( 253951 ) 2025/01/23 14:29:38 0 00 就任セレモニーでの齋藤元彦知事 筆者撮影
齋藤元彦兵庫県知事をめぐる文書問題で、3人目の自殺者が出てしまった。
1月18日夜、真相を追及する県議会の百条委員会の委員だった元兵庫県議の竹内英明氏(50)が、姫路市の自宅で死亡しているのが見つかり、病院に搬送されたが蘇生しなかった。遺書はないが県警は自殺とみている。
竹内氏は同市出身。早稲田大学政経学部の学生時代から、自民党の運輸大臣だった奥田敬和衆院議員の秘書を経験。姫路市議を務めた後に県会議員に当選、5期目だった。優秀と評判は高く、政治家として脂の乗った時の悲劇だった。
1月20日午前、村井紀之兵庫県警本部長が県議会の警察常任委員会で「事案の特殊性に鑑みて」と断った上で、「(竹内氏を)被疑者として任意の調べもしたこともなく逮捕するといった話はない」「明白な虚偽がSNSで拡散されていることについて、極めて遺憾だ」と語った。
こんなことを警察トップが公の場で表明するなど前代未聞で、「明白な虚偽」を拡散した「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首を許せないという姿勢が窺えた。
その日の朝、筆者が竹内氏が属していた会派「ひょうご県民連合」の上野英一幹事長に会いに行くと、上野氏はこう竹内氏の死を惜しんだ。
「竹内君は性格的にやわな男では全くない。むしろ立花党首があんなことをしてくれば、やり返すような強い男でした。ちょっとバンカラ風なところもあったんです」
「子供さんもいるし、奥さんは立花氏の脅しに怯えて錯乱状態だったと悩んでいましたが、昨年11月に議員辞職してしまった。昨年12月25日の百条委員会の後、ちょっと彼に確認事項があって電話したら意外に元気そうな声だったので『元気そうやん』と言うと『まだ前向きにはなれないんです』と言っていました。それが最後でした。議員辞職しなければ孤立せず何とかなったのでは。こんなことになるとは」
続いて竹内氏をよく知る尼崎市の丸尾牧県議(無所属)の事務所に向かったが、事務所は写真ポスターもなくひっそりとしていた。ポスターをはがした理由は立花党首や彼に呼応した人の脅しだったという。
「『騒動の主犯格』などとされ、頼んでもいない食品が送られたりしていました。何をされるかわからないので」と丸尾県議がそう話す机には、買ったばかりの防犯カメラの箱があった。
丸尾氏は生前、竹内氏に“ある対処”を相談していたという。
「竹内さんに、YouTubeの運営に動画の削除と開示請求をしようと持ち掛けていました。でも竹内さんは『しんどいわ』という反応でした」
昨年11月の知事選に立候補した立花党首は、選挙後には県議会の百条委員会の奥谷謙一委員長(自民)、竹内氏、丸尾議員の3人を主たる標的にしていた。
「マスコミに圧力をかけて県民局長の自殺原因を隠ぺいした」と決めつけた奥谷氏の自宅前で演説を繰り広げ、「出てこい」と声を張り上げたが、その後には「これから丸尾と竹内のところに行くぞ」と発信していた。
「私は知事選挙では稲村和美さん(元兵庫県議)を支持していたし、猛烈な誹謗中傷で落ち込みましたが、年末から激励も多くなって立ち直れました。竹内さんも絶望しなくてもよかったのに……」(丸尾氏)
生前の竹内氏は、百条委員会で齋藤知事を厳しく追及していた。
「立花氏は、百条委が齋藤氏を貶めようとしていると見ていた。でも今回のことで、これまで立花氏を信じていた人たちが彼に疑問を感じて少しニュートラルになってくれれば」(丸尾氏)
さて、立花氏である。
竹内氏の自殺を知った1月19日午後、立花氏は自身のSNSで「昨年9月ごろから兵庫県警からの継続的な任意の取り調べを受けていました」「こんな事なら、逮捕してあげた方が良かったのに」と発信した。
ユーチューブチャンネルの動画では「明日逮捕される予定だったそうです」とも言っている。
丸尾氏はその理由をこう推測する。
「逮捕される、とか発信したのは、竹内さんの自殺の原因が自分と見られるのをかわそうとして作ったのではないか」
しかし20日に兵庫県警の本部長が取り調べを行っていないという談話を発表したことを受けて、そうした書きこみや動画を削除し、「事実と異なることを発信したことについて謝罪させていただきます」と非を認めた。
これまでの立花氏であれば「…で逮捕されると聞いたがその情報が間違いでした」と開き直ることも考えられたが、今回はしおらしかった。
兵庫県警は一連の文書問題について強硬な対応を続けており、1月20日の警察常任委員会で刑事部長が「捜査をしている」と明言したのも異例のことだった。広告会社の折田楓社長への告発や、一昨年の阪神タイガースとオリックス・バファローズのパレードをめぐる資金の還流問題の告発状も受理され、捜査が進んでいる。
当の齋藤知事は、竹内氏の自殺についてお悔やみを述べた上で「時には厳しい質問もいただいたが兵庫をよくしたいという強い意志の表れだったと受け止めている」と話した。しかし立花党首については、「立花氏のSNSの詳細は拝見していない。SNSは理性的に運用されることが大事だ」とかわした。
しかし神戸市の60代女性は、「そつのない官僚答弁ばかりをしていても、齋藤知事へのシンパシーは減っていくのでは」と指摘する。
とある報道関係者によれば、県内の齋藤知事に対する風向きも変わりつつあるという。
「立花氏の発信力もあってヒーローになった齋藤知事ですが、今回のことがボディブローのようにじわじわと効いてくるでしょう。知事の問題をめぐって事実上3人の命が失われるなどあまりにもネガティブなことが続き、しんどい思いをしてきた県庁職員が今さら知事の思惑通り動くとは思えません」
粟野 仁雄
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