( 253531 ) 2025/01/22 16:59:18 0 00 自転車(画像:写真AC)
自転車は単なる移動手段ではなくなりつつある。特に都市部では、自転車がその人のライフスタイルや価値観を表すアイテムとして見られることが増えている。どんな自転車を選ぶかは、その人の個性や立場を示す重要な選択肢になっている。年齢や性別が絡むと、自転車に対する評価がさらに厳しくなることもある。
最近、ネットで見た投稿で、中年男性とおぼしきある男性が
「大人でママチャリって貧乏くさくてダサいですか?」
と質問していた。投稿者の妻は、「ママチャリじゃなくてスポーツタイプの自転車に乗ってほしい」と頼み、その理由に
「貧乏くさい」 「おっさんっぽい」 「正直恥ずかしい」
といった感情を挙げていたという。こうした価値観が広がっている背景には、社会的なステータスや自転車に対するイメージの変化が影響しているのかもしれない。
自転車(画像:写真AC)
「ママチャリ」とは何かをまず定義する必要がある。
ママチャリは、主に日常の移動に使われるシティサイクル(シティバイク)のことだ。特徴として、前かごが付いており、安定性や実用性を重視した設計が挙げられる。日本では特に、子どもの送迎や買い物といった日常生活のなかで使われる自転車として定着している。そのため、
・地味 ・庶民的 ・おばさんっぽい
といったイメージを持たれることが多い。
一方、映画『PERFECT DAYS(パーフェクト・デイズ)』(2023年制作、ヴィム・ヴェンダース監督)で役所広司(69歳なので高年だが)が乗っていた自転車は、前かご付きのシンプルなデザインだった。「Rudge-Whitworth」という英国メーカーのヴィンテージ品らしいが、前かご付きで、劇中では洗濯物を乗せて走るシーンもあった。自転車マニアでもないかぎり、その使われ方を考えればママチャリに近いといえるだろう。しかし、この自転車を役所広司が街並みに自然に溶け込ませ、
「かっこいい」
と感じさせたことは興味深い。これは、アイテムの使い方次第でその印象が大きく変わることを物語っている。シンプルな自転車でも、使い方や持ち主の振る舞いによって、全く異なる印象を与える好例だ。
プラネットが2021年に実施した調査。インターネットを通じて4000人が回答した(画像:プラネット)
興味深いのは、男性と女性で自転車に対する価値観が異なる点だ。
日用品流通の情報基盤を運営するプラネット(東京都港区)の2021年調査によると、男性が自転車を使う主な目的は「買い物」(79.8%)が最も多く、その次に「気分転換やリフレッシュ」(34.0%)が挙げられている。
一方で、女性も「買い物」(90.9%)が主な目的ではあるが、男性に比べて「気分転換やリフレッシュ」(14.0%)の割合が低く、代わりに「子どもの送迎」(4.3%)など、家庭的な用途で使う傾向が強いことがわかる。
また、使用する自転車の種類にも違いがある。男性は「クロスバイク」や「ロードバイク」といったスポーティな自転車を選ぶ割合が比較的高いのに対し、女性は「シティサイクル(ママチャリ)」を選ぶことが男性より6ポイント多い(男性は67.5%、女性は73.7%)。この違いには、男性が自転車を「運動」や「ステータス」の一部として捉える傾向があるのに対し、女性は
・実用性 ・日常生活の延長
として選ぶという文化的背景が影響していると考えられる。
自転車(画像:写真AC)
重要なのは、なぜスポーツタイプの自転車が「かっこいい」とされ、逆にママチャリが冒頭のように「貧乏くさい」と見られるのかだ。実際、これは単なる自転車の性能やデザインの違いだけでなく、社会的な価値観やメディアの影響によるものが大きい。
現代の消費文化において、高価でスポーティな自転車は
・健康的 ・アクティブ ・洗練された
といったポジティブなイメージを持たれ、対照的にシティサイクルは「庶民的」「地味」といったネガティブな印象を与えることが多い。
一方で、ママチャリに乗ることが必ずしもネガティブな評価を受けるべきものではない。実際、ママチャリを愛用する多くの人々にとって、その自転車は日常生活の一部であり、非常に便利で実用的な道具だ。さらに、
・シンプルな生活 ・持続可能なライフスタイル
を重視する人々にとって、ママチャリはむしろ高い評価を受けることもある。
自転車(画像:写真AC)
結局、自転車の「かっこよさ」は、見た目や種類だけに左右されるものではなく、その自転車をどのように使いこなすかが重要だといえる。
『パーフェクト・デイズ』で役所広司がシンプルな自転車に乗るシーンは、そのことを象徴している。彼が乗るシンプルな自転車が街並みに溶け込み、観客に「かっこいい」と思わせるのは、彼自身のキャラクターやその使い方に魅力があるからだ。
自転車は単なる移動手段でありながら、使い方次第で多くの価値を生み出す道具でもある。だから、ママチャリに乗ることが必ずしもダサいわけではなく、その自転車をどのように使い、楽しむかが重要だ。
自転車に対する価値観は、時に社会的なステータスやイメージによって影響されることがあるが、最も大切なのは自分自身のライフスタイルに合った選択をすることだ。どんな自転車を選ぶか、そしてその自転車をどのように活用するかは、その人の個性や価値観を表現する方法でもある。
ママチャリに乗ることを「貧乏くさい」と感じる人もいれば、シンプルで実用的なそのスタイルに共感する人もいるだろう。最終的には、自転車に乗ることを楽しみ、その使い方を工夫することで、自分らしい「かっこよさ」を見つけられるのだろう。
作田秋介(フリーライター)
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