( 256136 ) 2025/01/27 17:24:33 0 00 中居正広氏は23日、芸能界引退を発表した Photo:SANKEI
「失敗した」――。フジテレビ港浩一社長は1月23日に行われた同社社員向けの説明会で、6日前の記者会見をこう振り返ったという。タレントの中居正広さんと女性とのトラブルにフジテレビ社員が関与したと報じられた問題で、フジテレビが窮地に陥っている。こうした中、同社は第三者委員会の設置を公表。27日には“オープンな会見”を行う予定だが、起死回生につながるのか。これまでの対応の問題点と、今後のシナリオについて、広報の専門家で元テレビ局員の下矢一良氏が語る。(構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)
● 初手を間違えたフジテレビ 情報戦では文春に“完敗”
1月23日、フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスは、一連の報道を巡って第三者委員会の設置を決定しました。
今のところ、フジテレビは週刊文春との情報戦で完敗している、というのが正直な感想です。
記者会見の失敗はすでに多く語られていますが、フジテレビはこの問題の“初手”でもミスを犯していました。
2024年12月、週刊文春が「中居正広氏のトラブル」について報じました。ここで社員の関与が指摘されたわけですが、フジテレビはすぐさま「当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません」と報道を否定しています。
ただ、週刊文春としてはフジテレビが否定してくることはもちろん想定していたはずです。その上で、その後の攻め筋、“勝算”が見えていたといえるのではないでしょうか。
文春は今回の問題を年末最終発売の合併号で報じました。思い返せば、同誌が松本人志氏の性加害疑惑を報じたのも、23年末のこと。つまり、文春は松本氏の問題と同様に本件に注力している。「2025年はこの問題を追及しようとしている」のだということは、ある程度報道メディアに関わっている人間であれば、想像がつきます。
にもかかわらず、脊髄反射のように「一切関与していない」と否定してしまった。この対応は誤りだったと思います。どんなに社員は無関係であるという自信があったとしても、「現時点では社員の関与があったとは考えていませんが、さらなる調査をもって……」等、含みを持たせておくのが最善の策でした。案の定、文春の報道は続き、傷を深くしたといえます。
● テレビの良さを全く生かせなかった フジテレビの会見
さらに1月17日に行った記者会見で、テレビカメラを入れなかったのは決定的にまずかったです。「テレビ局なのに映像取材を許さない」というのは、誰が見てもおかしなことでしょう。
その結果、フジテレビを含め、各局のニュース番組が紙芝居のような異様な形でこの事態を世に知らしめてしまったのです。
世の中の問題の多くは、賛否両論あるものです。SNSが世論の形成に非常に強い影響力を持つ昨今、原発問題、ライドシェアなど賛否がある問題は一つの方向に世論が盛り上がりにくい側面があります。そういう現代において、「誰が見てもダメなことをやってしまう」と“負け”なのです。フジテレビは会見で、まさにそうした「誰が見てもダメな」失敗をしました。
映像によってシンプルに分かりやすく伝えることが真骨頂であるテレビで、シンプルに分かりやすく責められる材料を提供してしまった――。これが、フジテレビの会見における大きな失敗でした。
第三者委員会についても同じです。17日の会見では、「第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げる」ことに言及しましたが、日弁連のガイドラインに沿った「第三者委員会」ではないことが批判されました。これも分かりやすく、突っ込まれる材料を提供してしまった形です。
結局、日弁連のガイドラインに基づく独立した第三者委員会を立ち上げることになり、オープンな形式での会見も行われることになりました。正直、ここまでの対応は場当たり的といわざるを得ません。
● CM差し止めはできても 再開するのが難しいワケ
17日の会見後、トヨタ自動車をはじめとする大手スポンサー企業が次々にCM差し止めを決定しました。問題の発覚からかなり迅速な決定だと思いますが、即断できた背景には、ジャニーズ問題の経験・教訓があるのだと思います。
性加害疑惑や性に関するトラブルが報じられたときに世論がどう動くのか、そしてスポンサーである自社がどう責められるのか、を経験している。だからこそ、今回の問題に関して、迅速な判断ができたのではないでしょうか。「刑事事件にもなっていないが、止める判断をしていいのか」などの議論もジャニーズ問題のときにすでに行っており、前例に沿った判断がしやすくなっていたはずです。
また、テレビ広告を出すような大手企業であれば、社長会見などで「競合のA社はCMを差し止めましたが、御社の対応は?」などと聞かれることもあるでしょう。スポンサーを続ければ、自社が批判される可能性がある。フジテレビのために余計なリスクを背負いたくない、というのが企業の本音だと思います。
では、こうして離れたスポンサーは、どうすれば戻ってくるのか。
ここからが、フジテレビにとってのいばらの道です。
広告主からすれば、広告を再開する理由の説明責任が生じるわけです。CM放映を止める際には、「総合的に判断して」とか「フジテレビから納得できる説明があるまで」とか、理由を見つけやすいのですが、再開するときの説明は難しい。それによって企業がたたかれない、中途半端に突っ込まれない、まさに「ぐうの音も出ない」理由が用意できなければなりません。
● フジテレビに スポンサーは戻ってくるのか
フジテレビの第三者委員会がやり過ぎなくらいの徹底的な調査を行い、関係者には極めて厳しい処分を下して、初めてスポンサー企業が戻ってくるための土壌が整います。
例えば、2004年、顧客情報の流出が問題となったジャパネットたかたは、再発防止策を徹底するため49日間にわたって営業を停止しました。この大胆な決断と実行は、「危機管理のお手本」といわれています。そのくらい「そこまでやるの!?」という姿勢を見せられなければ、批判の声は続くでしょう。
ただ、そこまでの徹底した調査ができるのか、懸念が残ります。第三者委員会は3月末に調査報告書を提出するとのこと。発表が1月23日、準備や報告書にまとめる期間などもあるとして、調査期間は実質的に1カ月ほどになるのではないでしょうか。
フジテレビとしては、6月の株主総会を見越して、3月末に調査結果を受け取り、その結果をもって4〜6月でスポンサー企業に頭を下げ、7月にはなんとか戻ってきてほしい……というシナリオを描いているのかもしれません。
しかし、この短期間で、ステークホルダーが納得できるような徹底的な調査ができるのでしょうか。調査結果公表後に、新たな問題が明るみに出る可能性も否定できません。
いずれにせよ、フジテレビにとって、離れていったスポンサーを呼び戻すことは容易ではないのです。
下矢一良
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