( 253521 ) 2025/01/22 16:46:34 0 00 フジテレビへのCM差し止めの動きが拡大している。ネット上では「倒産するのでは?」との声も出ているが…(撮影:今井康一)
■フジの対応についてスポンサーがCMを差し止めた
現在、フジ・メディア・ホールディングス、ならびにフジテレビが注目を浴びている。
きっかけはご存じのとおり、中居正広さんが女性とトラブルを起こしたことが原因だ。
説明は不要であろうが、フジ・メディア・ホールディングスの傘下にあるフジテレビに属する社員が、女性アナウンサーとの飲み会をセッティングしたとされ、その後にドタキャン。中居さんと、その女性アナウンサーとのあいだで飲み会は実施されたが、両者のあいだでトラブルに発展した……などと報じられている。
このトラブル自体は両者が認めるものだが、詳細な真相はわからない。さらにフジテレビの社員が積極的に関与したり、さらに過去から類似の関与を繰り返したりしたかはわからない。
疑念はあるものの、フジテレビはこれから第三者的な委員会を設置して調査するとした(※後に、「第三者委員会も選択肢」との報道が出ている)。
しかし、その記者会見は大いに批判をあびた。その記者会見が記者を限定した閉鎖的なものだった理由だけではない。どこかその会見は自主性がないように感じられたためだった。調査はすべて第三者的な委員会に委ね、自社が良かったか悪かったかは任せたい(大意)とした。
本来ならば、自社の倫理について線引きがあり、自ら定めたポリシーを信念として企業活動をしそうなものだ。
しかし、現状について、自らの判断はとくになく、偉い弁護士先生に調べてもらったら、現在の良し悪しが明らかになるだろう、というスタンスだった。
■企業のCM出稿停止が相次ぐ
そこで多くの企業はCMを差し控えた。現在は自社のCMをACに置き換えている企業がある。スポンサー費用は返還されないだろうが、CMを流すことでのブランド毀損と天秤にかけたのだろう。CMを流して得られる便益よりも、CMを止めるメリットのほうを大きく見たのだ。
もしかすると次の契約更新時には、更新を控えるかもしれない。それはこれからのフジテレビの対応によるだろう。
なお、現在、フジテレビが倒産する、と断言する論者がいる。だが、私はそう思わない。企業は現金があれば倒産しない。また、フジテレビはフジ・メディア・ホールディングスの傘下の企業であり、フジテレビが不振に陥っても、金融機関等が助ける可能性が高い。
さらに、不振だとしても、経営陣が代わったり、金融機関に融資をお願いしたりすることで存続が図られるだろう。
なにより、倒産して8チャンネルが不在になるとは信じられない。それはもしかすると、私がフジテレビの復活を願っているからかもしれない。
■フジテレビの経営状況は?
ところで、ホールディングス会社のフジ・メディア・ホールディングスの決算情報とは別に、子会社であるフジテレビの経営状況の全体像を把握するのは難しい。
ただし、最新の決算書から子会社のフジテレビの経営状況を見ると次のとおりだ。
期/2022年/2023年/2024年
売上高(単位:百万円)/238,240/237,400/238,219 営業利益(単位:百万円)/11,280/7,677/5,433 営業利益率/4.7%/3.2%/2.3% ここ数年、営業利益率は下落している。
また、私が注目したのがスポットCMの売上高だ。スポットCMとは、その都度に注文されるものだ。メディアに不祥事が起きたときにもっともキャンセルされやすい。
期/2022年/2023年/2024年
スポット収入(単位:百万円)/88,814/80,506/73,662 スポット比率/37.3%/33.9%/30.9% 年々減少しているものの、上記のように相当に高い。そこで、スポット収入の額と営業利益を比較してほしいのだが、はるかにスポット収入が大きい。
これは説明するまでもないが、スポット収入がなくなると、営業利益=本業での利益、がすべて吹っ飛ぶどころか、営業利益の10倍くらいにいたる。
現在、CM差し替えが50社くらいにいたっているという。どのような契約だったかは、正確にはわからない。しかし、そのうち大部分がスポットCMもスポンサードしているはずで、この影響は小さくないと予想できるだろう。
このスポットセールスがあまりにも比率が大きかったために、監査法人も「収益認識」として有価証券報告書に多くを割いて記載しているほどなのだ。
まとめると、「倒産」は現時点では非現実的だが、「赤字」は十分にありうると言えそうだ。
■スポンサー企業との契約は自由
なお、これまた当然であるが、民間同士の取引は自由意志に基づく。
現時点では、フジテレビが組織として悪しきことをしていたかはわからない。また、疑わしきは罰せずという言葉があるように、今の時点で、同社を断罪するのは早いのではないか、とも思う。あくまで、調査の前に臆測で物を申すのは控えなければならない。
ただ同時に、スポンサーであり続けるか否かも自由だ。フジテレビの対応を鑑みて、CMを差し替えたり、継続の契約を締結しなかったりするのも、やはり自由と言わざるをえない。
すでに、第三者委員会の設置も選択肢との報道も出ているが、一旦、「第三者『的』な委員会」しか設置しないとの意思を示したことは、スポンサーにはネガティブに受け止められた可能性が高い。「事件の真相を追求しないのではないか?」と感じた企業もいたのではないか。
そして彼らが、CMを引き上げるのは、それは企業としての判断としかいえない。それは批判するべきではない。「CM費用を出し続けるべきだ」と支出の強制はできない。
もちろん「フジにCMを出し続けるほうがいい」と主張するのも自由だし、実際にそうかもしれない。CMを止めたら収益が激減するかもしれない。それも企業の選択次第だ。また、下がってもしかたがない、と考えることも企業の自由だ。
ただ、第三者はいつでも無責任なことをいうから、自社のブランディングと収益を守るために、企業は第三者の意見に左右されずに信念にそって判断をするのがいい。
ところで、これからフジテレビは第三者委員会、もしくは第三者的な委員会を作って、中居正広さんの“事件”について調べることになる。ただ、中途半端な報告書では、世間どころか株主が満足しないだろう。なによりスポンサー企業が納得しない可能性がある。私はフジ・メディア・ホールディングスの株主(しかし最低限の単元株のみ)だが、私もやや不満に思うかもしれない。
なぜ第三者委員会の報告書が必要になるのか。それは、これから企業の不祥事について株主訴訟などが生じた場合は、誰に真因があるのかを明確化するためでもある。
たとえば第三者委員会の資料が経営陣の責任を問わないのであれば、それは経営者が賠償責任を免れるだろう。逆に第三者委員会が経営陣の責任を認定するなら、経営陣が賠償責任を負うだろう。
だからフジテレビの経営者が、今回の事件について責任がないと信じるのであれば、笑ってしまうほど厳しい第三者委員会を設置して、自らの潔白を証明するほうがいい。それが企業のシロを喧伝することになる。
私はひとりの株主として、徹底的な調査で洗いざらいを公開してほしいと願っている。企業にトラブルはつきものだ。あとは、これを今後の成長につなげてほしい。
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坂口 孝則 :未来調達研究所
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