( 255856 )  2025/01/27 04:25:06  
00

インバウンドの増加に伴い、都内を中心にビジネスホテルの宿泊代の高騰が続いている。要因のひとつにダイナミックプライシング導入の影響も指摘されている(写真:Getty Images) 

 

 需要に応じて刻々と価格が変動する「ダイナミックプライシング」。さまざまなサービス分野で急速に広がっているが、消費者からは不満の声も。「固定価格」からの移行が進む過渡期のいま、企業側に求められる姿勢とは――。AERA 2025年1月27日号より。 

 

*  *  * 

 

「ビジネスホテルがダイナミックプライシングとかいって1泊3万」「ビジネスホテル一室5万円はさすがにダイナミックプライシングの行き着く先みたいな状況」「安心お宿カプセル 1泊17800円 ダイナミックプライシングが爆発しすぎ」 

 

 SNSには、インバウンドの増加と相まってホテルの宿泊料金が急騰している現状への不満が、「ダイナミックプライシング」とセットで発信されるケースが目立つ。同様の投稿は、プロ野球やJリーグ、ライブイベント、テーマパークなどの料金設定でも見られる。これらは需要に応じて価格を弾力的に変動させる「ダイナミックプライシング」(変動価格制)が、社会に広く浸透している実態の反映ともいえる。 

 

「もう完全に富裕層ビジネスだなと思いました」 

 

 昨年末に子連れで休日に東京ディズニーランドを訪れた都内の40代の会社員女性はこう嘆いた。 

 

 ディズニーランドの大人の1日券(1デーパスポート)は1983年の開園当初は3900円だった。96年4月から2011年4月までは5千円台、16年4月に7千円台とジリジリ上昇。価格帯を一変させたのは21年3月に導入されたダイナミックプライシングだ。曜日や人出の予想などに応じてチケット代を変える制度導入に伴い、8200~8700円に。23年10月に改定された料金設定は7900~1万900円だ。 

 

「価格幅だけを見ると単純な値上げとは言えないのかもしれませんが、支払った額は目をむくほど高かったという印象です。仕事や学校がある平日に出かけるのは無理なので相当の出費の覚悟が必要です」 

 

 こう振り返る女性は、出費以外の「負担」にも言及した。 

 

「チケットや各種パスは効率的に無駄のないように気を張って次々予約していかないとロスしてしまう仕組みのため、デジタル弱者は絶対に行けません。もうヘトヘトでした」 

 

 

■一時的に利益が上がっても顧客の信頼を失うことも 

 

 記者の皮膚感覚でいえば、高速バスは閑散期には驚くほど価格が安いと感じることがある。逆に、プロ野球のチケットは価格が上がり過ぎて、「観戦はもう無理」と感じることが多くなった。いずれも価格は変動しているはずだが、自分が購入したいと考えるタイミングによって印象は大きく変わる。何しろ、今どきのAIを駆使したダイナミックプライシングは分単位で刻々と価格が変動しているからだ。 

 

「いまは社会や消費者に受け入れられる価格変動とは何かを試行錯誤している時期だと思っています」 

 

 デジタルマーケティングに詳しい東京工科大学の進藤美希教授はこう話す。 

 

 AIを使ったダイナミックプライシングが本格化したのは2010年代以降。だが、サービスや商品に対する需要が時間や場所によって変化し、それに合わせて価格が上下するのは今に始まったわけではなく、有効な価格戦略であることも広く共有されている。DX化やデジタル技術の進展に伴い、これまでとはケタ違いの幅と頻度で価格変動させる企業が増えるのは不可避だとしても、どの程度の変動がふさわしいのかは個別のサービスや商品によって見極めていく必要がある、と進藤教授は唱える。 

 

「一時的に売り上げや利益が上がっても、それが10年、20年と継続するブランドを確立し、顧客と共に育っていく企業にふさわしいかどうかはまた別問題です。大幅な価格変動を繰り返すことで長期的な信頼を失ったり、ブランドイメージを損なったりすれば企業にとっては本末転倒です」 

 

 例えば、数年前まで1泊8千円前後だったビジネスホテルが数倍の価格を提示する場合、客室やサービスのクオリティーに変化がなければ長年利用してきた顧客の不信をかうリスクもある。 

 

「3万円払うのにふさわしいと感じてもらえるサービスをホテル側が努力して提供しなければ支持を得られません。ブランドが傷つくと言っても過言ではないでしょう」(進藤教授) 

 

(編集部・渡辺豪) 

 

※AERA 2025年1月27日号より抜粋 

 

渡辺豪 

 

 

 
 

IMAGE