( 256571 ) 2025/01/28 15:39:05 0 00 1月24日、第217通常国会が召集され予算審議が始まった(写真:AP/アフロ)
石破茂政権で初となる通常国会が1月24日に召集され、政府が提出した2025年度予算案の審議が始まりました。年1回召集される通常国会は「常会」とも呼ばれ、150日間の会期中にさまざまな懸案や課題が審議されます。教育も福祉も外交・防衛も予算なしには成り立ちません。予算は国家の根幹を成すもので、その中身を見ると、いまの日本の姿や進行方向も見えてきます。そもそも国家予算とは何でしょうか? 2025年度予算案のポイントも含め、やさしく解説します。
(フロントラインプレス)
■ そもそも「一般会計予算」とは?
国家の一般会計予算は、どうやってできていくのでしょうか。
予算とは「何にいくらお金を使うか」の見積もりです。例えば、普段の暮らしの中でも「今月の食費は5万円に抑えよう」「交際費は2万円」などと、ひと月あたりのお金の使い道をあらかじめ決めている人も少なくないでしょう。
政府も家計と同じように1年間の収入と支出を見積もり、同時に「どんな事業にいくら必要か」「新たな政策の推進にいくら費やすか」「国家公務員の給与は全部でいくら必要か」といった細目を詳細に組み立てています。これの全体像が「予算案」です。国家予算では収入を「歳入」、支出を「歳出」と呼んでいます。
予算案づくりは毎年、年度初めの春ごろから始まります。対象となるのは、1年先の予算案。したがって、2025年度に始まる作業は2026年度予算案ということになります。
■ 予算案づくりの手順はどうなってる?
各省庁は5〜8月にかけて、翌年度の実施事業や必要経費を盛り込んだ「概算要求」をまとめ、財務省に提出します。各省庁は事前に地方公共団体や関係業界などの要望を聞き、実施事業を検討・絞り込んでいます。“有力政治家の声”に耳を傾けたり、逆に官僚側が有力政治家に根回ししたりすることも珍しくありません。
9月になると、財務省は概算要求の精査に着手し、その結果を踏まえて内閣が12月中に「政府予算案」を作ります。もちろん、「案」は案ですから、そのままで執行することはできません。翌年1月の通常国会に予算案を提出し、国民の代表たる衆参両院での審議後、議決されて初めて確定します。報道でよく耳にする「新年度予算案が可決、成立」というニュースは、この段階を報じたものです。
国会で承認されていない予算は執行できませんから、政府は新年度が始まるまでに予算案を成立させなければなりません。そうやって新年度の開始前にできたものが「当初予算」、年度の途中で組み直したものが「補正予算」です。国会審議が紛糾し、年度開始までに予算成立が間に合わない場合には、義務的経費を主とする「暫定予算」を組み、本予算成立までのつなぎとすることもあります。
こうした手続は日本国憲法に基づくもので、第86条は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と定めています。また、憲法第60条は「予算は、さきに衆議院に提出しなければならない」と規定。そのうえで、もし予算案に関して衆院・参院の議決が異なった場合は衆院の議決が優越するとしています。
一方、日本政府には2種類の会計、つまり“2つの財布”があることにも注意が必要です。
1つは「一般会計」です。歳入として税収や国債発行による収入などを見込み、歳出では公共事業や社会保障など一般的な行政事業にかかる経費が計上されています。これとは別に、事業目的や収入源を限定して運用されているのが「特別会計」で、一般会計とは切り離されています。
例えば、復興特別所得税などを財源に東北地方の復興事業を行う「東日本大震災復興特別会計」、石油石炭税などを原資として地球温暖化対策や原発事故の損害賠償などに充てる「エネルギー対策特別会計」などがあります。
特別会計は2024年度現在、全部で13会計を数えます。一義的な所管は財務省ではなく、事業を主管する各省庁。関連の業界・団体と狭い範囲で強く結びついているケースもあり、「癒着の温床」「実態が見えない」と言われることもあります。
それでは、2025年度の一般会計予算案を見ていきましょう。
■ 増え続ける歳出、いまや115兆円超え
開会中の通常国会で審議される当初予算案の「歳入=歳出」規模は115兆5415億円で、2年ぶりに過去最大となりました。100兆円という単位は想像も及びませんが、数字を並べると、「1」のあとにゼロが14個続き、「100,000,000,000,000円」となります。
近年の予算総額を見ると、その増え幅はまさしく“異次元”です。
例えば、今から四半世紀前、2000年度の一般会計当初予算は84兆9871億円でした。2025年度予算案と比較すると、30兆円も増えています。もっとも10年前の2015年度は96兆3420億円。増えてはいるものの、この15年間の増加幅は11兆円余りに留まっていました。
拡大が目立ち始めたのは2019年度予算からで、初めての大台突破となる101兆4571億円を計上。すると、翌2020年度は102兆円、次の年度には106兆円、少し飛んだ23年度には114兆円…と、坂道を転がり落ちるように膨らみ続けたのです。
これらの歳出増加に伴う財源不足を補ってきたのが、政府が発行する国債です。
財務省が公表している「国債発行額の推移(実績ベース)」によると、戦後、政府が初めて国債を発行したのは1965年度のことです。公共事業などの財源になる建設国債と、一般会計の補填に充当できる特例債、合わせて1972億円でした。
その後、この金額も年々増加し、1980〜90年代には10兆円台が頻発します。2000年代には30兆円規模の発行が続き、新型コロナウイルスの直撃を受けた2020年度には108兆円5539億円という空前の発行額になりました。
しかし、国債はあくまで借金です。発行すればするほど返済残高、いわゆる「普通国債残高」も膨らみます。実際、2022年度末には、この残高が1000兆円を突破しました。 日本のGDPに占める債務残高も257.2%に達し、米国(120.0%)やフランス(111.8%)など主要7カ国(G7)の中でも最悪です。
日本の財政は、まさに「借金まみれ」です。2025年度の一般会計当初予算案でも国債発行による歳入は、全体の24.8%を占めており、借金依存から抜け出す見通しは全く立っていません。
■ 宙吊り国会で財政の健全化は遠のく?
加藤勝信財務大臣はこの1月24日、国会での演説で「歳出・歳入両面の改革を着実に推進」すると述べました。さらに、債務残高対GDP比についても「世界最悪の水準にあるなど引き続き厳しい状況」とし、財政健全化の実現に意欲を示してはいます。
ただ、歳出については見直しによる抑制どころか、国会での審議を通じて増える可能性も出ています。
2024年10月の衆院選で与党の自民・公明両党は大敗し、石破政権は現在、少数与党となっています。ハング・パーラメント(宙吊り議会)状態に陥っているのです。議決の優越がある衆院で過半数割れになっているため、予算案を成立させるためには、どうにかして野党側の協力を得るしかありません。
野党はこの機を逃すまいと、各党が独自案を次々提案しています。国民民主党が強く訴え、2024年末の税制改正協議でも注目を集めた「103万円の壁」問題や、立憲民主党が掲げる「給食費無償化」、日本維新の会の「高校授業料無償化」など、どの政策も実現すればさらに歳出を増やす要因となるものばかりです。全体の歳出を増やさずに野党案を受け入れるのであれば、現行の歳出項目のどこかを削らざるを得ません。
増えない賃金や物価上昇などに取り囲まれた日々の暮らしを考えると、予算案の審議に無関心ではいられません。2025年度予算案の本格的な審議が始まる前に議論のポイントを把握しておくと、予算審議の大切さが今以上に実感できるはずです。
フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
フロントラインプレス
|
![]() |