( 255629 )  2025/01/26 17:01:21  
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システムエンジニアの桃田が、プライベートを優先したいとして残業を拒否し、上司の葛城と対立する。

葛城は社労士のカタリーナに相談し、残業を拒否した社員を懲戒処分できるかどうかを尋ねる。

カタリーナは、体調不良や育児・介護、業務上の必要性のない場合など、残業を拒否する正当な理由がある場合は免除されることを説明する。

さらに、労働契約や就業規則などの規定に従い、残業の命令があることを明確にすることが重要であるとアドバイスする。

(要約)

( 255631 )  2025/01/26 17:01:21  
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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 普段から残業の多い職場でシステムエンジニアとして働く部下が、突然「もう残業はやらない」と反抗的な態度に。プライベートを優先したいと残業を拒む部下と相談者が言い合いに発展。困って相談した相手は、歯に衣着せぬ物言いで相談者に愛のムチを入れる、ちょっと風変わりな社労士のカタリーナ。相談者に対してカタリーナがしたアドバイスとは……。 

 

<登場人物> 

桃田(25歳):メーカー系SIer企業に勤務するシステムエンジニア 

葛城(41歳):桃田の上司で課長 

● 「プライベートを優先したいから残業しない」は通用する? 

 

 17時半。桃田が終業のチャイムとともに、パソコンの電源を落とし、席を立とうとする姿を見て、上司の葛城が慌てて声をかけた。 

 

 葛城「桃田君、たしか昨日も定時に帰ったよね?何かあった?」 

 

 桃田「定時で帰るのに、許可は必要でしたか?」 

 

 葛城「そういうわけじゃないけど、仕事はまだあるでしょ?ほら、みんなも頑張っているし」 

 

 まわりを見回すと、皆、デスクで黙々とパソコンに向かって仕事をしている。 

 

 桃田「今まで自主的に残業してきましたが、それが日常っておかしいと思うんです。今月もすでに40時間以上残業してるんですよ!?これからはプライベートを大事にしたいので、残業はやりません」 

 

 葛城「なんだって?そんな理由が通用すると思っているのか!」 

 

 桃田「お言葉ですが、残業を命じる根拠はあるんですか?」 

 

 葛城「納期が近いんだ。桃田君だけ甘やかすわけにはいかないからね。業務命令として残業してもらうよ」 

 

 桃田「残業はできません。今日はやっとの思いで取れたコンサートもあるので帰ります」 

 

 葛城「コンサートって……業務命令に背くなら、懲戒処分だぞ!」 

 

 桃田は聞く耳を持たず、「失礼します」と言い残してその場を後にした。部下に強気な態度を取られ、怒りが収まらない葛城は、社労士のカタリーナに相談することにした。 

 

 

● 業務命令で残業を拒めるケースとは? 

 

 カタリーナ「こんにちは!社労士のカタリーナです。今日はどんなご相談かしら?」 

 

 葛城「聞いてくださいよ。20代の部下がプライベートを大事にしたいから残業はやらないって言うんですよ。そんな身勝手、許されないと思いませんか?懲戒処分モノですよね!」 

 

 語気を荒げて、葛城は今日あった出来事を一気にカタリーナに説明した。 

 

 カタリーナ「なるほど。それで、あなたは懲戒処分でお灸を据えたいってことね?」 

 

 葛城「ええ。そもそも一社員の分際で、残業を拒否するなんてあり得ないでしょ!」 

 

 カタリーナ「それがあり得るのよ。正当な理由があればね」 

 

 葛城「えっ!? それはどんな場合ですか?」 

 

 カタリーナ「例えば体調不良の場合、会社は安全配慮義務があるから無理強いはできないわね。妊娠中や産後1年以内の場合、また育児や介護を理由に残業免除の請求をしている場合も免除する義務があるわ」 

 

 葛城「そういう理由だったら、理解はできます。でも、彼の場合は体調不良でもなければ、育児でもありません。独身ですしね」 

 

 カタリーナ「あとは業務上の必要性がない場合も、残業を命じることができないわ」 

 

 葛城「業務上の必要性は、もちろんありますよ。納期に間に合わせるために、みんな頑張っているんですから」 

 

 カタリーナ「あなたの職場では、恒常的に残業が続いていたようだけれど。きちんとマネジメントはできているのかしら?」 

 

 葛城「そ、それは……。受注が重なれば仕方ないでしょう。顧客からの急な仕様変更もよくありますしね」 

 

 カタリーナ「あとは36協定の上限時間もポイントよ」 

 

 葛城「36協定?」 

 

● 残業は、無制限に命じることができない 

 

 カタリーナ「残業を命じるには、そもそも労働契約や就業規則に業務上必要な所定外労働をさせる規定があるうえに、36協定が締結されている必要があることは知っているわよね?36協定とは『時間外労働・休日労働に関する労使協定』のことね」 

 

 葛城「はい、知っています」 

 

 カタリーナ「残業をさせる場合も原則として月45時間、年360時間が上限で、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないわ。この場合も、上限時間は決められているけれど」 

 

 葛城「それなら、ちゃんと臨時的な特別の事情のある特別条項付きで締結していますよ」 

 

 カタリーナ「特に残業の理由を限定せず、単なる業務繁忙や業務の都合上必要な場合は、臨時的な特別の事情と認められないから注意が必要よ。それと、原則である月45時間の時間外労働を上回るこのできる回数は、年6回までだってこともわかっているわよね?」 

 

 葛城「そのあたりは、人事部の方でチェックしているはずだと思いますが……」 

 

 カタリーナ「あなたの部下は、残業が不満で36協定のことも調べていたかもしれないわよ」 

 

 葛城「まさか……」 

 

 カタリーナ「いくら業務が繁忙とはいえ、無制限に残業を命じることはできないわ。それに、職場環境が不満でメンバーが退職でもしたら、今は簡単に採用できないからもっと大変になってしまうわ」 

 

 葛城「やめてくださいよ。これ以上、人手が減ってしまったら本当に困ります」 

 

● 正当な理由のない残業拒否をした社員を懲戒処分できるのか 

 

 葛城「でも、プライベートを優先したいから残業はしない、という言い分を認めるわけにはいきません。他の社員にも示しがつきませんしね」 

 

 カタリーナ「正当な理由がなく残業を拒否した場合、雇用契約上の義務を果たしていないわけだから、懲戒処分することも可能よ。でもまず、残業命令を拒否する社員には、残業が必要な理由を説明して、説得する機会を持つことが大事ね」 

 

 

 葛城「それでも従わない場合は?」 

 

 カタリーナ「口頭ではなく、文書やメールとかきちんと記録が残る形で、残業の業務命令を出すことね。残業命令があることが明確になって初めて、従わない社員への懲戒処分が可能になるわ」 

 

 葛城「なるほど。今日は頭ごなしに業務命令だと言ってしまいましたが、彼には残業が必要な理由を説明しようと思います。ただ部下たちがこれ以上不満をため込まないように、業務プロセスの見直しも図っていこうと思います」 

 

 カタリーナ「それはいいわね。これから育児や介護をはじめ、様々な理由で残業が難しい社員が増えていくから、労働時間のマネジメントはますます重要になっていくわね」 

 

 葛城「なかなか大変ですが、頑張ります」 

 

<カタリーナ先生からのワンポイント・アドバイス> 

●労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間・1週40時間以内としており、これを「法定労働時間」という。会社が残業命令を行うには、労働契約および就業規則により残業を行わせる旨の定めが必要。そのうえで時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)の締結および労働基準監督署へ届け出ることで法定労働時間を超えて労働させることができる。 

 

●時間外労働の上限は、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできない。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできない。また、月45時間を超えることができるのは、年間6回までとなっている。 

 

●育児のための所定外労働の制限(残業免除)は現行では3歳未満の子を養育する労働者に限られているが、2025年4月以降は改正により「小学校就学前の子を養育する労働者」に対象が拡大される。 

 ※本稿は一般企業にみられる相談事例を基にしたフィクションです。法律に基づく判断などについては、個々のケースによるため、各労働局など公的機関や専門家にご相談のうえ対応ください。 

 

 (社会保険労務士 佐佐木由美子) 

 

佐佐木由美子 

 

 

 
 

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