( 258686 ) 2025/02/01 17:22:05 0 00 photo by Getty Images
我が国の財政運営は、このままではこの先、何かのきっかけで、いつ何どき、行き詰まってもおかしくない状態にすでに陥っている。しかも、1,104兆円(2024年度末の普通国債残高の見込み)という天文学的ともいえる借金の大きさと、歴史上かつて体験したことのない厳しい人口減少がもたらす国力の低下を鑑みれば、ついに「行き詰まった」ときに起こる事態は、我が国自身が第二次世界大戦の敗戦直後に経験した苛烈な国内債務調整に匹敵するものにならざるを得ない。
静かに迫り来る財政危機を何とかして未然に回避し乗り切るために、私たちはいま何ができるのか。財政政策と中央銀行の金融政策に精通した日本総合研究所主席研究員の河村小百合氏と前参議院予算員会調査室長の藤井亮二氏が協力して取り組んだ『持続不可能な財政』では、危機的な状況にある日本の財政の現状と再建のための解決策の具体的な選択肢にはどのようなものがあるのかを真っ正面から論じている。
(*本記事は河村小百合+藤井亮二『持続不可能な財政』から抜粋・再編集したものです)
1月24日に公開した『世界最悪の借金大国ニッポン この国はもうダメなのか? 私たちが迫られる「究極の選択」』でも紹介しましたが、我が国の内閣府が公表している国と地方の財政運営の見通しでは、「世界最悪の財政」と言われながら、国と地方の公債等残高(グロス・ベース)が、経済成長率を低めに見積もった「過去投影ケース」(ベースラインケース)でもおおむね横ばいか微増程度にとどまり、「高成長実現ケース」や「成長移行ケース」ではなんと、わずか10年ほどでめざましく減少する、という見通しです。
国民の痛みを伴う増税策や、本腰を入れた歳出の削減策は、何ら具体的に決めることができていないにもかかわらず、劇的と言っても過言ではないほど財政再建が進む、という「バラ色」の見通しが示されているのです。これはまさに、現時点での我が国の政府の「公式見解」にほかなりません。要するに「身を切るようなつらい財政再建などしなくても、経済が高成長を達成すれば財政事情はおのずと改善するので何もしなくてよい」と言いたいのでしょう。
しかしながら、これまでのこの内閣府の試算の結果を実際の経済や財政の推移と対比すると、現実は内閣府の試算結果よりも悪化して推移しており、「バラ色」の財政再建が実現できるどころか、財政事情はさらに悪化する一方なのです。具体的に説明していきましょう。
内閣府は毎年2回、1月と7月に「中長期の経済財政に関する試算」(以下「経済財政試算」)を実施して経済財政諮問会議に報告し、対外公表しています。本書執筆時点でのその最新版(2024年7月29日経済財政諮問会議提出)においては、図表2-1に示すような、国と地方の基礎的財政収支(=プライマリー・バランス)や、公債等残高の試算結果が示されています。
内閣府の見通しは、(1)「過去投影ケース」、(2)「成長移行ケース」、(3)「高成長実現ケース」の3本立てで示されています。2024年1月公表分までは、「ベースライン・ケース」(=今回の(1)「過去投影ケース」)、と「成長実現ケース」(=今回の(3)「高成長実現ケース」)の2本立てだったものが、今回はその中間に(2)「成長移行ケース」も設けられるようになりました。
大雑把にいえば、我が国経済の今後について、(1)は低成長継続ケース、(2)はまずまずの成長ケース、(3)は高成長達成ケース、ということでケース分けして見通しを示しているわけです。そして、歳出、歳入の両面で、すでに決定済みの改革を反映しつつ、歳入面では現行の税制が継続すると想定し、歳出面では、「高齢化要因を除き、これまでの歳出効率化努力を継続した場合の半分程度の歳出の伸びの抑制を仮定」している由です。要するに、歳出、歳入の両面で、何らかの厳しい歳出カットや増税といった財政収支の改善努力をすることなく、概ね、従前通りの財政運営を続けたらどうなるかが試算されているとみてよいでしょう。
それぞれのケースで財政運営がどうなると試算されているのかをみてみましょう。毎年度の歳出と歳入の動きを示す基礎的財政収支の対名目GDP比(図表2-1の上側)をみると、2025年度にごく小幅のプラス(0.1%)に転じた後、(1)の過去投影ケースでも2033年度にかけて一貫してプラス圏内を維持するほか、(2)成長移行ケースや(3)高成長実現ケースではプラス幅が拡大し、2033年度には+2%前後にまで改善する、という試算結果が示されています。
他方、国と地方の公債等残高の対名目GDP比(図表2-1の下側)の方は、足許はインフレによる名目成長率の押し上げ要因が効いたことなどから、2025年度にかけて約198%にまで低下した後、(1)過去投影ケースでは、2033年度にかけておおむね200%弱で横ばい推移する一方、(2)成長移行ケースや(3)高成長実現ケースでは、2033年度にかけて170%を切る水準にまで低下すると試算されています。
要するに、特段の財政再建努力などしなくても、国民の痛みを伴う歳出カットや増税に手など付けなくても、この先の財政運営にはとくに問題はない、それどころか、うまくいけば、我が国の財政事情はバラ色に改善する、とこの内閣府の試算は言いたいようです。
では、国際機関は、我が国のこのような財政事情、財政運営の先行きをどうみているのでしょうか。図表2-2は、OECD(経済協力開発機構)が2024年1月に公表した我が国の財政の先行き見通しを示したものです。
それによれば、我が国の基礎的財政収支(図表2-2の上側)は、OECDのベースラインの予測(特段の財政再建努力なし)でみると、目先は2026年頃にかけて改善しても、その後は悪化の一途をたどることが見込まれています。OECDはそれ以外に、財政再建努力によって、我が国の基礎的財政収支がベースライン・シナリオ対比で改善する予測も示しているものの、その際にOECDが想定している我が国の財政再建のための具体策は、図表2-3に示すように、厳しいものになっています。例えば、「2025年以降消費税率を毎年1%ずつ引き上げて、20%になるまで継続する」とか、「年金の受給開始年齢を、2031年から15年間かけて、65歳から70歳にまで引き上げる」といった、我が国の国内ではこれまでおよそ議論の俎上にすら上がっていないような厳しいものばかりです。
政府債務残高については、OECDが長期的に明確な低下トレンドをたどると見込むのは、極めて厳しい財政再建策を組み合わせて実施し続けた場合のみとなっています。それ以外では、厳しい財政再建策を講じ続けてもなお、政府債務残高の規模はよくて横ばいで長期的には再び上昇するとOECDは見込んでいるのです。特段の財政再建努力をしないベースライン・シナリオでは、政府債務残高の規模は中長期的に上昇傾向をたどり、名目GDP比では実に300%超に到達すると予測しているのです。
『世界最悪の借金国なのになにもしないで財政再建? 内閣府のバラ色の「経済・財政試算」のカラクリ』の記事に続きます。
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河村小百合、藤井亮二
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