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日本大学の林真理子理事長は、日大改革を掲げて理事長に就任したが、不祥事や問題が相次ぎ、志願者数が減少している。

林理事長は人気取りのイベントや不可解な人事を行い、評判が悪化している。

一方で、学内で行われたドーナツの無料配布プロジェクトや業者との関係に対する不安、OB組織との人事異動など、日大内部の変化や疑問も生じている。

また、アメフト部の薬物事件や重量挙部の授業料詐取問題など、日大の現状には懸念が高まっている。

(要約)

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日本大学の林真理子理事長。日大改革をうたい理事長に就任したが… Photo:JIJI 

 

 不祥事が立て続き、志願者数が激減する日本大学。その日本一のマンモス大学の改革をうたって鳴り物入りで理事長に就任したのが林真理子だ。就任から3年目に突入したものの、改革が進むどころかアメフト部の薬物事件や重量挙部の授業料詐取と不祥事は相変わらず。当の林理事長は人気取りのイベントに大金を投じ、不可解人事を連発するなど、その評判は地に落ちている。「魔窟」の今を明らかにする。(ノンフィクション作家 森 功) 

 

● 「ちゃんこ料理」が「お菓子」に代わっただけ? 大金投じて人気ドーナツの無料サービス拡大へ 

 

 「日大(日本大学)本部では2024(令和6)年の年の瀬、次年度以降も『スマイルキャンパスプロジェクト』を継続させると決定したようです。しかも、来年度からは芸術学部だけでなく、なるべく多くの学部に広げようと、16学部のうち希望する学部にドーナツを配り、その費用を割り振る方針だと聞きました。『これでは、ちゃんこ料理屋が菓子屋に代わっただけじゃないか』と学内の評判は散々です」 

 

 年始早々、多くの幹部職員や教員、OBがそう嘆いている。これが、林真理子理事長の卒業した芸術学部で始まったスマイルキャンパスプロジェクトに対する偽らざる学内の評価ではなかろうか。 

 

 日大のウェブサイトで24年4月17日、「日大生×ドーナツ スマイルキャンパスプロジェクトが始動」と次のように書き、くだんのイベントが始まった。 

 

 「学生たちの笑顔で大学を明るくしたいという思いから、大学生世代を中心に大人気の『I'm donut?』様にご協力いただき、昼休みにドーナッツ300個を配布しました。昼休みに実施し、配布ブースには大勢の学生が詰めかけました。音楽学科の上村さや香助教によるパフォーマンスや、林理事長や大貫進一郎学長、川上央芸術学部長らも参加しました」 

 

 林理事長がいたく熱を入れているイベントだ。評判の「I'm donut?」は渋谷や原宿など都内に数店舗あり、どこも長い行列ができるほどの人気店である。ちなみにスタンダードのアイムドーナツは238円だから、300個なら1日の売り上げが7万1400円也。今のところ無料サービスなので、ドーナツ代をはじめとした販売費用は大学側の負担になるのだろう。今年、このイベントをどこまで広げるつもりなのかにもよるが、たかがドーナツと侮るなかれ。1日10万円の費用としてひと月で300万円、仮に16学部全てでドーナツプロジェクトをやれば、ひと月4800万円の出費となる。 

 

 目下、日大は厳しい運営環境に置かれている。23年8月に発覚したアメリカンフットボール部の薬物事件の処理が終わらないまま、24年7月には重量挙部の特待生授業料詐取が判明し、この先、捜査が始まる。また1000億円を超える付属病院の建て替え費用を巡り、経理上の問題も浮上、それらの不祥事に比例するかのように入学志願者が減り、今年も元に戻らない。ハッキリ言ってドーナツの無料サービスどころではないはずだが、サイトで終わりに「今後は他学部でも実施する予定です」とある。 

 

 「もしドーナツ店を学内に出せば、あの悪名高い日大事業部が取り仕切ってきたキャンパス内の自動販売機事業より儲かるかもしれない。しかし、そもそもこのイベントは業者の入札はもとより、見積もり合わせすら行っていない。となれば、各学部は林理事長が決めた業者(ドーナツ店)の言い値で購入させられることになります。大学が置かれている状況を考えると、砂糖まみれの油揚げ菓子を嬉々として学生に配るその神経が理解できません」(ある大学職員) 

 

 日大改革をうたって鳴り物入りで22年7月に理事長に就任して以来、林真理子が取り込んだ目玉政策が日大事業部の解体だ。ワンマン理事長として聞こえた田中英壽が取り仕切ってきた事業であり、元アメフト部のエースだった井ノ口忠男が、田中に認められてキャンパス内の自動販売機設置を一手に担ってきた。結果、日大は背任事件や脱税事件に塗れたのは周知の通りである。 

 

 脱田中を目指した新理事長が日大事業部を目の敵にするのは、改革イメージを高めるためだったのであろう。23年1月30日付の「日本大学新聞オンライン」は「日大事業部が解散」と題してこのように報じた。 

 

 「同社は2010年、同法人が100%出資して設立した事業会社。井ノ口忠男元理事らによる背任事件の舞台となったことから、昨年4月7日に同法人が文部科学省宛てに出した文書『学校法人日本大学の前理事長及び元理事に係る一連の事案に対する本法人の今後の対応及び方針について(回答)』で、同社の昨年末での解散が示されていた」 

 

 田中英壽が理事長に就任した2年後の10年以来12年続いた日大事業部は、日大帝国に君臨した田中肝いりで設立された。それだけに、諸悪の根源のように見られてきたといえる。22年12月会社そのものが消滅し、林真理子はこれが日大改革最大の成果だ、とみそを上げた。 

 

 だが意外にも、大学内部からは称賛より、むしろ不安の声が聞こえてくるのである。 

 

 

● 日大事業部の解散により 業者と学部の癒着が復活の可能性 

 

 「大学が出入り業者との取引を管理する日大事業部のような会社は、たいていどの私大にもあります。日大の場合、過去、それぞれの学部で事務局が業者と組んで取引していて、業者との癒着ぶりが目にあまっていました。そのため、田中理事長が大学本部で取引を一本化して管理しようとした。そんな側面もあります。そこを井ノ口らにいいように操られて背任事件の舞台になってしまった。それはそれで問題です。しかし、とどのつまり林改革は元に戻ったという話になります。それで、業者と学部という以前の癒着が復活するのではないか、と心ある職員たちは心配しているのです」(前出の幹部職員) 

 

 その林が取り組んだもう一つの改革が、OB組織である校友会と大学幹部職員の人事異動だった。わけても学内では、各学部の事務方トップとして出入り業者の利権を握ってきた23年の5月10日付の事務局長総入れ替えが話題を呼んだ。 

 

 名目上は理工学部の山中晴之事務局長の定年退職に伴う人事異動だったが、異動を命じられた幹部職員は実に43人に上る。この大人事の中心が16学部の事務局長人事だったのである。日大幹部職員が解説する。 

 

 「これまで各学部の事務方トップである事務局長人事は田中元理事長の専権案件であり、そこに手を突っ込んで事務局長を総入れ替えすることにより、『時代は変わったんだよ』と学内向けにメッセージを発した。それが林執行部の主眼だと思います」 

 

 しかし、これもまた学内で不評だった。ベテランの事務局長はそれぞれの業務に精通し、学部の運営がスムーズに行われていた側面もある。いきなりの大異動により、学内はむしろ混乱した。肝心な業務に支障を来たすのではないか、と懸念する声があ上がったのである。 

 

 そんな矢先の同年8月、日大の林執行部をアメフト部の薬物事件が襲った。そこからの迷走ぶりは拙著『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(東洋経済新報社)に譲るが、事件の処理は今なお続いている。 

 

 そんな日大では、学内はもとよりOBに至る関係者が25年1月1日付の元旦幹部人事に驚いている。それが井上由大歯学部事務局次長の事務局長への昇格である。 

 

 「林真理子理事長は何を考えているのでしょうか。よりによってあの薬物事件におけるA級戦犯を復権させるとは……」 

 

 複数の関係者が口をそろえてそう非難している。それもそのはずだ。くだんの井上は昨年まで日大の主要な運動部を統括してきた競技スポーツ部(現競技スポーツセンター)の部長だった人物であり、例のアメフト部員が引き起こした薬物事件の対応で大失態をやらかした。文字通り事件の中心人物なのである。 

 

 薬物事件については『魔窟』にも詳しく書いている。現在の日大迷走の始まりといっていい。 

 

 事件の発覚は23年8月にさかのぼる。7月にアメフト部の寮で発見された大麻や覚醒剤について、取材に訪れた報道陣に対し、あろうことか理事長の林真理子が8月2日、「違法な薬物など見つかっていません」と全面否定した。そのうそがすぐにばれ、大麻不法所持などの疑いで3年生の部員が逮捕される。そこから薬物汚染の実態が明るみに出ていった。 

 

 

● 改革はパフォーマンス優先で 肝心の保体審の支配構造は手付かずの声 

 

 すると、それまで記者会見などでお互いをかばい合ってきた林執行部が仲間割れを始める。理事長の林はそれまで「適切に対応してきた」と会見で開き直ってきた対応から一転、調査に当たった前副学長の澤田康広を理事会などから締め出した揚げ句、クビにした。片や澤田は林を相手取って損害賠償請求訴訟に踏み切る始末なのである。 

 

 大学の首脳同士がそんなありさまだから、現場の幹部職員たちも推して知るべしだった。アメフト部では、事件発覚の1年前にすでに大麻の使用を名乗り出た部員がいた。にもかかわらず、警察に相談してアドバイスを受けたとうそを言い、事件を封じ込めたのである。その隠蔽体質は目を覆うばかりだった。 

 

 一連の事件隠蔽を画策した張本人の一人が運動部を所管する競技スポーツ部長の井上だったのだ。事件発覚後、井上は当然部長から歯学部の事務局次長に降格された。ところが、そのA級戦犯が年明けの元旦人事で復権、次長から事務局長に出世したのだから学内が騒然としたのは無理もない。日大OBが憤る。 

 

 「日大では大学本部の保体審(保健体育審議会)が、大学の看板となるメジャー運動部を管理、統治してきました。運動部が大学職員の主流であり、それはいわば戦後、日大の伝統として引き継がれてきました。相撲部出身の田中英壽をはじめ歴代の理事長や総長がそれを利用して大学を牛耳ってきたといえます。だが、田中理事長時代の18年、アメフト部が反則タックル事件を引き起こし、管理監督問題が世間の批判の的にされた。結果、保体審が競技スポーツ部に衣替えしましたが、結局、その支配構造は変わっていません。林体制になってからもそこには手を付けていません」 

 

 田中支配の脱却を唱え、大学改革を担って理事長に就任したのが林真理子だったが、肝心のところには目もくれなかったようだ。OBが続ける。 

 

 「林さんは友人知人を理事に招いて理事会を構成し、彼らに大学運営を任せてきましたが、しょせんは日大のことが分かっていません。いわば大学改革という名のパフォーマンス優先、肝心な部分が抜け落ちてきました。その象徴が運動部の管理体制でしょう。換言すると、田中体制を引き継いだ林理事長は改革を放置したともいえるのです。その責任は大きいでしょう」 

 

 林真理子は今年7月、理事長に就任してから丸3年を迎える。もはや田中時代の負の遺産という言い訳も通用しない。いったいなぜこんな人事がまかり通ったのか。先の幹部職員は手厳しい。 

 

 「今度の井上氏の歯学部事務局長への出世について、本部では井上氏が競技スポーツ部長としてアメフト部の薬物対応を執行部のせいにせず、罪をかぶったからだとも伝えられています。林理事長には、村井一吉前常務理事(現顧問)をはじめ“四人組”といわれる本部執行部の親衛隊がいます。井上氏は、四人組に部員の自白後大麻の存在を伝えていないといい、彼らを守った。その論功行賞として今度の人事が行われたという説です。真偽は分かりませんが、どちらにせよ林理事長、あるいは篠塚力常務理事が承諾しなければできない人事ですから、そういわれても仕方ないのでは」 

 

 井上はいわば泥をかぶり、汚れ役を引き受けたから復権できたということになる。だが、それにしても早過ぎないか。 

 

 実は元旦人事では、ひそかにもう一つの人事も話題になっている。それが田中元理事長の夫人のお気に入りだった医学部の幹部職員だ。『魔窟』でも田中夫人の薬の運び屋と書いた人物で、田中失脚後、医学部特任事務長として閉塞させられていた。それが今度の人事で本部財務部の特任事務長に栄転した。日本一のマンモス大学は今年もまた揺れ動きそうである。(敬称略) 

 

森 功 

 

 

 
 

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