( 253081 ) 2025/01/21 18:21:39 0 00 (イメージ:show999/Shutterstock.com)
足元でガソリン価格が急騰している。引き金は補助金の削減だが、そもそもガソリン価格の高騰を招いている根本的な原因はほかにもある。国民生活に大きな影響を及ぼすガソリン価格は今後、本当に下がるのか?
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
国内のガソリン価格がこのところ上昇している。
経済産業省によれば、1月14日時点のレギュラーガソリンの店頭現金小売価格(全国平均)は1リットル当たり180.7円となっている。昨年12月のガソリン価格(約176円)に比べ5円ほど割高だ。
燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)の削減が決定されたことが主な理由だ。
ガソリン補助金はガソリン価格が1リットル当たり168円以上になったら支給されるもので、2021年1月からコロナ対策の一環として実施された。当初は3カ月限定だったが、同年2月末にロシアがウクライナに侵攻したことで原油価格が高騰したことを受け、現在まで続いている。
ガソリン補助金はエネルギー対策特別会計から支出されている。計上した予算は累計8兆円に達しており、「ガソリン補助金に頼りすぎだ」との批判が生まれていた。
政府は昨年12月19日、ガソリン補助金を1リットル当たり5円削減した。これによりガソリン価格は約5円上がったが、1月16日からさらに1リットル当たり5円削減され、2〜3週間後のガソリン価格は185円程度に上昇することが見込まれている。
政府の決定は「ガソリン補助金が『脱炭素』の妨げになっている」という海外の批判にも配慮した措置だろう。国際社会は欧州を筆頭にガソリン価格への補助を縮小・撤廃する流れとなっている。
今回の補助金の削減を踏まえても日本のガソリン価格は主要7カ国(G7)の中で米国、カナダに次いで安い。だが、日本ではいまだガソリン車が主流であり、ガソリン価格の値上げは家計への打撃は大きいと言わざるを得ない。
■ 暫定税率の廃止、本当にできるのか
2023年の1世帯当たり(2人以上)のガソリン消費額は約7万円だった。ガソリン価格が1リットル当たり10円上昇すれば、約4000円の負担増となる。
林芳正官房長官は16日の記者会見で「(ガソリン価格の上昇に対する)国民の不安の払拭に努めたい」と述べたが、多くの国民が期待しているのは、ガソリン税に上乗せされている「暫定税率」の廃止だ。
ガソリン価格が1リットル当たり180円の場合の内訳は、本体価格は107円、ガソリン税は53.8円(本則分は28.7円、暫定分は25.1円)、石油税は2.8円、消費税は16.4円だ。
昨年12月11日の自民党・公明党・国民民主党の合意文書で「ガソリン税の暫定税率を廃止する」ことが明記された。これが実施されれば、家計の負担は年間9000円以上軽減するとの試算がある。
合意は成立したものの、具体的な議論はまとまらず、2025年度の与党税制大綱には暫定税率の廃止は盛り込まれていない。
暫定税率は1974年、道路整備の財源不足に対応するために導入され、現在は一般財源に充当されている。これを廃止すれば、税収は年間約1.5兆円減少することから、財政当局の抵抗が大きいことは容易に想像できる。暫定税率が廃止されるかどうか予断を許さない状況となっているのだ。
ガソリン価格の高止まりが懸念される中、環境の変化にも注目する必要がある。
■ そもそも円安が大きな原因
ガソリン価格は180円超えになったのは2008年以来のことだ。
2008年8月のガソリン価格は1リットル当たり182円となったが、ドル建て原油価格の高騰が主要因だった。米WTI原油先物価格(原油価格)は一時、1バレル当たり147ドルに跳ね上がっていた。
一方、今回のガソリン価格上昇の主たる原因は円安だ。2008年当時の為替レートが1ドル=100円台後半だったのに対し、現在は150円台後半だ。ドル建て原油価格は70〜80ドルと2008年に比べて格段に安い。
「トランプ政権の誕生で円高になる」との観測が出ているが、筆者は「円安基調は当分変わらないのではないか」と考えている。「貿易収支の黒字が円高を招く」というパターンが長年続いたが、日本の貿易収支は今や赤字基調となっているからだ。
為替取引の大半は投機に基づくものだが、貿易収支の動向が大きな影響を与えると言われている。今後、円高に転じる可能性は低いのではないだろうか。
このことは円の原油に対する購買力の低下を意味する。
日本はこれまで以上に安価な原油を調達する必要に迫られている。
■ 安い米国産原油の恩恵を受けられていない
日本の原油輸入の中東依存度は95%を超えている。元売り企業が安価な原油調達に努めてきた結果だが、最近、中東産原油は割安ではなく、むしろ、割高になっている。
中東産油国が原油価格の安定を目的とした減産を実施しているため、品質の良い米国産原油の方が安くなっているからだ。価格差はバレル当たり4ドルにまで広がっている。
このことにいち早く注目したのは韓国企業だ。政府の支援も功を奏して米国産原油の輸入量は日量約50万バレルに拡大している。原油の調達コストを下げるとともに、中東依存度も70%程度にまで低下させることに成功している。
これに対し、中東産原油を処理することに適した設備を多く保有する日本企業の対応は消極的であり、割安となった米国産原油の恩恵を享受できていない。さらに、情勢が不安定化する中東産原油の供給途絶に最も深刻な影響を受ける構図のままだ。
ガソリン価格の安定のためには今後、原油調達の最適化を図る政策も併せて実施していくことが必要なのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦
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