( 255196 )  2025/01/25 17:40:05  
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この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 

 

なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 

 

ベストセラー『ほんとうの日本経済』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 

 

写真:現代ビジネス 

 

〈近年において、日本経済の構造が変わり始めているのはなぜだろうか。これには日本の人口が減少局面に入ったことが関連していると考えられる。 

 

これまで世界の人口が長期的に増加を続けていた事実からもわかるように、近代の世界経済を振り返れば、経済というものは基本的には人口が増加している状態のもとでそれと並行して成長をしていくものだという暗黙の前提があったといえる。 

 

しかし、日本の人口はいままさに調整局面から減少局面へと移行しつつある。そうであれば、人口減少とともに歩むこれからの日本経済の構造はこれまでのそれとは異なるものになる可能性が高い。 

 

近代で日本のような大きな経済規模を有する国において、人口が持続的に減少した事例はほかに類を見ない。そう考えれば、人口減少が経済にどのような構造変化を及ぼすのかということは、これまで必ずしも自明ではなかったと考えられる。〉(『ほんとうの日本経済』) 

 

〈データを分析していくと、足元の労働市場では人手不足の深刻化や賃金上昇の動きが広がっていることがわかる。さらに、それは2010年代半ば頃から顕在化していることがわかる。 

 

これには日本銀行による大規模金融緩和や政府の財政出動が影響している可能性が高い。しかし、それだけではないだろう。現在の経済の変化について、一時的な政策効果と構造的な変化とを峻別することは難しいが、その根本には人口減少や高齢化といった人口動態の変化があるはずだ。 

 

これまでのデフレーションの時代において、企業が最も警戒してきたのは需要不足の深刻化であった。つまり、人口減少によって国内市場が縮小すれば、将来、企業間で顧客を奪い合うことになるのではないかという懸念が企業の間にあった。 

 

しかし、いざふたを開けてみると、多くの地域や業種で需要不足が深刻化する展開にはならなかった。そうではなく、近年判明してきたのは、人口減少と少子高齢化が引き起こす経済現象の正体は、むしろ医療・介護などを中心にサービス需要が豊富にあるにもかかわらず、それを提供する人手が足りなくなるという供給面の制約だったのである。 

 

現状経済に起きている変化は、景気変動に伴う一過性の現象だけではなく、構造的なものである可能性が高い。そう考えれば、今後もその時々の景気循環による影響を受けながらも、日本経済の供給能力が十分に高まっていくまでのしばらくの間、現在の経済のトレンドは続いていくとみられる。 

 

今後、少子高齢化が進む中で人手不足がさらに深刻化すれば、企業による人材獲得競争はますます活発化する。そうなれば、将来の日本経済においては、多くの人が予想する以上に、賃金が力強くかつ自律的に上昇していく局面を経験するはずだ。その後は、労働市場における激しい競争にさらされる形で企業は利益を縮小させることになり、経営の厳しい企業は市場からの退出を余儀なくされるだろう。〉(『ほんとうの日本経済』より) 

 

 

写真:現代ビジネス 

 

賃金など労働条件を良くしないと人が採用できない時代になってきている。人が足りないと賃金が上がるようになってきている。 

 

では、いったい、人手不足は何をもたらすのだろうか。 

 

〈足元の日本経済の状況を振り返ると、人手不足が進行する中で賃金は上昇に転じ、人件費高騰による物価上昇も緩やかに進みつつある。 

 

私たちはこのような状況をどのように評価したらよいだろうか。確かに賃金上昇は労働者にとっては望ましい現象である。しかし、賃金が上昇することがすべての経済主体にとって望ましい現象なのかというと必ずしもそうではなく、企業にとって人件費の高騰は利益を縮小させる要因になる。実際に最近の人手不足の進行とそれに伴う賃金上昇によって、経営が危機的な状況に追い込まれている企業は少なくない。 

 

消費者についても同様のことがいえる。たとえ賃金が上昇したとしても、物価がそれに合わせて上昇することになれば、高齢世帯など働いていない世帯を中心に実質的な消費水準は低下していくことになる。名目賃金が上昇し、これに並行して物価が上がること自体が人々の暮らしを豊かにするというわけではないのである。 

 

一方で、賃金と物価が上昇するなかで生産性も高まっていくのであれば、今後の展開はこれまでとは異なるものとなる。 

 

企業側の視点で考えれば、仮に労働者の1時間当たりの賃金が上昇したとしても、これと並行して労働者の1時間当たりの生産性が高まれば、総人件費の高騰を抑制することが可能になる。 

 

消費者にとっても、労働者の賃金が上昇して財やサービスの生産コストが上昇したとしても、そのコスト増を生産性上昇によって吸収することができれば商品やサービスの価格高騰を抑制することが可能になる。そうなれば、消費者の実質的な消費水準も上昇していくだろう。 

 

長期的には実質賃金と労働生産性は連動することから、持続的な実質賃金上昇のためには絶え間ない生産性上昇のための努力が不可欠である。 

 

そうした意味では、これからの経済の局面にとって重要なテーマは、恒常的な人手不足が企業の生産性向上の努力を促し、それが経済全体の供給能力向上につながっていくかどうかという点になる。 

 

賃金上昇が単なる物価上昇を引き起こすだけに終わるのか。それとも緩やかな物価上昇を伴いながら生産性も上昇していく軌跡を描くのか。そこに問題の核心は移ることになるのである。 

 

人件費高騰に危機感を持った企業が生き残りをかけてAIやIoT、ロボットなどをはじめとするデジタル技術を活用した業務効率化に取り組み、生産性向上を実現する。あるいはその過程の中で生産性が低い企業が市場から退出を迫られる。そして、生き残った企業は、提供するサービスに見合った適正な価格設定が可能となることで、上昇する人件費の原資を獲得し、さらなる賃金上昇につなげる。 

 

こうした好循環を描けるかどうかが、今後の日本経済や人々の生活の行方を大きく左右するのである。〉(『ほんとうの日本経済』より) 

 

つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。 

 

現代新書編集部 

 

 

 
 

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