( 255381 )  2025/01/26 04:38:21  
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Photo:SANKEI 

 

 中居正広さんのトラブルの真実はよく分からない。ただ、思いも寄らぬ形でテレビへのCM出稿自体が見直されるかもしれない。中居さんトラブルは時代を表す象徴的な事件となり、メディアにビジネスモデルの再考とガバナンス、そして存在意義の見直しを迫ったことだけは確かである。(未来調達研究所 坂口孝則) 

 

● フジテレビ問題がパンドラの箱を開けた? テレビCM出稿自体が見直される可能性 

 

 フジテレビが揺れている。もはや説明は不要だろうが、タレントの中居正広さんと女性との間でトラブルがあったらしい。これは両氏とも認めていて、和解も成立している。 

 

 問題は、このトラブルについてフジテレビが開催した社長会見にあった。逃げ腰で中途半端な説明は、当事者意識がないように見えた。また、第三者委員会を設置すると述べたが、自社の反省などはまるで感じられず、判断は全て委員会に委ねるとした。こうした一連の対応が、まるで何かを隠しているようで、スポンサーは軒並みCMを差し替えた。 

 

 スポンサーはフジテレビを「クロ」と認定したというよりも、世間が考える認識に従ってCMの差し替えを決断したのだろう。事実よりも「実利」として自社の評判が下がるかどうかを重視したようだ。なお筆者は、真実が何か明らかになっていないので、誰の何がどう悪かったかの確信は現時点では持ち合わせていない。 

 

 とはいえ、もっと不吉なことが思い浮かぶ。フジテレビのCMの多くがACジャパンに差し替えられているが、CMを差し止めたスポンサーの商品やサービスの売れ行きに影響がなかったら…。そうした結果が出たら、フジテレビだけではなく各キー局にとってそれこそ一大事のはずだ。CMを出す費用対効果が思いも寄らぬ形で明らかにされれば、テレビへのCM出稿自体が見直されるかもしれない。現時点では、あくまで可能性の話だが。 

 

● メディアの業績不振と不動産ビジネス 民放5局の収益を比較してみると… 

 

 メディアの業績不振論が語られて久しい。筆者が就職活動をしていた25年くらい前から、すでにそういった話が出ていた。働き出して、経営コンサルタントになってからは、収入のいくらかをテレビ出演や寄稿などのメディア関連が占めるようになった。ご縁があって朝の情報番組(フジテレビではない)で長年コメンテーターも務めた。 

 

 「うちは不動産を持っているから大丈夫なんですよ」――。筆者がメディア関係者に、「テレビの視聴率は下がってきているし、雑誌や書籍の読者数も減っていますよね」と投げかけると、こうした発言が返ってくるケースが多い。 

 

 つまり本業の収益は冴えなくても、不動産があるから経営は安定している、という意味だ。表現は不遜かもしれないが、ろくでもない放蕩息子=本業メディアがいるものの、着実に稼いでくれている次男=不動産事業がいるから安泰だ、と言いたいようだ。 

 

 では、テレビ各社にとって不動産ビジネスとはどういう位置づけなのだろうか。フジ・メディア・ホールディングス(HD)、TBS HD、日本テレビHD、テレビ朝日HD、テレビ東京HDの売上高と営業利益をセグメント別(メディア事業、不動産事業、その他)にして全体に占める割合を一覧表にしてみると、とんでもない事実が分かった。 

 

● フジ・メディア・HDは 利益構造では不動産関連企業 

 

 一覧表にしてみると、数字に濃淡があることがよく分かるだろう。特に、営業利益で見ると興味深い。フジ・メディア・HDは実に、営業利益の53.9%が不動産事業によるものだ。次に、TBSの46.5%、日本テレビが9.9%と続く。テレビ朝日とテレビ東京は決算資料に不動産のセグメントがなかった。利益構造でみると、フジ・メディア・HDはメディア企業というよりも不動産関連企業だ。 

 

 筆者は、上場企業が不動産を持つことに関してこう考えてしまう。不動産が本業ではない企業が、不動産をたくさん持っているということは、他に投資の対象がないということだ。本業に投資するよりも不動産に投資するほうが良いのだろうか。 

 

 不動産の利回りが5%だとしよう。100億円だったら5億円の収益だ。ただし、税金でかなり持っていかれるので5%ではなく半分の2.5%くらいになる(さまざまなコストは割愛して考えている)。 

 

 こうなっても、本業に投資したほうが良いとはならないのだろうか。株式会社は株主から資金を預かって利潤を稼ぐのが使命だ。投資家は、リターンを多く返してくれる“貯金箱”を探している。 

 

 メディア企業に投資している投資家がいて、不動産に賭けたいのであれば、不動産投資信託(いわゆるREIT)に投資すればいい。特別な法人税ルールがあるため、圧倒的に条件が優遇される。だから投資家にとっても、上場企業が本業とは別に不動産投資をすることは得策ではないと考えている。 

 

 

● 中居さん問題は時代を表す象徴的な事件 メディアの転換期に存在意義の見直しを迫った 

 

 フジテレビ問題に話を戻すと、構造として中居さんの問題だけに限定されるのかが気になるところだ。つまり、他の人間関係や、他のテレビ局でも同様のトラブルは起きていなかったのだろうか。そして、テレビ局を批判する、ネットメディアや紙メディアでも同様の問題は起きていないのだろうか。 

 

 もしかすると、誰もが同じ穴のムジナである可能性があるのではないか。メディアに限らず、他のありとあらゆる企業でも、同様の事例がある可能性は否定できない。イエスはヨハネによる福音書で「罪のない者だけが石を投げよ」と述べたが、石を投げられる企業はどれだけあるのだろう。 

 

 さておき、フジテレビをはじめ他局も、企業のあり方からガバナンスまでを総点検することになるだろう。もちろん収益が悪ければ、事業の見直しに迫られるはずだ。世の中にはモノ言う株主もいるので、上場企業が事業を続ける根拠がなければ納得してもらえない。 

 

 メディア企業はガバナンスしかり、収益構造しかり、本業の根本的な立て直しを迫られている。中居さんのトラブルの真実はよく分からないし、筆者は冷静に判断したいと思う。ただ、中居さんトラブルは時代を表す象徴的な事件となり、メディアの転換期に、ビジネスモデルの再考とガバナンス、そして存在意義の見直しを迫ったことだけは確かである。 

 

坂口孝則 

 

 

 
 

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