( 255121 ) 2025/01/25 16:13:29 0 00 一部週刊誌の報道によれば、中居氏のトラブルが起きたのは2023年6月だという(写真は侍ジャパンシリーズ 2024のときのもの)(写真:東京スポーツ/アフロ)
引退を発表した中居正広氏が引き起こした一連の問題が起きたのは2023年6月。それが事実だとすれば、2017年頃から注目を集めた「
」や、故・ジャニー喜多川による性加害問題などで明らかになった重要な教訓を無視していたことは明白だろう。さらにフジテレビの対応や女性アナウンサーの証言から浮き彫りになるのは、職場内での権力構造がもたらす弊害と社会全体への悪影響である。元プレジデント編集長の小倉健一氏が鋭く解説する。
中居正広氏は、本当に愚かなことをしてくれたな、というのが筆者の率直な感想だ。
2017年に「
」が起きて、何も学ばなかったのか。それとも、ほとぼりが冷めたと思ったのか。故・ジャニー喜多川による性加害問題の沸騰を、間近で見ていて何も学ばなかったのか。
松本人志氏が起こした問題と同格に扱う人もいるが、松本人志氏から被害を受けたという人の主張がすべて正しかったとしても、私は中居氏のほうが「罪は重い」と確信している。
言うまでもないが、
、職場や社会における優越的地位を利用したセクシャルハラスメントや性的暴力を告発する社会運動である。
2017年に始まり、被害者が自らの体験を公にすることを通じて加害者の責任を追及することを目的とした。特に権力や地位を持つ者が、それを背景に性的被害を加える構造が問題視された。ハリウッドの映画プロデューサーによる事件がきっかけとなり、多くの著名人や一般市民が「
」というハッシュタグを用い体験を共有した。
これにより、性的被害の深刻さや広がりが明らかとなり、企業や組織における対応強化が進んだ。被害者が沈黙を強いられる状況を変える契機となり、法改正や職場の文化改善を促進した。
一方で、行動抑制や性別間の協力関係への影響といった課題も浮き彫りとなった。
2022年に発表されたメルボルン大学の研究「
:研究協力からの証拠」には、職場におけるセクシャルハラスメント問題への意識を高め、女性がより安全な環境で働けるようにすることを目指す
、意図しない形で職場内の男女間の協力コストに影響を与え、特に女性のキャリアに負の影響を及ぼしていたことを明らかにしている。論文の要旨は以下だ。
、若手女性研究者の研究活動に具体的な不利益をもたらした。運動以降、若手女性研究者が新たに始める研究プロジェクト数は年間平均で0.7件減少した。この減少の60%は、同じ大学に所属する男性共著者との新規協力が減少したことが主な要因である。
特に同じ大学の新しい男性共著者との協力は、0.21件減少し、運動前の0.21件からほぼゼロに近い水準まで低下した。男性研究者がセクシャルハラスメント告発のリスクを懸念し、女性との協力を避ける傾向が強まった結果である。男性は失われた女性との協力を男性同士の協力で補い、生産性を維持したが、女性は代替策がなく研究生産性が低下した。
これにより、昇進の機会やキャリア形成における格差が拡大した。特にセクシャルハラスメント規制が曖昧な大学では、この傾向が顕著であり、女性にとっての新規協力の減少がさらに深刻化した。
つまり、あまりに激しい
、女性と仕事をすることそのものが敬遠される事態を招いたということになる。女性の地位向上は果たせたものの、実利を得ることはなく、むしろ、女性にとっては不利益を被ってしまったというのが論文の趣旨である。
筆者は、
、経済誌プレジデント編集部(途中から編集長)にいた。
プレジデントはビジネスリーダーのための雑誌で、当時の読者の多くは中年男性であった。そんな読者からは、男であることの恨み節のようなものを聞いていた。たとえば、合意の上での行為でも、後から女性に「実はあれは合意してはいなかった」と言われたら、男性側が悪いことになってしまうではないか、などだ。
本記事を執筆するにあたって、城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士に見解を聞いたところ、「男女関係は、交通弱者保護の考えに近い観点から判断される、具体的にはダンプカーと自転車がぶつかった交通事故と同じような扱いを受けやすい」のだという。つまり、男性はダンプカー、女性は自転車であり、自転車のほうもかなり危険な運転であったとしても、ダンプカーのほうの過失がまずは大きいだろうと推認されるところから話が始まるというわけだ。筆者は、こうした理不尽は社会から早く解消し、男女は平等に扱われるべきだと思う。
しかし、その一方で、やはり職権を濫用したり、人事権、採用権が背景にある関係上、上司部下の関係には、弱い側(多くの場合、女性)への配慮がまったく欠けていて、被害が横行していたのも事実だ。中でも上司と部下の恋愛は極めて問題になりやすい。(もし両者の関係が良好であっても)上司が部下や同僚の恋人を優遇した場合、たとえば評価を良くする、希望するシフトに変更する、あるいは休憩時間を長く取るなどの行為が見られた場合、他の同僚の不満を引き起こし、結果として士気が低下する。
この状況は全体の生産性に悪影響を及ぼすだけでなく、組織の業務効率を著しく損なう。
また、恋愛関係が破綻した後、部下が「この関係は強制的だった」と主張し、セクハラ訴訟に発展する可能性が高い。特に上司と部下の関係では権力の非対称性が明確であるため、問題が深刻化しやすい。
そこで、編集長になったときには、日本の
。読者である男性ミドル層に警告を発しようとしたわけだ。
そんなわけで、
、課題もあった。そして、
、ようやく冷静な議論や制度設計ができそうなタイミングで起きたのが今回の中居正広氏のスキャンダルである。
騒動が大きくなるなか、フジテレビは関与を否定し続けているが、外形的にはフジテレビの編成にとって大事なクライアントである中居氏と、フジテレビの社員(アナウンサー)であるX子氏の間で起きた問題である。
ニュースポストセブン(1月17日)の取材に対して、X子さんは、「(フジテレビ社員で幹部の)Aさんがセッティングした会の延長であることは間違いありませんし、事件があった直後にフジの方に相談もしました。色々と報道もあって、フジは番組を差し替えてもいます。それでも関与を認めない姿勢にはビックリしますが、“そういう会社だよな”という諦めの気持ちが強いですね」と述べている。
人事や番組のキャスティングを握る人物の強い関与が伺える証言であるし、まさしく以前に起きた、
。
中居氏のトラブルが起きたのは2023年6月だという。半ば、地上波テレビ番組から追放されてしまった点では、松本人志氏も中居氏も受けた罰は同じなのかもしれないが、番組関係者とのスキャンダルではなかった松本人志氏の文春報道とは、悪質さが100万倍違うと考えたほうがいいだろう。
これによりまた
。極端なコミュニケーションの遮断は、社会にとって不利益であることは先の論文が明らかにしている。不毛な時代がまたやってくるのだろうか。中居氏の起こした騒動は社会全体に悪影響を及ぼしている。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一
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