( 256176 )  2025/01/27 18:10:33  
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報道では80社近くがフジテレビでのCM放映を差し止めたとされている(写真:Bloomberg) 

 

 1月26日放送のフジテレビ「ワイドナショー」。タレントの田村淳氏やフジテレビの報道番組でキャスターを務めていた安藤優子氏などの出演者が、中居正広氏の性加害問題とフジテレビをめぐる問題について20分超の時間を費やして議論した。 

 

 番組開始の午前10時から次の番組が始まる午前11時15分までに流れたCMは54本。この日のワイドナショーはベリーベスト法律事務所の1社提供だったが、B型肝炎給付金請求制度を告知する同事務所のCMは1本しかなかった。 

 

 代わりに目立ったのはACジャパンの公共広告。その数は42本に上り、番組中に流れたCMの8割に達した。同日18時30分からの「サザエさん」もCMの8割超がACジャパンだった。提供は西松屋1社のみ。30分の番組中17本流れたCMのうち、通常のCMは西松屋と引越し侍の2本だけだった。 

 

 「動画拒否」などその閉鎖的な姿勢が酷評された1月17日の会見から1週間を経て、フジテレビは本日27日に記者会見を行う。会見で社会からの信頼を取り戻すためのスタート地点に立つことができるのだろうか。 

 

■「CM差し止め企業」も説明しないといけない 

 

 1月17日の会見の後、企業による同局番組へのCM差し止めが相次いだことを受けて、東洋経済は会見に対する見解やCM出稿の取り扱いなどを各社に尋ねた。CMスポンサーや広告代理店、フジ・メディア・ホールディングス(HD)の大株主など15社に書面で質問した。 

 

 一連のCM差し止めで目立ったのは、トヨタ自動車の迅速な判断だ。17日会見は金曜日の15時からだったが、トヨタは翌18日放映分のCMから差し替えた。 

 

 書面質問では、17日会見の説明内容や開催形式についての評価、CM差し止めの判断に至った考えなどを聞いた。それに対しトヨタは、「弊社CMについては、AC広告に差し替えている。それ以上の詳細については差し控える」とのみ回答した。 

 

 「ビジネスと人権」に詳しい蔵元左近弁護士は、各社のCM中止について「人権問題としてどう捉え、どのような措置を取ったのかを合理的な範囲で説明することが、スポンサー企業の社会的評価の向上、さらには中長期的な企業価値向上につながる」と強調する。 

 

 

 説明なしにCMを打ち切る対応は、「ビジネスと人権」を推進する企業の姿勢にはそぐわないというわけだ。 

 

 重大な不祥事を抱えるテレビ局の番組に広告を出してもマイナスイメージにしかならないというのは、企業であれば当然の理屈だ。単にイメージが悪くなるから止めるのか、それとも自社が人権侵害を助長することを防ぐために取引関係を見直すのかは、似ているようで大きく違う。 

 

 見極めるポイントは、取引関係を見直す理由を対外的に十分に説明しているかだ。フジテレビに対して具体的にどのような是正を求めているかもカギになる。自社のステークホルダーに対して人権侵害を許容しない姿勢を示すだけでなく、問題企業に対応を促すことにつながるからだ。 

 

 こうした観点から見ると、トヨタの回答には物足りなさを禁じ得ない。CM差し止めを公にしているにもかかわらず、「情報が一連の報道のみである状況において、総合的に判断した」とだけ回答したNTT東日本も同様だ。 

 

 なお、広告代理店の電通は、書面質問での各設問には回答しなかったが、「報道を担うフジテレビ社に対する社会全体の信頼が揺らぎかねない深刻な状況」とし、「すでにしかるべき説明および対応の実践を求めている」とのコメントを寄せた。 

 

 フジ・メディアHDの大株主である東宝も設問には回答しなかった。ただ、「株主としてこのたびの問題について、フジ・メディアHDに対し事実関係の調査など適切な対応を行い、早期の信頼回復に努めるよう要望を伝えている。当社としては今後も同社と対話を続けながら対応を注視する」とコメントした。 

 

 博報堂DYホールディングス、ファーストリテイリング、ヤクルト本社の3社は、少なくとも3日間あった書面質問の回答期日内に返答がなかった。 

 

■日本生命「調査結果は適時適切に説明を」 

 

 トヨタとともに迅速なCM差し止め判断で注目されたのが日本生命だ。5月末に同社の筒井義信会長が日本経済団体連合会の会長に就任するだけに、日本生命の動向は他社の判断にも影響したとみられる。 

 

 書面質問では17日会見の受け止めを「十分」「どちらともいえない」「不十分」から選んでもらう形式の問いを設けた。 

 

 この設問に日本生命は「不十分」と回答。「報道等を確認するところでは、人権の観点での懸念が払拭されるような十分な説明はなされず、事実関係は未だ不明瞭なままであると認識している」と理由を説明した。 

 

 

 CM差し止めは「報道状況を総合的に勘案して」行ったと回答。「報道されているような懸念事象の実態把握・調査を適切に進めていただくとともに、調査結果等を適時適切に説明いただくことを求めている」とする。 

 

 ほかにCM差し止めを行った企業では、第一生命保険やキリンホールディングスは17日会見を「不十分」と評価。両社ともに取引先に対して人権方針の理解と順守を求めていると強調している。 

 

 一方、トヨタや日本生命と同様、CM差し止めをいち早く公にした明治安田生命保険は、17日会見について「どちらともいえない」とした。理由は「会見を直接聞いたわけではないので判断するのが難しい」。重要な会見はネットで広く視聴できる現在。明治安田の答えはフジテレビの時代遅れな姿勢が招いたといえる。 

 

 書面質問では、今回のような性加害問題に関する事案が他局でも起きていないか、その懸念の有無も尋ねた。「懸念はない」「懸念がある」「懸念があり、すでに対応を求めた」から選んでもらった。 

 

 無回答であっても「明確な情報を持ち合わせていないから」といった理由をコメントするなど、問いに正面から向き合う姿勢を示した企業は、アサヒビールやアサヒ飲料を傘下に持つアサヒグループジャパン、キリンHD、日本生命、第一生命、明治安田、セブン&アイ・ホールディングスだ。 

 

 このうちアサヒグループジャパンは「懸念はない」と回答。「他のテレビ局でフジテレビと同様の事案が発生していると認識していないため、対応を求めることは考えていない」とした。 

 

 他方、セブン&アイHDは「懸念がある」と回答したうえで、すべてのビジネスパートナーと協働して人権尊重に取り組む旨、表明した。なお明治安田は無回答としつつも、「他のテレビ局の状況を踏まえ、今後、必要に応じて対応を検討する」との考えを示している。 

 

■「性的接待」を求められた人は氷山の一角か 

 

 前出の蔵元弁護士は、「今回の件は氷山の一角ではないかという疑念も出ており、CMスポンサー企業は他局に対しても積極的な調査を求めるべきだ」と指摘する。 

 

 テレビ朝日は、出演者やその関係者と社員との関係性に問題がないか、その実態を把握するための第一次調査を制作現場やアナウンス部を中心に行ったと1月22日に発表。「食事会等での不適切な行為の報告はなかった」としている。TBSも社内調査に着手した。 

 

 

 ただ、調査の具体的な内容については判然としない。 

 

 社会調査支援機構チキラボが「報道・芸能界におけるハラスメント構造についての横断調査」を実施し、2024年2月に結果を公表している。調査では回答者275人のうち、性的接待を要求されたことがあると回答したのは約2割。見聞きした経験がある人は約半数に上る。 

 

 問題が根深いことは明白だ。仮に各局が「自社のアナウンサーや社員が被害にあった」という限定した想定で調査を行っているとすれば、不十分とのそしりを免れないだろう。 

 

 フジテレビが立ち上げる第三者委員会も、中居氏の事案と類似する事案の有無を調査するとしているが、調査報告書の提出は3月末をメドとしている。調査期間は2カ月ほどしかない。 

 

 本日の会見で事実解明に向けた姿勢をどこまで示せるのか。社会、そしてCMスポンサー企業も注視している。 

 

大塚 隆史 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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