくれる採用も生まれている。さらに今はAIが指導してくれる面接対策アプリもあるため、模擬面接を経ずとも面接の練習ができる。しかし、こうした最新情報が大学から手紙で届くなどということはない。就活では自ら情報を獲得しなければ“無い内定”になる。特にトップレベルの大学ほど、就活を学生の自律に任せている。そのため、友人や先輩づての情報が命綱になる。 

 

「夏インターンって、大手に応募が殺到するから東大生でも普通に落ちるらしいよ」 

 

「そうなの? じゃああくまで腕試しって感覚で応募したほうがいいのか」 

 

 島崎さんは、こうした日常会話から大量の情報を得られなかった。そのために、情報戦に負けたのである。 

 

 では、友人が少ない人間は就活を諦めるしかないのか。そんなことはない。もし、島崎さんが学生のうちに相談してくれていたら、私はこう伝えただろう。 

 

「まず、就活のLINEオープンチャットへ登録してください。Xでバリバリ就活情報を発信している方もフォローして。YouTubeで就活チャンネルも複数登録。次に、ワンキャリア、エンカレッジ、マイナビに登録してください。この3つは今就活生が使っているサービスです。企業を選ぶときは口コミサイト・OpenWorkの情報を読んで、自分に合う社風の会社を選んでください。いいところに内定しても、内定後に病んだら意味ないので」 

 

 

 今、周りが何をしているかはSNSでわかる。であればSNSで徹底的に情報をフォローすべきだ。また、同級生が使っているサービスはすべて登録するのが前提にあるだろう。 

 

 島崎さんはすでに卒業しているため、彼女の適性もうかがったうえで公務員試験、それもあえて地方上級公務員試験の勉強と、第二新卒向けのエージェント利用を勧めた。国家公務員や司法試験、公認会計士試験など一発逆転が狙えるほどの資格を狙ってしまうと、落ちたときにメンタルが耐えられない恐れがあるからだ。 

 

 また、仮に国家公務員になったとしても、年次の都合でかつての同級生の後輩・部下になることとなる。それもまた、精神的にはネガティブな影響を及ぼすだろうと懸念したためである。 

 

 島崎さんは口下手だが、変な人でも異端でもない。ただ、交友関係が狭かっただけである。そして、交友関係の狭さがキャリアに致命的な影響を与えうるのが、今の就活事情なのである。 

 

トイアンナ 

 

 

 
 

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