( 258611 )  2025/02/01 16:15:03  
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 芸能界引退を発表した元タレント・中居正広氏をめぐる女性トラブルをめぐり、フジテレビは1月27日に10時間超にわたる「やり直し会見」を開いた。怒号も飛び交う中で新旧社長らが経緯などを説明したのは、スポンサー離れが加速していることの危機感からだ。報道機関として、お粗末すぎると酷評された前回と今回の会見後に変わったのは「風向き」と言える。経済アナリストの佐藤健太氏は「これから『他のメディアはどうなのか?』という世論が盛り上がり、カオスに陥っていくのではないか。生き残りを賭けた“メディア大戦争”が始まる」と見る。 

 

 1月27日にフジテレビが開いた記者会見は「ギネスブック級」と評されるほど長時間にわたる異例のものとなった。辞任した港浩一前社長による1月17日の会見は「テレビカメラなし」「記者会加盟社のみ」に限定した閉鎖的なものだったが、今回の会見には191媒体・437人が詰めかけた。スポンサーのCM放映差し止めが雪崩を打ち、2月分のCMキャンセルも相次ぐ事態は深刻だ。経営陣の焦りは隠せなかったと言える。 

 

 中居正広氏が芸能界引退を表明したのちに開かれた記者会見には、港氏や嘉納修治会長(辞任)、遠藤龍之介副会長(辞任意向を表明)、親会社のフジ・メディア・ホールディングス(HD)の金光修社長、新社長の清水賢治氏が出席。午後4時にスタートした会見は休憩を挟みながら翌日の午前2時20分すぎまで続き、大手メディアに加えてフリージャーナリストやYouTuberらが質問をぶつけた。ビデオリサーチの調べによれば、会見を中継したフジテレビ(午後7時~10時)の平均視聴率は世帯13.1%、個人7.5%(関東地区)と普段の2倍近い高さだったというから人々の関心を集めていることがわかる。 

 

 内容は各メディアが報じているため詳細を省くが、昨年末に週刊誌報道でトラブルが発覚してから何か新しい説明があったかと言えば「NO」だ。気になるのは、2023年6月にトラブルが発生し、直後にフジは把握したものの社内のコンプライアンス推進室には共有していなかった点にある。港氏は“特殊な案件”として「彼女の意思を最優先にして進めてきた結果、コンプラ推進室には伝えずに至っている」と説明したが、この点は港氏を含めて事態を把握していた人物の判断がどうだったのか問われるべきだ。 

 

 

 一部の役員らが事情を知りつつ、今後も「特殊性」を理由に社員らが守られない可能性があるならば、フジのコンプラ推進室は機能しない。ガバナンス不全には国やスポンサー企業から厳しい声があがり、これからフジテレビに入社していく人は不安になるのではないか。役員らは番組制作などで評価されて出世していったのかもしれないが、ガバナンスやメンタルヘルス、コンプライアンスの専門家ではない点は再発防止策を考える上で重要となる。 

 

 もう1点は、「フジ社員の関与」の有無にある。昨年12月26日発売号の「週刊文春」の記事によれば、トラブル当日の会食は「フジ編成幹部A氏に誘われた」とする女性の知人証言を掲載していた。だが、フジテレビは社員Aが当日の会食を把握・設定していないことをスマホの履歴などで確認したと説明している。 

 

 今回の記者会見では「履歴は後で消すことができる」などと、フジ社員の関与を厳しく問う質問が繰り返されたが、フジ側は社員Aが以前に中居氏のマンションで行われたバーベキューに誘ったことは確認したものの、トラブル当日の会食が「延長線上」と評価することはなく、社員の関与を一貫して否定している。 

 

 この点について、「週刊文春」編集部は1月28日に内容の一部を訂正した。その後の取材で女性は当日の会食は社員Aからではなく「中居氏に誘われた」ことが判明したという。ただ、女性は「A氏がセッティングしている会の〝延長〟だったことは間違いない」と証言しているといい、編集部は社員がトラブルに関与した事実は変わらないとしている。 

 

 文春側の訂正は各メディアで「核心部分」が変わったと大きく報じられ、今度は「文春叩き」に風向きが変わりつつある。社員Aに関する部分が覆るのであれば「会社としての関与」はないことになり、フジからのスポンサー離れが加速することはなかったのではないかという主張だ。世論からは「フジテレビがかわいそうだ」という意見もあがっているが、文春が女性側の「証言」を得ている点は変わらない。3月末にもまとまるフジの第三者委員会が結論を出すのかもしれないが、現時点では冷静に見るべきだろう。 

 

 誤解を恐れずに言えば、今回のフジテレビの問題は「社員の関与」の有無だけではない。 

 

 

 港氏はトラブルについて「人権侵害の疑いがあるのかと思って対応している」と説明したが、そうであるならば経営陣としてはコンプラ推進室と連携しなければならなかったはずだ。ガバナンスの欠如は否定できず、その問題は「社員の関与」とは関係ない。女性のコンディションやプライバシーを最優先にしながらも、なすべきことをしなかった責任はあるだろう。 

 

 ネット上には、数百億円規模に上るとされるフジの減収を受けて「文藝春秋社とフジテレビの闘いになる」との声もあがる。ただ、先に触れたようにスポンサー企業離れはフジのガバナンスの欠如に一因があるはずだ。トラブル把握後も適切な対応をしてこなかった点は見逃されるべきではないと言える。 

 

 今回の問題に連動し、他のテレビ局でも同様のトラブルがないのか調査が始まっている。日頃から政治家やタレントらの不祥事などを厳しく批判してきたメディアとして、自浄作用を発揮できるのか注目されるところだ。フジの役員には産経新聞の元幹部らも就いているが、他の新聞社やラジオ局などではトラブルがなかったのか。テレビ局に限らずメディアが自ら検証することが求められる。仮に問題があった場合、ハラスメント行為に対する対応は適切だったのか、ガバナンスの欠如がなかったのかは厳しく問われるべきだろう。 

 

 TBSは1月27日に生島ヒロシ氏のラジオ番組降板を発表した。TBSグループ人権方針に背く「重大なコンプライアンス違反」があったことを確認したという。朝日放送テレビ(ABCテレビ)は1月28日、清水厚志取締役が社内メンバーだけで会食し、交際費を不正に受給していたとして同31日付で辞任すると発表した。フジの問題が影響しているのかは不明だが、このタイミングでメディアからの発表が相次いでいるのは興味深いところだ。「交際費」をめぐる問題は他のメディアから出てきても不思議ではない。 

 

 今やテレビや新聞などは「オールドメディア」として時に批判を受ける立場にある。これまで通用してきた彼らの「常識」は、世の「非常識」になったことを自覚する必要がある。視聴率や読者数が激減し、経営も厳しくなっていくオールドメディアはどこに向かうのか。これからは、変化に適切な対応をできるものだけが生き残る熾烈な競争が始まるだろう。 

 

 

 これから独立性の高い「第三者委員会」が調査するとしても、調査や発表の方法などもスポンサー企業は注視していくだろう。昨年末に週刊誌報道を否定したフジ側の対応は調査で変わることはあるのか。世論を甘く見たツケは膨らみ続けるように見える。フジ側としてはテレビ局の春と秋の番組改編、あるいは6月の株主総会までに事態を収拾したいとの思惑があるのかもしれないが、トラブル把握後の対処体制や相談窓口の実効性、ガバナンスの欠如といった点はスポンサー企業にとって軽視できない問題だろう。 

 

 かつては「メディアの雄」といわれたフジテレビは変わることができるのか。米国やフランス、ドイツなどの海外メディアも注目する中、一回目の記者会見は「閉ざされた取材空間」で、トップから本気度を感じるのにかなり時間がかかってしまったのは残念だった。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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