( 254066 )  2025/01/23 16:35:26  
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イケメン彼氏が乗っていそうな自動車のイメージ(画像:写真AC) 

 

 ソニー損害保険(東京都大田区)は2025年1月7日、「20歳のカーライフ意識調査」の結果を発表した。この調査は、2004(平成16)年4月2日から2005年4月1日生まれの人を対象に行われ、1000人から有効な回答を得た。 

 

 調査では、「普通自動車免許を持っている(オートマ限定)」が 

 

「40.6%」 

 

「普通自動車免許を持っている(マニュアル)」が12.9%という結果に。このふたつを合わせると、20歳の運転免許保有率は53.5%となり、2年連続で減少していることがわかった(ソニー損保調べ)。特に、オートマ限定免許の割合が高い点が目立つ。背景には、 

 

・教習所の費用が高くなっている 

・都市部で車の必要性が低下している 

 

ことなど、社会的な要因があると考えられる。それ以上に注目すべきなのは、若者の間でオートマ限定に対する意識が大きくわかれている点だ。特に、 

 

「男性のオートマ限定」 

 

に対する評価が話題になりやすい理由とは何だろうか。 

 

「オートマ限定は恥ずかしい」という偏見について考えてみる。 

 

 この偏見は、マニュアル車が当たり前だった時代の価値観が残っているせいかもしれない。昔は 

 

「運転技術 = 男らしさ」 

 

という無意識の文化的な期待があって、マニュアル車を運転できない男性は「頼りない」と思われることが多かった。ネット上で見られる投稿や記事も、その傾向を裏付けている。 

 

・どうでもいい人はどうでもいいが旦那や彼氏がAT限定免許だと「ん?」と思う…女子から男子への本音たち 

・彼氏がオートマ限定免許だと知った瞬間冷めたという人はいますか? 

・車を借りたら彼氏が限定免許でした 

・20代の男です。自分はAT限定の普通自動車免許を持っているのですが、男でATってダサいんですか? 

 

 しかし、今はオートマ車が主流になり、マニュアル車を運転する必要性はかなり減っている。それでも、特に年配者の間でオートマ限定に対する否定的な見方が根強く残っているのは、 

 

・男性らしさ 

・技術的な優位性 

 

を重視する社会的なプレッシャーが影響しているからだろう。 

 

 

教習のイメージ(画像:写真AC) 

 

 ここで視点を変え、「イケメン彼氏」の話題に注目する。 

 

「イケメン」は日本独自の言葉で、「イケてるメンズ」を略したものだ。外見が整っているだけでなく、スタイリッシュな雰囲気や清潔感を持ち、全体的な魅力がある男性を指す。顔立ちだけでなく、ファッションセンスや振る舞い、雰囲気なども含めた「総合的な魅力」を評価する言葉だ。 

 

 似たような表現で、かつては「ハンサム」という言葉が使われていた。ハンサムは英語の「handsome」に由来し、整った顔立ちや古典的な美形を表す言葉だ。日本語でも広く使われているが、イケメンと比べるとフォーマルで落ち着いた印象を与える。 

 

 イケメンは現代日本の文化に根付いた言葉であり、日常生活のなかで多面的な魅力を評価する表現として使われている。一方、ハンサムは伝統的な美しさを表す言葉として、特定の状況で用いられることが多い。それぞれが持つニュアンスの違いが、時代や文化に応じた評価基準の変化を映し出している。 

 

 さて、そんなイケメン彼氏がオートマ限定免許しか持っていなかった場合、その事実が女性の評価にどのように影響するのかを考えてみよう。前述のソニー損保の調査結果を基にすると、男性のオートマ限定免許保有率は 

 

「34.8%」 

 

である一方、女性は46.4%に達している。女性が11.6ポイントも高い。このデータから、女性にとってオートマ限定は「普通」の選択肢であり、特に違和感を持たれることは少ない。しかし、男性にとっては「少し特殊」な選択肢として認識されることが多い。社会的な期待やステレオタイプが、この認識の差を生んでいるのだろう。ここで重要なのが、いわゆる 

 

「イケメン補正」 

 

の存在だ。仮にオートマ限定免許が「頼りなさ」の象徴と捉えられているとしても、イケメンという属性がその印象を大きく覆す力を持つ。外見の魅力や好印象が、免許の種類に対するネガティブな評価を帳消しにする可能性がある。この現象は、心理学でいう 

 

「ハロー効果」 

 

として説明できる。外見のよさが評価全体にプラスの影響を与える効果だ。つまり、イケメンであれば「オートマ限定でも構わない」という無意識の許容が、相手の中に形成されるのだろう。 

 

 

 一方で、オートマ限定を巡る議論は、見栄や印象だけにとどまらない。日本の運転免許制度を見てみると、マニュアル車が必要とされる場面は限られている。農業用トラックや一部の業務用車両を除けば、日常生活ではオートマ車で十分事足りる。 

 

 さらに、都市部では公共交通が発達しており、車を所有する必要性が薄れている。実際、「車を購入するつもりはない」と答えた20代は35.2%に上り、「自分の車を持っている」という回答(12.9%)を大きく上回っている。この現実を踏まえると、「免許の種類」にこだわること自体が時代遅れだといえる。 

 

 それでもなお、「オートマ限定の彼氏」という話題が取り上げられるのは、現代のSNS文化やコミュニケーションの特性によるものだ。具体的には、 

 

「ネタとしての面白さ」 

 

が挙げられる。SNSでは、軽い話題や笑いを誘う投稿が拡散されやすい傾向にある。このような話題は、免許の種類そのものではなく、「意外性」や「ギャップ」を楽しむために共有される。 

 

 また、「オートマ限定 = 頼りない」という偏見を語ることで、自分や周囲の男性を相対的に高く評価する手段としても機能する。特に、免許を取得している男性やマニュアル免許を持つ人々にとって、この種の話題は「自分は違う」という安心感を得る材料になることが多い。 

 

運転免許証のイメージ(画像:写真AC) 

 

 最後に、「オートマ限定は恥ずかしい」という古い価値観を見直すと同時に、新しい視点を提案したいと思う。 

 

 例えば、実用性を重視する考え方が現代の若者に合っているのではないだろうか。免許の種類よりも、 

 

「運転できる」 

 

という事実そのものが重要だと捉える視点だ。オートマ限定であっても、必要な場面で安全に車を運転できることが評価されるべきだろう。 

 

 また、多様性を受け入れる価値観が広がれば、「オートマ限定だから恥ずかしい」という固定観念も薄れていくだろう。人それぞれの事情や選択を尊重する考え方が浸透すれば、自然とオートマ限定の選択が受け入れられていくはずだ。 

 

 さらに、「車離れ」が進むなかで、免許を持つこと自体が新たなステータスとして成り得る時代が来ている。特に都市部では、免許の有無が 

 

「移動手段の選択肢の多さ」 

 

を象徴する可能性が高い。 

 

 結局、オートマ限定免許が話題になる背景には、社会的な偏見やステレオタイプが存在する。 

 

 けれども、その評価を左右する要素として、 

 

「イケメンであるかどうか」 

 

といった外見的な特権が強く影響している現実も否定できない。 

 

 こうした議論を通じて浮かび上がるのは、免許の種類や性別、外見といった表面的な要素ではなく、実用性や多様性を尊重する新しい価値観の必要性だ。 

 

 オートマ限定免許をめぐる意識は、現代社会の価値観を映し出す鏡なのかもしれない。 

 

作田秋介(フリーライター) 

 

 

 
 

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