( 253616 ) 2025/01/22 18:37:13 0 00 財務官僚出身のコバホークこと小林鷹之氏(時事通信フォト)
「103万円の壁」引き上げをめぐるサラリーマン減税が最大の争点になる、1月24日召集の通常国会。しかし、財務省・自民党税調幹部たちは、減税を阻止するべ暗躍していた──。【前後編の後編】
国民民主党を率いる玉木雄一郎氏が要求した「103万円の壁」の178万円への引き上げについて減税の骨抜きに暗躍するのが税制の事実上の決定権を持つ自民党税制調査会だ。
歴代会長は「陰の財務大臣」と称され、現在の宮沢洋一・会長は財務官僚出身で103万円の壁引き上げに立ちはだかる「ラスボス」と呼ばれる。
税調メンバーには会長以下、副会長、幹事など34人の議員が並ぶが、「仕切っているのは会長、小委員長など『インナー』と呼ばれる9人。このインナーの非公式会合で税制が決められ、他は副会長でも相手にされない。党内で最も閉鎖的で不透明な組織」(税調副会長経験者)とされる。
新任の若手インナーのなかで頭角を現わしているのが、コバホークこと財務官僚出身の小林鷹之・元経済安保相だ。前回総裁選ではいち早く出馬に名乗りを上げて善戦。党内で若手の有力総裁候補として地歩を固め、103万円の壁問題でもインナーとして存在感を見せている。
税調を代表して「壁」の引き上げに反対する全国知事会の地方税財政常任委員長である河野俊嗣・宮崎県知事から提言書を受け取ると、「103万円の壁を178万円に上げることをそのまま単純にやれば当然、地方税収に大きな穴が開く。地方自治体の皆様はそうした税収を使って子育て支援を始め、さまざまなサービスを行なっているなかで、この地方の財源はしっかりと考えて議論を行なっていただきたいと、そういうお声をいただきました」と知事会に理解を示し、テレビの「インナー密着取材」を受けたり、自身のXでも、「税調インナー会議の後、地元から国会見学に来てくれた小学校の皆さんとお話」と投稿してインナー就任をアピールし続けた。
「インナーの非公式会合は日程もクローズドが常識だが、小林氏はインナーとしての活動をことさらアピールしているのが異例です。発信力のある玉木氏に対抗する役割を内部で期待されているのでは」(自民党関係者)
実際、自公の税調協議で引き上げ幅を123万円に値切ることを決定すると、ネット番組に出演してこう説明した。
「178万円というのは30年前と最低賃金を比較した数字。自民党がたどり着いたのは123万円。なぜ123万円かをざっくり言うと、30年間で物価は1割上がっているが、生活必需品は2割上がっている。(それに合わせて)基礎控除を2割上げれば123万円になる」(「ニッポンジャーナル」2024年12月25日配信)
サラリーマン減税の骨抜きを図る財務省──自民党税調のスポークスマン役を務めたのだ。財務官僚時代に宮沢氏の部下だった経験を持つ高橋洋一・嘉悦大学教授が言う。
「自民党税調には会長の宮沢さん、ナンバー2の小委員長に後藤茂之さん(元厚労相)、そして小林鷹之という財務官僚出身者のラインができた。まさに財務省と一体です。後藤さんは私と同期で、宮沢さんと同じく税制に詳しく優秀な人、財務省の意向をよく理解している。小林氏は2人より年次がかなり下だから、今はまだカバン持ちとしてインナー修業している段階でしょう」
税調のスポークスマン役は、その修業の一環と見ているのだ。
もっとも、小林氏は自民党総裁選で「経済は財政に優先する」と積極財政を掲げ、財務省の財政再建路線に距離を置く姿勢だった。自民党積極財政派の議員には、小林氏が財務省に擦り寄ったと映っているようだ。
「コバホークは総裁選では、自分は積極財政派であると言っていました。とはいえ、彼は財務官僚出身で税調のインナーに加わったから、政策判断においては財務省の意向を踏まえたうえで判断をするということでしょう」
逆に財務省側は小林氏を高く評価している。同省OBの話だ。
「小林は官僚時代、海外赴任が多く、税制の実務の経験は少ない。だからこれまでインナーの選考に漏れていたが、今回の就任を機に税調の宣伝マンとして自分をうまく売り込んでいる。政治家としてのパフォーマンスが苦手な宮沢税調会長と違って、アピール力もある。財務省中枢は、小林をインナーとして盛り立てて、来る税制論議で前面に押し出し、財源の裏付けもなく減税を声高に唱える玉木を論破させるつもりのようだ」
小林氏を玉木つぶしの“刺客”にするのが財務省の狙いというのである。
小林事務所にインナーとして財務省の意向を宣伝・広報する役割を担っているとの見方があることをぶつけると「そのようなことは全くございません。税制調査会の場における個別の発言については立場上コメントを控えますが、『経済が財政に優先する』とのスタンスで常に発言をしております」と回答した。
小林氏は昨年末に自民党若手議員ら約30人を集めて政策勉強会「2050年のわが国のかたち・社会のあり方を考える研究会」を立ち上げたばかりだ。次の総裁選をにらんだ動きと見られているが、自前のグループを持った小林氏にとって、玉木氏の減税要求を抑え込んで財務省のバックアップが得られれば大きな武器になるはずだ。
国民民主党の古川元久・代表代行は年頭会見で103万円の壁をめぐる政府・自民党との交渉期限について「2月末から3月頭がデッドラインになる」と語っている。これから1か月がコバホークと玉木氏という財務官僚出身の与野党政治家がぶつかるヤマ場になる。
小林氏の両親は玉木氏の地元である香川出身。その縁もあり、小林氏が財務省を退職して衆院選出馬の準備をしていた2010年、先輩議員で入省年次が6年上の玉木氏を訪ね、選挙の心構えを教わったことがある。当選後は与野党に分かれて交流が途絶えたというが、そんな2人の対決が、国民生活と政治の行方に大きな影響を与えそうだ。
■前編記事:【103万円の壁バトル最終局面】サラリーマン減税の骨抜きに暗躍する自民税調「インナー」新メンバーに小林鷹之氏ら“将来の総裁候補”4人を抜擢 背後で仕切る財務省の思惑
※週刊ポスト2025年1月31日号
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