( 253501 )  2025/01/22 16:21:46  
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 フジテレビに大激震が走っている。米大リーグ・ドジャースで活躍する大谷翔平選手の“新居報道”など相次ぐ突撃取材で批判を浴びていたかと思ったら、今度はタレント・中居正広氏をめぐるトラブルにフジ幹部が関係していたとする週刊誌報道で窮地に立たされているのだ。港浩一社長は1月17日の記者会見で謝罪の言葉を並べたが、フジ株を保有する米ファンドは外部専門家で構成する第三者委員会の設置を要求。さらに“天敵”である「あの男」も緊急参戦する意向を表明した。スポンサーもCM枠から次々と降り、ACジャパンの広告が増える。フジテレビが放送する番組の経済アナリストの佐藤健太氏は「これからの株主総会などは大荒れになるだろう」と見る。 

 

「一連の報道により視聴者の皆様をはじめ、関係者の皆様に多大なご迷惑、ご心配をおかけしていますこと、現在まで弊社から説明ができていなかったことにお詫び申し上げます」。東京・台場のフジテレビで行われた記者会見で、港社長は中居氏のトラブル問題に言及し、このように謝罪の言葉を並べた。 

 

 昨年末、一部の週刊誌が中居氏の女性トラブルを報道。その後も女性アナウンサーがフジ幹部から中居氏との「飲み会」に誘われたなどと続報が報じられ、フジテレビのトップによる初めての説明に注目が集まった。だが、港社長の会見に参加できたのは「記者会」に加盟する約20社の30人超だけ。ウェブメディアやフリージャーナリストらは“排除”され、生配信も行われない「閉鎖的な会見」となった。 

 

 忖度せずに言えば、一体なにを考えているのだろうか。そして、フジテレビは何様のつもりなのか。日頃は報道機関として政治家の不祥事や芸能人のスキャンダルなどを報じ、「説明責任を果たすべきだ」「責任の所在はどこにあるのか」「再発防止策を徹底せよ」と厳しい言葉で追及しているにもかかわらず、自分たちが“取材される側”になるとクローズ会見にするとは呆れてしまう。テレビ局がテレビカメラも入れずに取材させるというのは冗談でしかないだろう。会場が狭いならば、自社の巨大スタジオを使用すればいいではないか。 

 

 会見終了後に配信された「中日スポーツ」の記事によれば、港社長は「第三者の視点を入れて改めて調査を行う必要性を認識しましたので、今後、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げることとしました」と説明した。 

 

 

 ただ、「調査委員会の調査に委ねることとなり、社長の私自身も今後調査を受ける立場となるため、この場での説明には限りがございます」などと、ことわりを入れたのだという。 

 

 中居氏の女性トラブルについては「直後に認識していた」とし、2023年6月下旬から「(被害)女性の心身のケアを最優先に考えていた」と説明。女性は同局社員に相談し、港社長にもトラブルが報告されていたことを認めた。その上で「女性が私たちの思いとは別の受け止め方をされているとの報道もあり、今となっては、対応が適切だったのかと思うところもあります。会社の責任を矮小化するつもりはなく、そのため第三者委員会に調査を行っていただこうと思います」と話したという。 

 

 ただ、港社長は詳しい事実関係の説明は避け、これから立ち上げる第三者委員会で調べると繰り返した。今回のトラブルをめぐっては、中居氏が1月9日にホームページ上で声明を発表し、「双方の代理人を通じて示談が成立し、解決していることも事実です。 解決に至っては、相手さまのご提案に対して真摯に向き合い、対応してきたつもりです」と説明した。また、「このトラブルにおいて、一部報道にあるような手を上げる等の暴力は一切ございません。なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました。 また、このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」と記している。 

 

 週刊誌報道はフジ幹部がトラブルに関係したとするが、フジ側は一貫して否定し続けてきた。港社長は記者会見でも「打ち上げも、レギュラーや準レギュラーで出ていたアナウンサーもいますし、親睦会や打ち上げというのは皆さんもやられること。とはいっても自由参加ですから」と説明。「来たい人は来るし、用がある人は来ないし、そういうスタンスでやってきました」とフジの社風を強調した。 

 

 もちろん、中居氏の行為自体に法令上の問題が含まれていなければ、フジ幹部が関わっていたとしても罪に問われることはないのかもしれない。「示談が成立している」ということも考えれば、当事者間には一定の合意があるのだろう。ただ、それならば中居氏の出演番組をなぜ休止したり、出演シーンがカットされたりしているのだろうか。港社長は全社員に「今こそ、我々は意識改革を行い、会社全体が変わっていかなければなりません」と説明したというが、一体なにをどのように改善するつもりなのかはわからない。 

 

 

 フジ株を約6%保有し、第2位の株主とされる米ファンドのダルトン・インベストメンツは1月14日付の書簡で、フジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(HD)に外部専門家による第三者委員会を設けるよう要請した。アトム法律グループ創業者で代表弁護士の岡野武志氏も1月15日の「X」(旧ツイッター)に、「女子アナ献上カルチャーの問題、会社の価値を毀損しているので、株主総会への議案として提出した方がいいと思います。本物の弁護士が無償でお手伝いするのでDMください」と投稿し、株主総会で共闘するよう呼びかけた。 

 

 フジをめぐる一連の動きには「天敵」であるホリエモンこと実業家の堀江貴文氏も“緊急参戦”する意向を表明した。堀江氏は1月16日の「X」で、「株買って総会行こうかな」と投稿。翌17日には「朝イチでチケットげっと!」とつづり、フジ・メディアHD株の購入を進めていく考えを示している。 

 

 堀江氏と言えば、20年近く前にフジテレビの経営権奪取を計画し、フジ株を保有するフジサンケイグループのニッポン放送の株の大量取得を試みた。同グループは敵対的買収への防衛策を講じ、堀江氏による支配から逃れたのだが、堀江氏はその後「フジ出禁」になったとの噂に「デマじゃないと思う」などと語っている。フジ側にとって堀江氏は“天敵”とも言える存在なのだ。 

 

 数々の事業を打ち出す堀江氏には加勢もある。かつて共に仕事をしていた実業家の田端信太郎氏は1月16日の「X」に、「堀江さん!僕も6月のフジテレビに株式総会に行くための入場チケットと思って、今日、フジメディアHDの株を買いました!いっしょに行きましょう!!みんなで行って質問しまくる!」と参戦。岡野弁護士も「自分で買うことにしました」と声を上げ、フジ株を購入する動きがSNS上で加速している。約20年ぶりの「ホリエモン対フジテレビ」の対決は注目されるところだ。 

 

 インターネットやSNSの利用が当然の時代、港社長による記者会見への参加が「記者会加盟社のみ」に限定されたことは残念でならない。地域政党の立ち上げを発表した元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏の会見でも「フリージャーナリストが参加できず、排除された」と話題になったばかりだが、フジ側はこうした姿勢を今後は二度と批判できないだろう。 

 

 

 フジテレビと言えば、昨年も様々な物議を醸した。大谷選手が米ロサンゼルスに購入したとされる「新居」を突撃取材し、報道局が制作する夕方のニュース番組『Live News イット!』は近隣住民のインタビューなどを断行。住所特定につながると問題視され、港社長は「大谷選手とご家族、関係者の皆さまにご迷惑をおかけし、大変申し訳なく思っている」と謝罪に追い込まれた。大谷選手は報道に激怒したとされ、ワールドシリーズ優勝後のインタビューを拒否したとも伝えられる。 

 

 また、昨年11月の兵庫県知事選で返り咲きを果たした斎藤元彦知事から「広報全般を任された」とアピールしたPR会社の社長に対しても自宅突撃を強行し、インターホンを押すなど“雲隠れ”状態を強調した。さらにドジャースが世界一となった大リーグ・ワールドシリーズのダイジェストを日本シリーズ開催時間帯に放送。これには日本野球機構(NPB)が「信頼関係が著しく毀損された」と問題視し、取材パスを没収する騒ぎとなった。「ふてほど」エピソードが続いているのは、本当に偶然なのだろうか。 

 

 2021年には、フジテレビやニッポン放送などを傘下に持つフジ・メディアHDが2012年9月末から2014年3月末にかけて、放送法などで定める外資比率規制に違反していた可能性があったと発表。ガバナンスや番組制作のチェック体制などの問題が指摘されてきたところだ。筆者の知る限り、フジテレビの局員は「昭和の体育会系」を感じさせる人が多い。明るく、親近感を抱くコミュニケーション能力の高い社員がほとんどなのだが、その一方で「視聴率ありき」「偉そう」といった批判も聞こえてくる。 

 

 先輩・後輩、上下関係がはっきりしている点も特徴だろう。ただ、昭和時代には今では考えられない「体質」が見逃されてきたのかもしれないが、少なくとも現在はコンプライアンスやガバナンスがこれまで以上に求められる時代だ。プライバシー侵害や個人情報の保護、ハラスメント防止といった点も置き去りにはできない。いざという時のチェックやブレーキ役を誰が担い、トラブルの発生前にいかに止めるのか体制や意識が問われている。 

 

 かつては「メディアの雄」といわれたフジテレビは変わることができるのか。米国やフランス、ドイツなどの海外メディアも注目する中、閉ざされた取材空間でトップから本気度を感じることができなかったのは残念でならない。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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