( 256156 )  2025/01/27 17:47:36  
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(c) Adobe Stock 

 

 フジテレビからのスポンサー離れが加速している。タレント・中居正広氏をめぐる女性トラブルの影響に加え、あまりにお粗末な社長会見が大炎上し、スポンサーのCM放映差し止めが雪崩を打っているのだ。報道機関のガバナンス不全には国からも独立性の高い調査委員会による調査を要求され、あまりに後手の対応も批判されている。経済アナリストの佐藤健太氏は「もはや港浩一社長が引責辞任するだけでは収まらない状況に見える。世論を読み間違えた対応の責任はフジの役員全員にあるだろう」と指弾する。 

 

 一体、何を視聴していたのかと錯覚する人は少なくないだろう。相次ぐスポンサーのCM出稿差し止め決定により、フジテレビで放映されるCMは公益社団法人「ACジャパン」の広告に次々と差し替えられている。SNS上の偏見や噂話に対する注意喚起、災害に備える備蓄品の重要性、健康啓発…。社会問題を今一度考える機会としては良いのかもしれないが、番組途中にひたすら繰り返されると辟易とする人もいるはずだ。 

 

 ACジャパン広告への差し替えは1月20日までに350本以上に達し、自社CMの差し止めを決定した企業は70社超に上るという。これがフジテレビに対する現時点での世の中の「評価」と言えるだろう。無関係の番組出演タレントやフジ社員がかわいそうに感じるほどだ。社外取締役を務める文化放送の斎藤清人社長らが要請し、フジテレビを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングス(HD)は1月23日に臨時取締役会を開催することになったが、中居氏をめぐるトラブル発生から対処まで後手後手である点は否めない。 

 

 フジテレビの港社長は1月17日に開いた記者会見で、トラブル発生の直後(2023年6月初旬)に事態を把握していたと明らかにした。だが、その後もフジは中居氏を番組に起用し続け、「極めてセンシティブな領域の問題」としながらも十分な対応をしてこなかったことは週刊誌が報じる被害女性のコメントからうかがえる。 

 

 会社として女性の心身の回復とプライバシー保護を優先し「極めて秘匿性の高い事案と判断した」のは当然だが、なぜトラブル把握から1年半が過ぎた今になって弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げるのか理解に苦しむ。トラブルの対処体制や相談窓口の実効性、ガバナンスの欠如が心配でならない。 

 

 

 かつてフジテレビキャスターを務めた神奈川県の黒岩祐治知事は1月21日の記者会見で、フジの社長会見が動画撮影を認めないなど閉鎖的だったことに関し「企業が不祥事を起こした時は、とにかく記者会見やってくれと迫った方ですよね。逆の立場になった時にテレビカメラを入れない、映像も撮らせないという意思決定が行われたことが信じられない」と指摘している。 

 

 まさに、その通りだろう。トラブルを1年半前に把握しながら、週刊誌に報じられると「社長会見の参加は記者会加盟社のみ」「生中継やテレビカメラはなし」という条件で会見を開く。そのような意思決定を下したフジの役員全員は報道機関として恥ずかしくないのだろうか。 

 

 第三者の弁護士を中心とする調査委員会の立ち上げについても、フジ側は日本弁護士連合会のガイドラインに基づく独立性の高い「第三者委員会」ではないと説明した。だが、社外取締役からの要請に加えて、村上誠一郎総務相は「独立性が確保された形で早期に調査を進め、信頼回復に努めてほしい」と求めた。 

 

 フジ側としてはテレビ局の春と秋の番組改編、あるいは6月の株主総会までに事態を収拾したいとの思惑があるのかもしれないが、トラブル把握後の対処体制や相談窓口の実効性、ガバナンスの欠如といった点はスポンサー企業にとって軽視できない問題だろう。民間企業ではあるものの、そこは「自分ファースト」であってはならないはずだ。少なくとも、これまでのフジの報道姿勢は同じだったと感じる。 

 

 世論を甘く見ていると映る今回の問題と対照的に思えるのは、俳優・吉沢亮氏をめぐる騒動だ。吉沢氏は1月6日、酒に酔って自宅マンションの隣室に無断侵入した問題が報じられた。広告に吉沢氏を起用していたアサヒビールは翌日に契約解除を発表し、同9日には花王も公式サイトから吉沢氏が出演していたCM動画を削除した。主演映画も公開延期が決まっている。 

 

 アルコールに伴うトラブルを飲料会社が容認することは考えられず、子供から大人まで使用する歯磨き粉のCM動画にマイナスイメージがつくとの花王の判断も当然だ。ただ、家電・生活用品大手「アイリスオーヤマ」の対応は違った。 

 

 

 同社は1月14日に「タレント契約継続決定のお知らせ」と題したリリースを発表し、「当社が広告に起用している俳優・吉沢亮さんについて、一部報道で不適切な行為に関する内容が報じられています。お客様および関係者の皆様には、多大なるご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます」と説明。その上で「当社は、吉沢亮さんを起用した広告およびプロモーション活動を今後も継続して実施することを決定いたしました」と明らかにしたのだ。 

 

 アイリスオーヤマの広告起用継続には、ネット上で称賛の声が相次いだ。通常ならばトラブルのあった著名人はCMから姿を消す。アイリスオーヤマも当然、起用継続に反対する声も想定したはずだ。しかし、同社は理由として「吉沢亮さんは、アイリスオーヤマのブランドアンバサダーの一人として、卓越した表現力と幅広い支持層を持つ俳優です。これまで多くのお客様に当社の魅力を伝えていただきました。その存在感は、ブランド価値の向上にも大きく貢献していただいております」と説明。さらに「今回の契約継続は、吉沢亮さんの今後の挑戦を応援し、共に頑張っていきたいという当社の決意を示すものです」と宣言した。 

 

 もちろん、吉沢氏の起用は好ましくないとの意見もあるだろう。ただ、アイリスオーヤマは吉沢氏が所属する芸能事務所「アミューズ」とも協議の上、吉沢氏と相手側の示談成立などを総合的に判断したとみられる。事態の重大性などに差があるのは当然としても、会社の判断としてネット上で称賛を浴びるアイリスオーヤマと、今回のフジテレビの対応はどこに違いがあるのだろうか。 

 

 1つは、所属事務所が報道当日の1月6日に「報道の通り、2024年12月30日に、吉沢亮が自宅マンションに帰宅した際に、酒に酔って自分の部屋ではなく隣室に入ってしまいました。隣室の方には大変ご迷惑をおかけしてしまったため、すでに当社および本人からお詫びをさせていただいております」と発表した点にある。アミューズは「ファンの皆様、および関係者の皆様にはご心配とご迷惑をおかけしており、大変申し訳ございません」「すでに吉沢はマンションを退去しております。近隣のご迷惑にもなりますので、マンション周辺での取材などの行為はくれぐれもお控えください」と対応した。 

 

 

 この点を見ると、今回の中居氏をめぐる問題は異なるように映る。昨年12月27日に公式サイトで週刊誌報道を否定したフジテレビは「このたび一部週刊誌等の記事において、弊社社員に関する報道がありました。内容については事実でないことが含まれており、記事中にある食事会に関しても、当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません。会の存在自体も認識しておらず、当日、突然欠席した事実もございません」と説明。中居氏は1月9日に公式サイトで「トラブルがあったことは事実です。そして、双方の代理人を通じて示談が成立し、解決していることも事実です」と強調した。 

 

 アイリスオーヤマとフジテレビは非上場企業で、当事者の示談が成立している点も共通する。ただ、アイリスオーヤマは吉沢氏の所属事務所と協議した上で総合的に対応を決定したのに対し、フジ側は中居氏側からどれだけ説明を受けたのか。被害女性への対応は本当に適切だったのかは判然としない。 

 

 中居氏は「なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」とのコメントを発表したが、トラブル把握後もフジテレビが中居氏の番組出演を許容し続けてきた理由は何なのかもわからない。 

 

 フジテレビと中居氏の間で起きていたのかも説明されていない 

 

「センシティブな問題」で被害女性の心身ケアやプライバシー保護を優先することは理解できるが、週刊誌報道は「否定」するものの、いまだ何がフジテレビと中居氏の間で起きていたのかも説明されていないのだ。 

 

 フジテレビは1月23日に社員向けの説明会を開いたという。これから独立性の高い「第三者委員会」が調査するとしても、調査や発表の方法などもスポンサー企業は注視していくだろう。昨年末に週刊誌報道を否定したフジ側の対応は調査で変わることはあるのか。世論を甘く見たツケは膨らみ続けるように見える。 

 

 かつては「メディアの雄」といわれたフジテレビは変わることができるのか。米国やフランス、ドイツなどの海外メディアも注目する中、閉ざされた取材空間でトップから本気度を感じることができなかったのは残念でならない。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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