( 256371 ) 2025/01/28 04:47:15 0 00 タワーマンションが建ち並ぶ神戸市の街並み(写真:まちゃー/PIXTA)
神戸市の久元喜造市長が、1月10日、タワーマンションの空室所有者に対して新たに「空室税」を課すことを検討すると表明し、利害関係者の間で大激論になっている。
神戸市は昨年5月1日に「タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する有識者会議」を立ち上げた。そして、今年1月8日の第4回会議で、「タワーマンションと地域社会との関わりのあり方に関する課題と対応策」 (報告書・概要版)を公表。その中で自治体が独自に課税する法定外税(地方税法に定められた税目以外に、地方団体が条例により設ける税目)として空室税の導入を提案した。
久元市長は10日の会見で、投資目的の購入により空室が目立つ東京のオリンピック選手村跡の「晴海フラッグ」を例に挙げ、「神戸を居住目的の人がマンションを購入できないような街にはしない」との見解を示した。
また、報告書では、高層階になるほど住民登録がない部屋の割合が高いという実態を提示。適正な管理を行うためには、空き部屋の増加を抑制する必要性を訴えた。
これに対し、SNS上では「家賃の値下げバトルになる」などといった批判の声も上がり、導入までには紆余曲折の道が待っていることが予想される。
■タワマンのみを対象とした税導入試みは全国初
神戸市では、タワーマンションの建設によって住民が急激に増えると学校などの関連施設も不足しかねないなどとして、すでに、「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例」で中心部の三宮周辺での建設を規制していた。
タワマンのみを対象とした税を導入すれば全国の自治体で初めてとなるが、所有者が居住していない住居に税金を課す制度はすでにある。国の空き家対策特別措置法のほか、熱海市でも行われており、京都市でも予定されている。ただし、その趣旨や名称は異なる。
日本の不動産課税制度において、土地は住宅を取り壊して更地にすると土地にかかる固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍高くなってしまう。
固定資産税が高くなるのは、「住宅用地特例」という減税制度の特例が適用されなくなってしまうからだ。そもそも、住宅が建っている土地は「住宅用地特例」により、最大で固定資産税は1/6、都市計画税は1/3に減税されている。更地にすることで、この減税制度が適用されなくなるのだ。
しかし、近年は空き家の放置が増大し、この制度が問題視されてきた。何らかの理由により空き家となり、朽ちてきて近隣にも危害を与える可能性があったり、廃墟化が景観を阻害するような状況になる。ただ、それで所有者が建物を取り壊して更地にすると固定資産税が増大することになってしまう。
そこで、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成27年に施行、令和5年改正法施行)により、空き家の放置物件を減らすための施策が実施された。そのひとつとして空き家に高い税額を課すという対策が行われた。一定の条件に当てはまる空き家は、「特定空き家」として区分され、減税措置は適用されないこととなった。
■熱海市は別荘税を導入済み
熱海市は日本で唯一、別荘等所有税(別荘税)を導入している(→熱海市長が目論む「入湯税と宿泊税」の二重取り)。熱海市は住民登録をしていない別荘所有者には固定資産税に加え、別荘税を課している。税率は延べ床面積1平方メートルにつき年額650円だ。
京都市では、非居住住宅の所有者を対象とした「非居住住宅利活用促進税」を導入することとが決まり、課税開始は令和11年度を予定している。その理由として、「京都市に居住を希望する人への住宅の供給を妨げるとともに、防災上、防犯上又は生活環境上多くの問題を生じさせ、地域コミュニティの活力を低下させる原因」を挙げている。
京都市は、市街化区域内で利用されていない空き家や別荘などについて、居住実態がないことを条件として家屋の固定資産税評価額の0.7%(家屋価値割)と、土地平方メートルあたりの固定資産税評価額×家屋の床面積×税率(0.15〜0.6%)(立地床面積割)を課税する。税額については、固定資産税額(土地+家屋)の半額程度になる場合が多い(京都市HP)としている。
これらの法定外税の導入にあたっては、当然、自治体での議会での承認が必要であるが、総務大臣の同意も必要である。不同意要件は「国税又は課税標準を同じくし、かつ住民の負担が著しく過重となること」等である。
課税標準が同じでも、過重な税負担が強いられる場合(担税能力を超える負担)のみ不同意とする趣旨である。
熱海市と京都市の場合はどうであろうか。
熱海市の別荘税の場合、不動産所有者は固定資産税の納税義務があるから、納税義務者が同じである別荘税は二重課税ではないか? との指摘がある。
■負担は著しく過重ではない?
指摘に対する熱海市の見解は、熱海市のホームページにに掲載されている「別荘等所有Q&A質問 6」に対して、以下のように回答している。
固定資産税は家屋の価格(評価額)、別荘等所有税は延べ床面積をそれぞれ課税標準として課税されており、課税標準が異なっていますので二重課税とはなりません。 課税標準とは、「税金を計算する際の算定基準」のことだ。 課税標準が異なるということに加えて、税額については50平方メートルだと650円×50で年間3万2500円なので、負担が著しく過重とは言えないとの判断もあったと思われる。ただし、資産価値でなく、物件の広さで課税額が決まるため、古い物件ほど割高感が強くなる。
京都市の課税標準は固定資産税とほぼ同じだが、「税負担については著しく過重な負担とまでは言えない」との考えだ(総務省・地方財政審議会令和4年3月14日議事録)。
総務省の考えによれば、課税標準が同じでも著しく過重な税負担でなければ、不当な二重課税ではないということになる。したがって、神戸市の場合も、新たな空室税は固定資産税の標準課税である固定資産評価額(公示価格の70%)をベースにしても、「著しく過重な負担」となる税額でなければ、総務大臣の同意を得られる可能性がある。
神戸市のタワマンに対する空室税導入検討がニュースになる少し前、京都市の宿泊税を最高で1泊1万円にするという方針がやはりニュースになったが、この宿泊税も自治体が条例に基づいて定める法定外税だ。
神戸市の久元市長は、資産価値の劣化が起きればタワマンの中で空き家が増えて廃虚化する可能性が極めて高いとの認識を示しているが、神戸市は人口が減少しており、タワマン建設抑制政策によって、人口減がさらに進むとの見方もある。
これに対して、久元市長は「目の前の人口増をめざすのではなく、長い目でみて持続可能な都市として発展していきたい」と述べた。
■私的所有物を法定外税制で規制できるか?
自由主義経済のなかで、不動産も私的所有物である「物」として自由に所有、使用できることが原則であり、投資の対象にもなっている。一方でその名の通り、動かせない所有物であり、その所有・利用は都市計画や交通網の整備といった社会的な問題解決の障害になることもあり、利用規制や税制などを通じて、「公益」のために制限している。
しかし、自治体の法定外税制によるそうした規制手法が、私的所有を経済秩序の基本施策とする現代日本においては十分なコンセンサスが得られるかは疑問だ。
自動車においては、自動車税、自動車重量税があり、ガソリンに対してはガソリン税があり、さらにガソリン税額に対しても消費税がかかる二重課税が議論となっている。
不動産課税については、そもそも課税標準が異なれば、違法な二重課税ではないという考えでは、同じ不動産でも新たに建物の高さによる「高さ税」や窓の数に応じた「窓税」などを自治体が重複して課しても許されるということだ。
今後の神戸市の動きと国(総務大臣)の判断が注目される。
細川 幸一 :日本女子大学名誉教授
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