( 254496 ) 2025/01/24 14:35:25 0 00 Photo by Getty Images
「社長の会見があるまでは、ここまでの事態になるとは思いませんでした。いまは出社するのも気が重いし、人にフジテレビに勤めてるって言えないですよ」
これは30代のフジテレビ社員の声だ。会社の窮地に動揺を隠せないでいるが、同時に社長に対しても落胆しているという。
「あんな不誠実な会見をするとは思いませんでした。誰が見ても、火に油を注ぐような受け答えで、何を考えて、こういうバカなシナリオにしたのか、ガッカリしました」(同)
中居正広による「女性トラブル」は、被害女性がフジテレビの社員であったことで、タレントひとりのゴシップにはとどまらず、局の経営危機にまで広がった。幹部社員が関与していると報じられている話は局側が否定しているものの、事態をさらに悪化させたのは、局側の対応とその象徴である社長の会見だった。
社内外の両方で不満と批判が渦巻いていたにもかかわらず、1月17日の会見は記者クラブの一部マスコミに限定した閉鎖的なやり方で行われた。さらには、港浩一社長は「回答は差し控える」を連発した。
ガバナンスが機能不全に陥っていることが露呈し、株主企業は批判声明を出し、スポンサー企業がドミノ倒しで次々にCMを見合わせた。CM差し止めを発表した企業は、会見直後に50社だったのが、たった数日でに80社に達する規模に。
実は、この会見の前から、社員や番組制作スタッフたちが会社をどう思っているのか、取材を続けていた。当初は社員たちも、思ったほどネガティブでもなかった。
「フジテレビとしては問題なんですけど、番組制作の仕事とは直接関係ないので、目の前の業務をちゃんとやろう、としか思っていないです。正直、中居さんのゴシップ自体にも興味ないですし」(社員ディレクター・30代)
「なにが事実かよく分からない。上納接待とか言われても、僕自身は見聞きしたこともない。問題があったなら、ちゃんと対処して、仕事外のことで批判が来ないようにしてほしいと思う」(下請けの技術スタッフ・50代)
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しかし、社長会見の後、この2人に再び話を聞くと、明らかにトーンが変わっっていた。
「自分がやっている番組もCMが飛んでしまって、これから仕事がどうなるのか、何もかも分からなくなってて。なんで社長があんな、やましい感じなのか、何をやらかしたのか正直に話さないと収まらないでしょう」(前出・ディレクター)
「被害女性が社内の人間で、それを守ろうとするよりも、誤魔化そうとした結果がいまの状態なら、引き起こした人が責任を取るべき。さすがにスポンサーが次々に撤退するなんて異常事態」(前出・技術スタッフ)
ほかの社員やスタッフに聞いてみると、さらに具体的な先行き不安が聞かれた。
ある番組プロデューサーは「いまのCM見合わせは基本、支払われたスポンサー料を返せという話ではないから、現時点で番組予算に影響しないけど、問題はこれから先です。4月の改編も近づく中で、スポンサーがつかないと、予定や企画は全部白紙になる。今後どうするのか、1日も早く見通しを立ててほしい」と語った。
フジテレビの複数の番組を手掛けている下請け制作会社の役員は、「そのしわ寄せは結局、フジ上層部ではなく現場にくる」と憤っている。
「結局、フジテレビは予算削減に行き着くでしょう。予算削減自体はリーマンショック後(08年以降)とか、過去にも経験してきたけど、テレビ局の上層部って現場を見ない。最近もデジタル化が進んで、テレビカメラも小型になったし、編集ソフトも自宅で扱える手軽なものになった。それを理由にフジは下請けにもコスト削減をさせ続けてきたけど、いくらツールがデジタル化したって3人でやっていたものを2人でやれ、となったらスタッフが疲弊するばかり。
そういう現状を把握しないでコストカットばかり押し付けてきた。だから、今回もしわ寄せは僕らにくると思います。2人でやっていたものをひとりでやれ、とかね。末端のスタッフに15時間労働させて成り立たせるようなことは、もうすでにやってきて限界です。これ以上やれば、フジの仕事自体、終わりかもしれない」
絶望的な話が飛び交うようになった。広告はテレビ局にとって主要な収益源であり、今後、CMスポンサーが新たな契約を結ばない事態となれば、収益減どころか番組を作るベースを失う。状況がさらに深刻化した場合、具体的にどうなるか。
「“超”低予算番組が増えますよ。しばらくはスタジオトークだけのバラエティー番組とか、再放送とかになるかもしれません。人気俳優が揃ったドラマや報道番組といったお金のかかる番組が減る。
それが面白い番組でなかったら、視聴者離れになって、また収入が減る悪循環。もう我々のような制作委託先も減っていくだろうし、大規模リストラも出てくる。社員の給与にまで影響が出ると、辞める人が出てきて、ローカル局みたいな規模になってもおかしくない」
まともなコンテンツを作れなくなれば、テレビ局としての存在意義を失うことになる。これを回避するために、最優先なのはまずスポンサー企業との関係修復だ。社内調査をしっかり行い、まずは何があったのか、全貌を明らかにして世間からのイメージ回復を進めていくしかない。
その上で、悪しき慣習や風潮を徹底的に排除した、新しい組織体制を明確に見せる必要があるだろう。
片岡 亮(フリージャーナリスト)
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