( 255396 )  2025/01/26 04:56:09  
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フジテレビが窮地に立たされている 

 

 芸能界引退を表明したタレント・中居正広さん(52)の女性トラブル問題に、フジテレビ社員が関与していたと報じられたことで、同局が窮地に立たされている。広告主企業の不信感も高まり、CMを「ACジャパン」に差し替える動きも拡大している。広告主企業のひとつだった生活用品メーカー・ライオンは、CM差し替えで生じた損失についてフジテレビに補償を求めていく方針だとも報じられている。はたしてこの騒動の終着点はどうなるのか。大手広告会社出身のネットニュース編集者・中川淳一郎氏が解説する。 

 

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 現在ネット上では「フジテレビ、ACのCMだらけ」といった声や、ネットユーザーを揶揄していると受け止められている「決めつけ刑事」というACのCMをフジが流していることを皮肉る意見が、多数書き込まれています。このようにACが話題になるのは2011年の東日本大震災の時以来ではないでしょうか。 

 

 はたして今回のフジの件がいつまで続くかといえば、「膿を出した時まで」という判断になるでしょう。中居さんは芸能界引退を表明しましたが、その他にも、7%の株を保有する外資系ファンドが納得した時、社長や幹部が引責辞任をした時、関与したとされるプロデューサー(幹部)が職を解かれた時……など、様々な対応が“世間の空気感”として納得できるものになるまで続くように思えます。 

 

 2011年の東日本大震災の時は、3月11日の発生時から3月いっぱいまで、関東ではACのCMだらけになりました。全民放がそうだったため、特にその印象は強かった。しかし、4月になると「そろそろ日常に戻ろう」といった空気感も出てきた。私は当時、ある日用品メーカーの宣伝担当を取材して、「震災後 企業CMはどんな表現・時期に流すべきか宣伝部長苦悩」という記事を執筆しました。そこでは、日常を感じられるCMを流すのにどのような配慮をし、オンエアにこぎつけたか、企業側の苦悩を知ることができました。 

 

 同年4月頃は、「そろそろ企業CMを流そう」と各広告主が考えていたようですが、一方でCM再開に向けての“逆チキンレース”と言うべき状況でもありました。当時は、ネットの書き込みでも「ACのCMばかり見ると気分が落ち込む」といったものが多かった。 

 

 そこで各社は別企業の宣伝担当者と情報交換をしながら通常CM復活のタイミングを模索したのですが、なかなか始まってくれない。これが“逆チキンレース”です。チキンレースは「辞め時」を競争するものですが、この時は「再開時」について他社を横目で見ながら判断していったのです。 

 

 

 さて今回のフジテレビの件ですが、最初にトヨタや日本生命などの大企業がACのCMに差し替えたことで、他の企業も追随していった印象です。では、再開タイミングはどうなるか。通常CMを復活させるタイミングを見誤れば、抗議の電話が来たり、ネットでも批判が書き込まれたりするかもしれません。だからこそ再開時には「第1号」にはなりたくないと考える企業も出てくるでしょう。 

 

 ACのCMはすでに広告主がお金を払っている枠を“差し替え”するため、現状ではフジテレビの広告収入にダメージはありません。別にテレビ局側が「ACにしますね」と言うわけではない。あくまでも広告主が自社CMを流すか、ACに差し替えるかを判断しているのです。通常は不祥事を起こした企業が自衛のために差し替えるケースが多いのですが、今回は、コンプライアンス的な問題が浮上しているにもかかわらずその全容が解明されていないフジテレビへの抗議の意味と、「どうしてこんな局の番組にCMを提供しているんだ!」と視聴者から抗議が来るリスクを踏まえて、各社差し替えたのでしょう。 

 

 しかし、そうはいっても、延々とACのCMを流し続けると今度は広告主企業の株主から「宣伝もしていない広告枠を買って何をしておるのだ!」と怒りを買うかもしれない。広告主側もそんなジレンマを抱えています。そうしたことから、ライオンに関する報道のように「CM差し替えで生じた損失について補償を求めていく方針」を打ち出す企業も出てくるのでしょう。これが他の広告主にも拡大していけば、大変なことになります。 

 

 事態の進展次第ではありますが、3月でクールが終わることからそのタイミングで通常CMを復活させる企業もあれば、それまでの費用対効果を考えて「CMは不要なのでは?」と考える企業も出てくるかもしれない。CM契約状況は各社異なるものですが、3月と4月は新生活キャンペーン的なものが多いため、半年~1年前ぐらいに、すでに1~3月クールと4~6月クールの枠を押さえている企業もあると思われます。 

 

 現状、“世間の空気感”として、フジからCMを引き上げてACに差し替えたのは「英断」と扱われている印象です。だからこそ復活させる時は、誰もが納得するタイミングでなければならない。事態がなかなか動かなければ各社慎重になるでしょうし、担当者はヒリヒリする判断を迫られることとなります。そして、4月以降のフジテレビの減収がいかほどになるか、も注目されます。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。 

 

 

 
 

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