( 256616 ) 2025/01/28 16:27:09 0 00 桐麺の券売機は現金のみに対応している(写真=木寺 良三)
「店にとって、良いことが一つもない」
兵庫県加西市でラーメン店「桐麺(きりめん)」を営む桐谷尚幸氏は、キャッシュレス決済が広がる現状をこう切り捨てる。桐麺は週3日の営業で、来店客を各日50組に限定するこだわりが特徴で、日本全国からラーメンファンが訪れる人気店だ。最近はインバウンド(訪日外国人)の来店も増えてきたが、桐谷氏は現金払いのみで営業を続けている。
その理由は、キャッシュレス導入のメリットを想定できないからだ。売り上げを集計して現金と突き合わせるレジ締め作業の効率化や、釣り銭トラブルの低減など、効果は考えられるが、コストと見合うのか確信が持てない。
ある決済事業者の担当者は「手間が減ることによる人件費削減など、いわば見えないコストが下がりますと伝えても小規模店舗になかなか響かない」と話す。実際、店主などには初期コストや手数料などの「見えるコスト」が先に浮かんでしまうようで、これが導入のネックになっている。
桐麺の場合、キャッシュレスに対応するためには、30万円ほどを投資して、今の券売機に機能を追加する必要がある。加えて売り上げの一定割合を決済事業者に手数料として支払わなければならない。「合計すると5%くらい持っていかれる感覚だろう。他の原材料アップもあるから、キャッシュレスにすると全商品を200円くらい値上げすることになりそうだ」とそろばんをはじく。
しかし、看板メニューである税込み750円の「桐麺加西ハッピーラーメン」を1000円近くまで値上げしたら、客足が遠のくのは間違いない。顧客の利便性を考えればキャッシュレス化した方がいいとは思うものの、手数料負担を嫌う桐谷氏は、決済事業者の売り込みを断り続けている。
●QR不可で客とトラブルに
とはいえ、現金払いにこだわれば商売がしにくくなっているのも事実。大阪府でカレー店を営む40代女性の店主は、2022年に現金払いのみで店をオープンしたが、数カ月後にQRコード決済を導入せざるを得なくなった。顧客が現金を持たずに来店し、代金を支払えないトラブルが立て続けに起きたからだ。現在、来店客の約半数はキャッシュレス決済で、その売り上げのうち2%以上を手数料として支払っている。「しかも、売り上げは翌月に入金されるから、資金繰りも苦しくなる。個人商店にとって負担は重い」と言う。
その重さは、店舗の業態によって異なる。ニッセイ基礎研究所によると、客単価が低く、規模が小さい業態ほどキャッシュレス化が難しい。同研究所の福本勇樹氏は「規模が小さい事業者は、キャッシュレス化で人件費や固定費などを削減しようにも、その余地があまりない」と説明する。
とはいえ、現金を持ち歩かない消費者は増加している。加盟店向けに決済サービス「PAYGATE(ペイゲート)」を提供しているスマレジの決済事業責任者、高橋徹弥氏は「クレジットカードやPayPayが使えるかは、消費者が店を選ぶ際のポイントになる」と話す。
キャッシュレス化は集客のための投資とも言えるが、負担は減らしたいのが本音。前述のカレー店が導入した機器は、実はクレジットカード決済にも対応している。だが「手数料が高いから、客にはクレカは使えないと言っている」と店主は打ち明ける。
関 ひらら
|
![]() |