( 253571 )  2025/01/22 17:41:39  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

貯蓄をすることがなによりもの喜びだった夫。収入は平均的にもかかわらず、おかげで老後資金もしっかりと貯めることができました。しかし、マネープランを夫婦の双方が納得しているとは限らず……。本記事では、柴田さん(仮名)の事例とともに、夫婦のマネープランについてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。 

 

柴田弘さん(仮名/65歳)は定年退職を迎え、妻の冴子さん(仮名/64歳)とともに年金生活を送ろうとしていました。現役のころからこれといった趣味はなく、人付き合いも苦手で交際費もほとんど使わず、コツコツ貯めたお金が毎月毎月積み上がっていく通帳を見ることがこの上ない喜びに感じていました。 

 

柴田さんは会社で加入していた確定拠出年金や個人年金保険と合わせ、退職時には1億円を超えるほどに達していたのでした。年金も月額18万円を受け取ることができ、また妻の冴子さんが65歳になれば2人で27万円程度になる予定で、比較的ゆとりのある老後を送れると考えていました。 

 

柴田さんの節約ぶりは徹底しています。「生命保険は保険会社を儲けさせるだけでムダ」と個人年金保険以外は一切入りませんでした。個人年金保険は若いころに加入し、利率は4%程度。65歳からは、10年にわたり月14万円程度受け取ることができます。 

 

マイホームも無駄だからと家族がやっと暮らせる程度のアパートの一室、携帯料金も真っ先に格安に変えて最低限のプラン、会社帰りにスーパーで半額になった食材を買いだめして冷凍庫で保存するなど、あらゆる方法で倹約してきました。2人の子供たちの進学先も、自宅から通える範囲の国立大以外は許さないと宣言し、柴田さん自ら子供たちの勉強を管理。見事2人とも国立大学に合格しました。就職先が決まって卒業すると、すぐに一人暮らしを始めさせました。 

 

平均的な収入のサラリーマン夫婦が1億円以上の資産を創ることができたのはそんな節約生活の賜物です。現在も資産を減らさないようにと一切のムダを省いて生活し、夫婦2人の生活費の合計は家賃を含めても月に20万円にも満たない程度に抑えていたのでした。 

 

そして、退職を迎えた3日後、妻からまさかの申し出が……。 

 

 

退職から3日後、通勤から解放された柴田さんは朝7時過ぎまでゆっくり眠って起床しました。朝食を済ませて珈琲を飲みながら新聞を読んでいると、妻の冴子さんから「大事な話がある」と声を掛けられました。 

 

そこで冴子さんから差し出されたのは離婚届け。冴子さんの口から語られたことは、結婚当時から夫の厳し過ぎる倹約生活をずっと我慢してきていて、残された人生の時間は自分のために使いたいというものでした。 

 

子供たちが小さいときから家族旅行もあまりせず、子供たちが大きくなってからは夫婦2人で出掛けることもまったくなかったこと。一家のサイフの管理は柴田さんがすべて仕切っていたため、冴子さんがたまに友達と旅行に行きたいといっても、1円単位で旅行の予算を提出しなければならなかったこと。クレジットカードで購入した履歴もしっかりチェックされ、レシートと付け合わせて一つひとつなにを購入したかチェックされていたこと。冴子さんはずっと窮屈な思いをしていました。 

 

そんな生活についに限界を感じ、冴子さんは退職までにずっと離婚の準備を続け、柴田さんに対し結婚後に築いた資産の半分と、厚生年金の金額の半額を要求します。 

 

「いやいや待てよ! 働いてきたのは俺だぞ。こんなにカネを貯められたのも俺が管理してきたおかげじゃないか。1億円が半分になるなんて冗談じゃない!」柴田さんはありったけの声で叫びました。 

 

双方弁護士を立て、そもそも離婚に反対だった柴田さんは離婚に応じる姿勢もありませんでしたので協議は難航しました。しかし、1年以上の調停の結果妻の冴子さん側の主張に近い内容にて決着したのでした。 

 

離婚時の財産分与 

 

離婚時には結婚後に2人で築いた財産の半分と、結婚後に掛けてきた厚生年金部分の半分を受け取る権利があります。今回の場合、冴子さんが家庭を支え、自分でもパートをして収入を得て、さらには柴田さんの厳しい監視のもとで節約生活を続けてきたために柴田さんは1億円もの資産を創ることができたと考えられます。そのため、冴子さんの主張に近い形で調停が決着することになったのでした。 

 

また、離婚の主な要因は冴子さんの気持ちを考えずに自分の生活スタイルを強いてきた柴田さんにあるといえるでしょう。お金の使い方は人それぞれで、しっかり計画を立てて、自分たちの望む生活を送ることができるよう管理していくことが最も重要です。 

 

しかし、人生はどれだけ多くお金を残せるかを競い合うゲームではありません。大事なことはなんのために使い、なんのために貯めるのかが、目的でしょう。そのために優先順位をつけてお金を管理していくかが大事です。 

 

そういったビジョンや価値観を共有せず、支出を厳しく管理してしまうスタイルを続けていたことが、結果的に資産の半分と厚生年金の半分を失うことに繋がったといえます。人間関係が壊れることでこのように資産を大きく減らしてしまうこともあります。 

 

 

今回は倹約生活で大きな資産を創ることができたが、離婚により半分を失ってしまった柴田さんの事例をご紹介しました。 

 

司法統計「令和2年度 婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所)」によると、離婚原因として多いものは男女ともに「性格が合わない」という理由が1位で、「生活費を渡さない」「浪費する」といった夫婦のお金の考え方も上位に入るものです。どちらかといえば、配偶者のどちらかが浪費をしたりお金を渡さなかったりといった理由が多く、柴田さんのような事例は少数派ではありますが、お金に関する価値観の違いで離婚に至っていることが多いことはわかりますね。 

 

お金は使うためにありますので、自分たちの望む人生を実現できるように計画を立てて収支を管理することができるのでしたら、価値観は違えどお互いに好きなことにお金を使ってもいいのです。 

 

別の人間なのですから考え方も価値観も違って当たり前です。家計が厳しい状態であれば柴田さんのように厳しく支出管理をすることが必要な時期もありますが、そうでなければそこまで厳しく管理されるような状況が続けば窮屈に感じてしまうのも無理はありません。 

 

お互いに望む生活を見える化し、それを実現するために収支を管理しながらもお互いの価値観を尊重しつつ、満足できる人生設計を考えることが大切ですね。 

 

小川 洋平 

 

FP相談ねっと 

 

CFP 

 

小川 洋平 

 

 

 
 

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