( 257111 ) 2025/01/29 16:32:18 0 00 (c) Adobe Stock
フジテレビによる10時間にも及ぶ記者会見が終わった。あまりの長さSNSでは「まだ続いているのか」「頼むからトイレ休憩とったげて!!」といった声があがった。またXでは「フジテレビかわいそう」がトレンド入りした。しかし、そんなかつて「民放の雄」と言われたフジテレビが大ピンチなのは変わらない。タレント・中居正広氏をめぐる女性トラブルの影響でスポンサー企業が続々と離れ、経営に打撃を与える事態に発展している。広告収入の激減がささやかれるフジテレビは、いつまで苦境に持ちこたえることができるのか。経済誌プレジデント元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
世の中の危機管理の専門家は、常に、炎上した会社の対応を厳しく批判するが、現実的な批判となっているのだろうか。また、日本社会において、オープンにすればするほどに報道の自由は実現されていくが、当然ながら、質の悪い質問者が登場する場面も増えることになる。
中居正広氏と女性とのトラブルにフジテレビの社員が関与していたと週刊誌で報じられた件を受け、フジテレビは1月27日に臨時の取締役会を開き、今回の問題に対する責任を取る形で港浩一社長と嘉納修治会長が辞任することを決定した。2人は同日午後に記者会見を行い、人権意識の不足を認め、深い反省の意を表し謝罪を述べた。辞任の申し出は臨時取締役会において2人から行われ、全会一致で1月27日付けでの辞任が承認された。
午後4時から行われた記者会見では、フジテレビおよび親会社であるフジ・メディア・ホールディングスが連名で説明を行った。会場には報道関係者を中心におよそ400人が集まり、オープンな形式で進められた。この会見では、今回の問題に至る経緯や企業としての対応、再発防止策についての詳細が語られた。港氏は自らの経営責任を認める発言をし、視聴者や関係者に対し深い謝罪の言葉を述べた。また、嘉納会長も取締役会において十分な危機管理意識を持てなかった点を反省し、視聴者や社員に対し直接謝罪する姿勢を見せた。
会見は1月27日午後4時に開始され、異例の長時間にわたった。質疑応答は日付をまたぎ、終了したのは翌日午前2時24分であった。10時間以上続いたこの会見では、問題の背景や責任の所在について厳しい質問が相次ぎ、フジテレビ側はひとつひとつ丁寧に回答を行った。
具体的な事案や社員の行動については一部を除き明確な説明は避けられたが、企業としての課題や再発防止に向けた取り組みへの姿勢を示した。
しかし、今回のスポーツ報知『フジやり直し会見は「20点」 危機管理会社の社長が総評 改善されたのは経緯説明&当事者への謝罪』(2025年1月28日 8時0分配信)の記事で、「前回会見は評価できないマイナス点だったが、ようやく20点の会見になった」と低い点数をつけたのが、危機管理会社「エイレックス」の江良俊郎社長だ。江良社長は、以下のように主張している。
・この日辞任を発表した港氏に関しては「やっぱりそんなに人間は簡単に変われない。もちろんリハーサルもしたかと思うが、言い回しなどのテクニックや発言で、不安定で甘い部分があった」
・日枝さんの退任を取締役会で決議するような、本気で変わろうとしている姿勢を示す必要があった
・本来であれば時間を区切るほうが良い
・1回目の会見でしっかりとした受け答えができておらず、やり直しとなった今回は、もうオープンに時間制限なしでやる以外の方法は取れなくなってしまった
こうした点から、<“やり直し会見”の総合点は「20点」。「前回はやらないほうがよかった会見でしたが、今回はやらないよりはやった方がよい会見でした。マイナス地点からやっとスタート地点に立った」>と総括している。
まず、筆者との根本的な認識の違いだが、江良氏は港氏に対して<人間は簡単に変われない>という点をネガティブに捉えているが、人間は簡単に変われるわけがないのは江良氏とて同じことだ。そもそも港氏は謝罪や危機管理が得意だからという理由で社長になったわけではない。プレジデントで13年間、さまざまな経営トップや政治家トップをインタビューしてきたが、彼らはインタビューが得意だからトップの座についているわけではなく、組織の発展に寄与すると信じられ、託されたから経営者になり、政治家として当選を果たしたり、総理大臣になったわけだ。
当然、話し下手のトップはたくさんいたし、中には広報が用意したペーパーを読み上げるだけの人もいれば、ゆっくり、じっくり言葉を絞り出すような人もいた。例えば、ユニクロの経営者である柳井正氏や菅義偉元首相などは、こっちが戸惑うぐらいに、ゆっくりと話すが、絞り出されたその言葉一つ一つは内容に重みがあった。
そういうトップはいわゆる「メディア受け」はしないわけだが、振り返ってみて日本経済発展の礎となるようなことをやるのもそういう人たちなのだ。
で、今回の港氏の発言が「言い回しなどのテクニックや発言で、不安定で甘い部分があった」(江良氏)というのだが、そんなもの、日々答弁に立っている政治家であっても無理なのに、無茶苦茶要求をしているように私は感じてしまう。
今回の出直し記者会見は、フジテレビ再生のために何ができるかということであり、「(1)事実はどうあったのか」「(2)フジテレビの対応」「(3)組織において最大の責任の果たし方である「辞任」を選択したこと」という3点をどう評価するかということが本質である。そして、次の問題は、「日枝相談役取締の問題」「質問者の質」ということになる。
会見での言葉づかいのテクニックが甘いから「20点」という酷評をすることに、何の意味があるのか。これ以上、巧言令色を使って、誤魔化しの手口で国民を騙すような方向性に社会が向かっていいのだろうか。
結果として、オープンになり、どうでもいい無意味な質問を垂れ流し、ときには被害女性の人権を侵害するような質問も飛び出し、10時間を超え、午前2時24分に終了した記者会見だが、フジテレビへの同情が集まっている。
しかし、こうした同情は、やはり冒頭で「社長辞任」という最大の責任を果たした港氏の決断が背景にある。これがもし、辞任も発表せず、女性への謝罪を述べていなかったら、こんな同情論は起きていなかっただろう。第三者委員会の調査を行うことを含め、少し時間がかかってしまうかもしれないが、フジテレビ再生への萌芽は生まれたかもしれない。
ただ、港氏がこのトラブルをコンプライアンス室に報告していなかったことは隠ぺいであり問題だ。
そういった意味で、性加害の有無や調査はこれからだという大前提のもとではあるが、経営の責任を果たした出直し記者会見の目的は、100%果たされているという観点から、この記者会見は100点満点だった。
記者の質問のレベルの低さにも言及していきたい。完全に、フジテレビに「塩を送る」結果、つまり、質問者の攻撃的な批判の意図とは別に、フジテレビの評判をよくしてしまったわけだが、時間をどう設定するか、誰を呼ぶかは主催者側が判断することである。
こうした質の悪い記者会見を通して、記者クラブを擁護する声も聞こえてくるが、日本は報道の自由ランキングは現在70位であり、その理由は「既成の報道機関のみが記者会見や高官へのアクセスを許可しており、記者に自己検閲を促すものであり、フリーランスや外国人記者に対するあからさまな差別となる」ということである。むしろ、自由な質問が飛ぶことで、1度目の記者クラブだけの質問より、国民は真実に近づけたわけだ。
大事なことは愚かな質問者にも批判が飛んでいるこの現状であろう。なるべく多くの人に自由な発言を許し、反対に質問者にもきちんと責任を持たせることは、自由な社会を守るための土台であろう。
小倉健一
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