( 258431 ) 2025/02/01 06:00:21 0 00 撮影=プレジデントオンライン編集部
■負のスパイラルが止まらない!
1月27日に行われたフジテレビやり直し会見。各種制限なしで行われ約10時間半に及んだが、残念ながら広告主の納得は得られなかった。フジテレビでは、全体の8割がAC広告に差し替えられたままだが、系列局でも3割近くのCMが差し止められている。連結売上の中で、広告収入は3割に満たないキー局と異なり、ローカル民放の広告費は収入の大半を占める。この事態の先に待つ地方局の運命とは……。
フジテレビの1日の広告枠は1000本弱。通常は、番宣は100本ほどあるがAC広告は1本あるかないか程度なので、収入に直結する普通の広告は900本ほどに及ぶ。
1月17日に港浩一社長らフジテレビ幹部が元タレントの中居正広氏の女性トラブル問題を巡り緊急記者会見を行った。ところが動画を許可しないなど閉鎖的なやり方に加え、港社長の「逃げ」の姿勢が目立ち、翌日からCM差し止めを決めたスポンサーが続出した。その後10日間でAC広告は700本ほど、全体の8割ほどに増えてしまった。75以上のスポンサーがCMを差し止めた結果である。
起死回生のやり直し会見が1月27日に行われた。191媒体・437人が出席し、異例の長時間となったが、残念ながらここでも広告主を納得させるには至らなかった。
会見が始まった16時以降、フジはCMを外したため、この日の広告総本数は3分の2に減った。そして残りの枠でも、AC比率が下がらなかった。
■広告枠も減り始める⁉
そして会見を受けた翌28日、広告枠総数は少し戻った。
ところが、やり直し会見前と比べ1割以上減っている。前の週から広告期間の前倒し終了を検討した結果、実行に移したスポンサーが出始め広告枠が減っているのかもしれない。
28日に放送された広告枠を、一週間前と比べてみよう。
枠全体は813と、2割近く本数が減った。CMを出稿した企業数も29社と問題発覚前の8分の1に激減した(PTP社「SPIDER」データから)。
中でも深刻なのは、タイム広告主が逃げている点だ。例えば、日曜夕方放送の「サザエさん」。問題前は10社以上が提供に名を連ねていたが、26日には西松屋のみとなっていた。ところが同社も、やり直し会見後にフジテレビへのCM出稿を見合わせると発表した。
タイムCMから降りるスポンサーは続出している。
火曜の新ドラマ「アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班」(波瑠主演)は、21日に放送された初回で提供がゼロだった。翌週28日放送では、高須クリニック1社だけの提供となったが、流れたのは30秒1本だけ。
番宣を除く広告枠では通常広告が2割程度だったが、出稿した企業をみると事態の深刻さがわかる。テレビCMをたくさん出す上位社が完全に消えていたからだ。
しかも、CMを出したのは「日本民間放送連盟」「TVer」「フジランド」「東宝」など、業界関係あるいはフジと出資関係にある企業が目立つ。つまり通常の取引相手に限れば1割程度に減ってしまうのである。
■経営への影響
ではCM差し止め、特にタイム広告をやめた企業続出は経営にどのような影響を与えるか。当然フジテレビの収入激減は避けられない。
同局2023年度の広告収入は1473億円、1カ月平均で123億円だ。今後、第三者委員会の報告書が3月末に出るまで、広告主が今の割合でCM差し止めをすると、2〜3月は8割ほど減収となる。24年度は200億円ほどのマイナスとなる。同局の23年度営業利益は54億円だったので、他が前年度通りとすると150億円の赤字となる。
※フジテレビは30日、2025年3月期の広告収入が従来予想より233億円減少すると発表。
ただし連結決算で見ると、150億円の赤字は致命的とは言えない。23年度の連結では、営業利益は335億円あり、他が前年度通りとすると150億円の赤字は吸収できてしまうからだ。
連結での売り上げは5664億円。フジテレビの広告収入1473億円は4分の1程度に過ぎない。ここが少々痛んでも、フジメディアホールディングスはびくともしない。むしろこれを機に企業が正常化に向かえば、一旦落ち込む業績も今後は向上するかもしれない。同社の株価がこの2週間で上昇基調となっているのは、こうした見方もあるようだ。
■関西テレビも真っ青
フジ自体のダメージはこの程度としても、系列局には地獄が待っている。広告収入のマイナスは致命的になりかねないローカル局が多々あるからである。
まずフジテレビと関西テレビの広告枠を比べてみよう。
カンテレではフジほどCM差止めが起こっていない。28日時点でもAC率は25%ほどに留まる。正確な数字は不明だが、どうやら他の系列局でも似たような状況にあるようだ。
仮に広告収入25%減が2〜3月と続いたとしよう。カンテレの広告収入は400億円足らず、1カ月平均30億円強だ。その25%が2カ月消えると16億円以上の減収となる。
実は同社連結の営業利益はほとんどない。よって16億円強がそのまま赤字となりかねない。関西の準キー局といえども、テレビ局の経営はそれほど余裕がないのである。
■系列局は阿鼻叫喚!
より経営規模の小さいローカル局では阿鼻叫喚が始まる。
フジ系列を含む東阪名の広域局を除く全国のローカル114局の経営状況をみてみよう。コロナ禍前、赤字局は数えるほどしかなかった。ところが2020年以降で数が増え始め、現在すでに20局が赤字に転落している。
例えば、10年前の2015年のローカル局の平均営業利益は5.1億円。売上平均が62億円強だったので、安定した局が平均像だったと言えよう。
ところが2023年の平均営業利益は1.6億円に急減していた。コロナ禍以降、リアルタイム視聴する人が減り、テレビ広告費が減少したためで、少子高齢化の進捗が激しい地方では特に深刻になっていた。
以上はローカル民放の平均値だ。
ところがフジ系列27局は、各地域の後発局が多く、経営基盤は全国平均を下回る局が多い。そこに今回の不祥事が襲う。
仮に売上高の8割が広告収入とすると、その2カ月分の25%がマイナスになると、今年度フジ系列局の多くは5億円を超える。営業利益は1.6億円しかなかったので、赤字幅は3億円を超える。フジ系列の場合、カンテレのように今回のマイナスがそのまま赤字となる可能性が高い。
しかも提供から降りるスポンサーが続出している。
今がまさに4月以降の契約交渉時期だが、これも3月まで止まる可能性がある。もし何ら改善策が打ち出せないとすると、単純計算ではフジ系列局の4〜9月は15億円以上の損失となる。平均売上が62億円強なので、穴埋め不能に陥る局が続出しかねない。
■咎無くて死す
いろはにほへと ちりぬるをわか……「いろは歌」は47文字を全く重複なしに七五調で読んだ歌だ。
これを7文字で折り返して書くと、行末尾の文字は「とかなくてしす」となる。
つまり「咎(とが)無くて死す」だが、無実の罪を着せられて死んだ万葉の歌人・柿本人麻呂が怨念を込めて残した暗号という説となる。
少々仰々しい話を持ち出してしまったが、フジ系列局が今後破綻することがあるとすれば、まさに中居氏とフジ上層部のまずい対応が原因で、まさに「咎無くて死す」となりかねない。
系列局の中には、震源となった中居氏にフジは民事訴訟を起こすべきという意見がある。同氏は「これで、あらゆる責任を果たしたとは全く思っておりません」「たくさんの方々にご迷惑をおかけし、損失を被らせてしまった」と言い残して引退してしまった。
ところが残された人々は、生活が脅かされる可能性がある。
フジの番組を制作する多く関係者や系列局で働く人だ。まさに「咎無くて死す」の窮地に立たされる人々が出てくるだろう。こうした事態を招いた責任の一端があるフジ上層部も、民事訴訟が可能か否かはさておき、何らかの対応が求められると言わざるを得ない。
引責辞任の意向を示した遠藤龍之介フジテレビ副会長(民放連会長)は今回の不祥事で、「フジテレビは傲慢(中略)そういう背景があったのかも」と口にした。もちろん企業風土やガバナンスの見直しも喫緊の課題だが、やはり「咎無くて死す」となるような被害者が出ないような配慮も必要と言わざるを得ない。心ある対応を望みたい。
---------- 鈴木 祐司(すずき・ゆうじ) 次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。 ----------
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司
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