( 254571 ) 2025/01/24 16:03:53 0 00 photo by gettyimages
「ウーバーイーツでーす」
都内のマンションのエントランスで、インターフォンに向かってそう名乗ると、相手からの返答はないままオートロックのガラス扉が開いた。配達先の部屋は4階だが、エレベーターを待つ時間を節約するため、階段を駆け上がる。
配達先の玄関前に辿り着くと、注文の品を廊下に置き、配達員用アプリの画面で「配達済みボタン」を押して任務完了—これは、ウーバーイーツなど複数のフードデリバリー(以下、フーデリ)サービスに登録して生活費を稼ぐ30代のフルタイム配達員・K氏が日夜繰り返す配達業務の一例だ。
しかしその直後、K氏には「別の業務」が待っている。その場でスマホを操作し、たったいま完了した配達の注文内容や届け先住所が書かれた配達員用アプリの画面を「スクショ」。置き配時に撮影した写真とともに、LINEである人物に送信するのだ。K氏が言う。
「こうするとその人物から、一件あたり500円がPayPayで送られてくるんです。昨年11月から800件は送ったので、40万円くらいにはなっているはず。同じ配達先の情報でも別の日の配達であれば、買い取ってくれます。知り合いの配達員にも勧めたので、私の周りだけで4人の配達員が同じことをやっている」
情報の送信相手の目的については「『市場調査』ということ以外は何も知らない」と語るK氏だが、「フーデリ業界では配達報酬の実質的な減額が進んでいるので、正直、ありがたいです」と感謝を口にする。
「たとえばウーバーイーツだと、3km弱の距離を配達して報酬がたった320円ということもある。'24年春くらいまでであれば、600〜700円はもらえていた距離です。いまや、配達ついでにできる副業をやらないと、満足には稼げないんですよ」
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事実、フリーランス協会が公表している'24年の「フードデリバリー配達員実態調査(速報値)」によれば、週40時間以上稼動するフルタイム配達員は、前年の21・2%から26・1%に増加している一方、1週間の平均報酬額を「10万円以上」と答えた配達員は同8・1%から5・5%に減少している。つまり、専業配達員では食えなくなってきているのだ。
そのため配達員たちは、「チップ払うからコンビニでアイス買ってきて」、「玄関に置いてあるゴミ出しておいて」などと、通常の配達業務以外をアプリ上のダイレクトメールで注文者から依頼されることもある。
本来の業務外の依頼を引き受けて報酬を得ることはウーバーをはじめ多くのフーデリサービスで禁止されているが、配達報酬減に苦しむ配達員のなかには、禁を破る者も少なくないという。
そして、K氏がLINEで配達先の情報を送信している人物とも、そんな「業務外依頼」に応じた際に知り合ったという。
「ファストフード店で商品をピックする注文を受けた直後に、『チップを1000円渡すのでコンビニでタバコ買ってきてください』と注文者から連絡がありました。タバコの配達は規約で特に厳しく禁止されているので迷いましたが、結局1000円に負けて応じました。
指定された配達先は、街中の公園。すぐ近くにタバコを売っているコンビニがあったので、ハタチ未満の注文者なのかなと思いきや、私と同世代のおじさんでした。そして商品を渡すと、『良い副業があるんだけど』と持ちかけられたのが、配達先の情報を送るというバイトでした。規約で禁止されているタバコを持ってきたことで、カネのためにはなんでもすると思われたんでしょう」
後編記事『強盗や詐欺に利用されている可能性も…!ウーバー配達員の間で「客の情報を売る闇バイト」が横行…その怖すぎる使い道』へ続く。
「週刊現代」2025年1月25日号より
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