( 253581 )  2025/01/22 17:54:49  
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夢洲(画像:写真AC) 

 

 2025年4月13日に開幕する大阪・関西万博まで、3か月を切った。2025年1月19日には、万博会場へ唯一の鉄道路線である大阪メトロ中央線の新駅「夢洲(ゆめしま)駅」が開業した。 

 

 万博の来場者目標は約2820万人で、開催期間中に新駅の利用者は最大で1日13万人以上になると見込まれている。さらに、海外からの来場者を後押しするかのように、米国の有力紙ニューヨーク・タイムズが先日、「2025年に行くべき世界52都市」に日本の富山市と大阪市を選出した。 

 

 万博の準備が進む一方で、大阪府と大阪市は万博閉幕後の跡地活用を検討し、2024年9月に民間提案を募集した。対象となるのは、大屋根リングが設置される約50ha(一辺が707mの正方形と等しい)のエリアだ。応募された3件のなかから、万博の理念を継承した未来リゾート構想と、大林組など6社が含まれる 

 

「サーキット建設構想」 

 

の2案が優秀提案として選ばれた。サーキット構想に関して選定会議は、モータースポーツの実施に加え、大阪全体の関連産業への波及・育成効果を期待する意見や、イベントでの幅広い活用を可能にし、万博跡地のまちづくりとして適切な計画であると評価した。 

 

 万博跡地にサーキットを建設することが、夢のある提案なのか、それとも環境や経済にリスクをともなう構想なのか。万博跡地の活用を契機に、日本におけるモータースポーツ領域をどのように広げていくのかを探っていく。 

 

 サーキット建設構想が誰に利益をもたらし、どのような目的を達成しようとしているのかを考えると、その意義について一定の理解を示すことができる。なぜなら、大阪観光局・大阪モータースポーツ推進協議会がF1招致計画を進めており、この計画がサーキット建設構想の根底にあることは明白だからだ。 

 

 しかし、日本にはすでに大小合わせて10か所以上のサーキットが存在する。世界的に著名なサーキットでF1開催実績もあるのは富士スピードウェイと鈴鹿サーキットだが、その他にもスーパーGTなどの国内レースが開催されるツインリンクもてぎ、岡山国際サーキット、スポーツランドSUGO、オートポリスなどがある。関西地方には大規模サーキットがまだ存在しないが、多数のサーキットが存在するなか、新たなサーキット建設構想には疑問が持たれるのも無理はない。 

 

 そこで、筆者(成家千春、自動車経済ライター)としては 

 

・梅田や難波など大阪市中心部 

・大阪湾地域での市街地 

 

のコース開催を提案したい。課題として騒音や交通混雑などがあるが、マシンに電気自動車(EV)が使用されるフォーミュラEなら騒音問題を解決できる可能性がある。 

 

 また、東京で開催されたフォーミュラEの運営ノウハウを活用すれば、実現性はさらに高まると考えられ、主要な観光地をコースに組み込むことで、新たな観光ルートの創出も期待できる。市街地コース開催には課題が多いものの、新たにサーキットを建設するよりも効率的で集客力が高いと考える。 

 

 

夢洲(画像:写真AC) 

 

 大阪市に新たにサーキットを建設することは、新たな観光需要を生み出し、大阪や京都を中心に増加する関西地方へのインバウンド需要にも対応できるとする意見がある。 

 

 一方、市街地コースでのレース開催は、地域住民の理解を得ることが難しい課題だ。モナコやシンガポールでF1が開催されている例を参考にしても、全ての課題を克服できるかは疑問視されている。 

 

 騒音問題をクリアしそうなフォーミュラEでも、交通規制や混雑が日常生活に与える影響は避けられず、地域住民の理解を得ることが開催において不可欠な要素となる。 

 

 さらに、大阪でフォーミュラEを開催するには、その意義や拡張性を訴求し、東京開催との差別化を明確にしなければならない。成功への道を進むには、招致活動を効果的に行い、地域全体にメリットをもたらすイベントにする必要がある。 

 

 万博跡地は、「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げる大阪・関西万博の理念を反映したまちづくりの場として活用されるべきだ。また、万博が目指すものとして、持続可能な開発目標(SDGs)の達成や日本の国家戦略Society5.0の実現が挙げられており、跡地利用においてもSDGsを念頭に置くべきだと考える。 

 

 その上で改めてサーキット建設の是非を検討する際、環境への影響を最優先に考慮する必要がある。サーキット建設は、周辺の自然環境や生態系に悪影響を与える可能性があり、大規模な工事や土地開発によるCO2排出の増加が懸念される。 

 

 また、経済的リスクとして、サーキット運営が不採算となった場合の地域経済への影響も考慮しなければならない。騒音問題についても、万博跡地周辺には現在居住地域は少ないが、今後の大阪湾周辺の再開発によって懸念される可能性がある。 

 

 大阪・関西万博のコンセプトである「People s Living Lab(未来社会の実験場)」に合致した跡地利用を考えると、サーキット建設やF1招致の構想は夢のある計画だが、現実的な議論を十分に重ねてから具体的なプランを進めるべきだろう。 

 

 万博跡地の活用が未来都市モデルとして成功すれば、大阪は国内外からさらに注目を集めることは間違いない。環境、経済、地域社会の調和を図るアイデアを基盤に、持続可能な未来を創出する一歩を踏み出し、大阪が新たな魅力を発信し続ける都市として機能することが期待される。 

 

成家千春(自動車経済ライター) 

 

 

 
 

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