( 256714 )  2025/01/28 18:22:05  
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27日にフジテレビが2度目の会見を開催し、各民放テレビ局が生放送で伝えた。

会見には5人の登壇者が10時間半にわたり対応したが、透明性が不十分だとして非難が収まらず、第三者委員会の調査結果報告書が出る3月末まで苦境が続く可能性がある。

中居正広氏の引退やフジテレビのスポンサーへの影響などから、両者の社会的地位が低下している状況だ。

メディアやネット上での批判は激しいが、俯瞰的な見方が少ないように感じられる。

木村隆志は中居氏の引退やフジテレビの対応、メディアの姿勢について、客観的に掘り下げる必要があると述べている。

(要約)

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(左から)清水賢治氏、遠藤龍之介氏、港浩一氏、嘉納修治氏、金光修氏 

 

27日、フジテレビが一連の騒動における2度目の会見を開いた。 

 

民放各局が冒頭から生放送でその様子を伝えたほか、ネットメディアも記事を量産し、X(Twitter)のトレンドランキングを席巻。登壇者たちは10時間30分もの長時間対応したものの透明性は十分と言いづらく、新社長も内部の人材であることなどから、非難の声が収まる気配は見えない。3月末が目安の第三者委員会による調査報告書まで現在同様の苦境が続くのではないか。 

 

あらためて一連の問題にふれると、発端となった中居正広氏は芸能界を引退し、関与を疑われるフジテレビはスポンサーがCMを差し替えて危機的状況に追い込まれるなど、ともにそれまでの地位が地に落ちた状態となった。 

 

ただ、メディアもネット上の声も中居氏とフジテレビを批判するあまり、俯瞰(ふかん)してフラットな目線から見たものは少ないように見える。ここではテレビ解説者の木村隆志が、中居氏の引退、フジテレビの対応と現状、メディアの報道姿勢という3つのポイントをどこにも忖度せずに掘り下げていく。 

 

■中居氏を叩き続けるムードの危うさ 

 

まず中居氏の芸能界引退については、妥当であると同時に、今後への危うさを感じさせられた。 

 

示談したとはいえ、人権デューディリジェンスが求められる現状を踏まえると番組降板は当然だろう。たとえ守秘義務でトラブルの内容が明かされなかったとしても、スポンサーと視聴者ありきのビジネスモデルであるテレビ局の番組に出演することは難しい。 

 

ただ、引退となると話は別であり、これは中居氏の意思にほかならない。相手と示談している以上、謹慎期間こそ必要にしても、YouTube配信や課金型のビジネスモデルなら芸能活動を続けることもできたはずだ。 

 

また、それを一切におわせず、声すら発することなく引退したことの解釈は難しい。「逃げた」という声もあるが、行為の是非はさておきここまで袋だたきにあっている以上、命を絶つという最悪のケース選ぶ可能性も排除できないのではないか。 

 

女性とのトラブルは責められても仕方ないが、他の言動や人格までも否定するなど、個人を際限なく叩こうとするムードには人間の残酷さを感じさせられる。 

 

そもそも相手女性が引退を望んでいるのか。表に出て自らの口で謝罪することを望んでいるのか。その他の厳罰を望んでいるのか。ましてや自ら命を絶つことを望むのかは分からない。だからこそ無関係な第三者たちが想像で女性の気持ちを代弁するようなコメントは、別の意味での二次的被害に見える。 

 

■嘘がないのなら「資質なし」の証しに 

 

次にフジテレビの対応だが、初動のコメントから1度目、2度目の会見。すべて何らかの問題があったことは間違いないだろう。その内容はすでに多く報じられているため省略させてもらうが、フジテレビの対応は本来メディアが長けているはずのクライシス・コミュニケーション(危機管理対応)におけるセオリーから逸脱していることが露呈された。 

 

再会見で港浩一社長が「嘘はなく話しています」と断言していたが、それは同時に「人権や危機管理の意識が薄く、他の幹部も含め、トップとして機能していなかった」ことを意味してしまう。隠蔽しようと思ったのか、それとも資質がなかったのか。どちらにしても大幅な刷新がなければ信頼回復は難しいことが明確になった。 

 

再会見で質問が相次いだ日枝久相談役については、もし登壇者たちが語っていたように関与していないとしても、そういう問題ではないだろう。これだけの危機的状況である以上、「他企業ならその存在を差し出してでもダメージを食い止める」という選択肢が真っ先にあがるものだが、それが成立しないところにフジテレビの特殊性がある。 

 

この内容で本当にスポンサーや視聴者の理解を得られると思っていたのか。少なくとも第三者委員会の調査結果公表まで、ほぼACジャパンで占められているCMを回復させるのは難しくなった感が否めない。 

 

そして局内の現状と言えば、話を聞く限り、困惑、怒り、疲労など、心身ともに気の毒な感がある。ほとんどの社員が無関係であり、経営陣の対応によって過剰に追い込まれているのは確かだ。 

 

ただ、情報番組のアナウンサーなどが「私は知らない」「そんな会社ではない」などのニュアンスで話すシーンは自分を追い込むだけであり、感心できない。現在は同情を誘える段階ではなく、個人の潔白をアピールする場でもないだけに、つらい立場だがしばらくの間は耐え忍ぶことしかできないだろう。 

 

 

最後にメディアの報道姿勢について。 

 

フジテレビがメディアとして問題のある対応をしたことは、本人たちが認めているように間違いないだろう。しかし、今回の問題を通して、それを報じる側のメディアが別の問題を露呈したことも確かだ。 

 

近年、情報の質や信頼性よりも関心や注意を集めることで利益をもたらそうとする「アテンション・エコノミーの意識が強すぎる」という問題が指摘されていた。なかでも「怒りを誘発・加速させる記事で数字を伸ばそう」という意識への偏りは顕著であり、実際に前述した中居氏の人格や過去の言動などを否定するような記事が目立っている。 

 

私のもとにも多くのメディアからコメントや執筆の依頼が来たが、そのほとんどが批判ありきの切り口。それに沿ったコメントや原稿を求められたため断ったが、これはそれだけ「このネタが稼ぎどころ」「ウチだけやらないわけにはいかない」という意識によるものだろう。裏を返せば、それだけどのメディアも数字を稼がなければ運営が厳しいということだが、報道の質と信頼性の低下を招いていることに歯がゆさを感じてしまう。 

 

また、フジテレビ以外のメディアは「今回のような問題はない」と調査もせずに言い切れるのか。女性社員の接待を批判していたが本当に自社ではないのか。これだけ怒りを誘発・加速させるような報じ方を徹底したからには、いつか自社にもその追及が向けられるかもしれないことに気づいていないのかもしれない。 

 

■仕切り役の第三者グループが必要か 

 

そして再会見で問題視せざるを得ないのが、記者の態度と質問。「記者のレベル」がXのトレンド入りをしたほか、「フジテレビがマシに見える」「子どもに見せられない」などと書かれるほどの酷評が続出した。 

 

同じような質問ばかり繰り返す。感情的になって声を荒らげる。質問ではなく私見を延々と述べる。説教に終始して質問せずに話し終える。登壇者の回答中に罵声を浴びせる。強引な約束を取り付けようとする……さらに今回はメディアとも記者とも考えづらいYouTuberなども参加し、被害者配慮のルールを破る人もいた。 

 

なかには「共感性羞恥を感じた」(他人が恥をかいている姿を見て自分も恥ずかしくなる)、「人権侵害を問う記者が人権侵害のようなことをしている」という声もあった。明らかにメディアや記者側の改善が必要であり、それができないのであれば「名前だけでなく顔も映す」「中立的な第三者グループが仕切り役を務める」などの対策が必要なのかもしれない。 

 

いずれにしても再会見を受けて、単に中居氏とフジテレビだけの問題ではなく、メディアや記者たちの姿勢も問われているのではないか。少なくともこの日の会見を見た人々は、日本のメディア全体に疑問を抱いただろう。 

 

 

■ 木村隆志  

 

きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 

 

木村隆志 

 

 

 
 

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