( 255216 ) 2025/01/25 18:00:08 0 00 (写真:watao/PIXTA)
長時間労働が問題となっているトラックドライバーの労働環境改善へ向けた働き方改革法が施行されてから4月で1年。しかし、労働時間が減ることは、労働環境の改善にはつながっていないようだ。問題の1つは、サービスエリアなどに入浴・シャワー環境が整っていないこと。その理由について自身もトラックドライバーとして働いた経験を持つ橋本愛喜氏がリポートする。
■駐車場を占領する割には金を落とさない
方々に取材をしていると、サービスエリアやパーキングエリア(SAPA)がシャワーや大浴場を簡単に増やせないのには、さまざまな事情があることも痛感する。
1つは「収益面の問題」だ。
高速道路調査会などの調査によると、トラックによる8時間以上の長時間駐車が占める割合は、台数ベースでは約10%であるのに対して、時間占有率では約60%を占めている。つまり、SAPAが混雑する原因は大型車の長時間駐車の影響だといえるのだが、トラックドライバーは、その割に金を落とさないのだ。
一般車(普通車)の場合、レジャーや帰省などが目的のため、SAPAは非日常的な空間。SAPA限定グルメや土産がよく売れる。
一方、トラックドライバーたちにとってSAPAは日常的な場所で、“生活インフラ”として使用している。そのため、土産を買うことはおろか、施設内の食堂すら「高いから」と頻繁には利用せず、コンビニ飯や車内自炊をしている人が多い。
「十分な給料をもらえていれば毎日各地の名物を食べたいところですが、1000円以上するような定食をSAPAを利用するたびに食べられるような余裕は多くのドライバーにはないと思いますよ」
こうした中、入浴施設を作ったところで、その施設しか利用されなければ赤字になりかねない。コインシャワーや大浴場自体、設置施設以外にも管理や清掃が必要なうえ、光熱費や人件費など多くのコストがかかる。
つまり、収入面から金を“落とせない”トラックドライバーの事情と、トラックドライバーのために入浴施設を作りたくても収益にならないSAPA側の事情がうまくかみ合っていないのだ。
■ドライバーのマナーに問題も
が、何よりも、施設増設の足かせになっていると感じるのは、「現場のモラルの低さ」である。現場のマナー違反は、彼らの労働環境改善のためにいくら周囲が動いても、それを一瞬で吹き飛ばす負の威力がある。
NEXCO中日本のSAPAを管理する「中日本エクシス」によると、シャワー施設における迷惑行為として、ドライヤーやシャワーヘッドの盗難、順番抜かしなどによる客同士のトラブル、大量の髪の毛や泥の排水溝詰まり、施設の破壊行為などが多く発生しているという。
が、なかでも深刻な問題行為がある。某県のSA関係者はこう話す。
「シャワールームに排泄物が残されていることがあるんです」
さらには、大浴場のある施設でも浴槽に排泄物が浮いていることがあるという苦情も。
「トイレ」問題においても、運送業界には“黄金のペットボトル”(尿入りペットボトルのポイ捨て)が、業界の社会的地位を奈落の底に突き落としている現実がある。ごく一部のドライバーの言動によってかなうものがかなわなくなり、結果、労働環境も社会的地位も悪化する現状は皮肉でしかない。
経営者向けの講演でドライバーのモラル教育の必要性を訴えると「そんな常識的なことまで口を出さないといといけないのか」という声も聞くが、門戸の広いドライバー職にはさまざまな価値観を持ち合わせた人が集まる。
ドライバー自身の意識も大切だが、業界の社会的地位の向上、そして何より彼らの労働環境の改善には、地道な教育によるモラルの底上げが不可欠なのだ。
今回、「NEXCO中日本」にシャワー増設の予定を聞いたところ、「具体的な箇所は検討中です。これまで東名・新東名を中心に展開してきましたが、今後は設置箇所の少ない路線に拡大をしていくため中央道、北陸道などの路線に拡大していく予定です」と、増設に向けて積極的に対策を進めているとのことだった。
■必要なのは「完全な自由時間」
トラックドライバーの脳・心臓疾患の支給決定件数は15年連続ワースト。2位とも4倍以上の差がある。
その大きな要因として指摘されているのは、やはり「労働時間の長さ」だ。実際、トラックドライバー(大型)の年間平均労働時間は、他産業のそれよりも408時間も長いため、改善する必要は大いにあるだろう。
しかし、どれだけ労働時間を短くし、休める時間を増やしたところで、完全自由な時間が保障されているはずの休息期間すら拘束されることになれば、まったく意味がない。
縦にも横にも長い日本列島を走り回り、われわれの生活を下支えするトラックドライバーたち。
現場の環境改善にはトラックドライバーの倫理観向上が必要ではあるが、生理現象すら処理できない日常生活を強いられる労働環境は、もはや「人権問題」と捉えるべきだ。
この現状を改善するためには、長時間労働の是正以上に、我々が当たり前にできる日常生活を、長距離移動する彼らにもできるようにする「環境づくり」が必要なのではないだろうか。
橋本 愛喜 :フリーライター
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