( 258861 ) 2025/02/02 04:56:22 0 00 行きつけの居酒屋でビールを飲む筆者
「酒は百薬の長」という言葉もあれば、「されど万病のもと」と続くことも。アルコールの健康への影響については昔からいろいろと言われているが、それでも酒を愛する人は多い。そうしたなかで、かつて呑兵衛だった人が禁酒に成功すると、今度は酒を猛烈に毛嫌いするようになり、さらには酒飲みをバカにするようになるケースもあるようだ。今でも毎日酒を飲み続けているネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、自身に向けられた禁酒成功者からの上から目線の言葉を振り返り、彼らがなぜそのような振る舞いをするのかについて考察した。
* * * 知人で酒飲みから酒を一滴も飲まない人間に転向した者を多数知っています。彼らが好きな言葉はこんな感じ。
「もう酒なんて飲みたくないね~。ウーロン茶とジンジャエールで十分。つーか、味自体はソフトドリンクの方がウマい」 「酔うという感覚、あれはただ脳が麻痺しているだけ。だからバカなことをやっちゃうんだよ」 「なんでオレはあんなに酒飲んでいたんだろう、今考えると本当にバカバカしい。時間もカネもさ」 「禁酒をしてから、酒を飲みたいという気分に全くならない。今はなんであの頃酒を飲んでいたのだろうか、とさえ思うほど」
私自身は今でも大のビール党で毎日のように飲んでいるのですが、そんな私に対する彼らの陰口も聞こえてきます。曰く、「あいつは酒で支離滅裂なことを言い出すからな。いつかとんでもない事態を起こすだろう」「あいつは飲み過ぎて脳細胞が破壊されてバカになっている」など……。そして、直接会う時は「キミ、飲みすぎだよ。飲まなければもっといい原稿が書けるはずだ」「ちょっと飲みすぎじゃないの? オレみたいに禁酒してみれば? けっこうすぐ慣れるものだよ」「キミは酒で取り返しのつかないミスをして、せっかくの立場を失いかねない」と言ってくる。
挙句の果てには「飲み歩くのではなく、その時間、家庭を大事にした方がいい」なんて人の生き方にさえ文句をつけてくる。酒をやめた後で、完全に酒を憎むようになってしまっている人が少なからずいるのです。一体なぜこうなるのかといえば、自身が酒で散々失敗をやらかした過去があるからでしょう。
健康目的で禁酒した人ならまだいいんです。そうではなく厄介なのは、セクハラ、パワハラ、店内での嘔吐、粗雑な振る舞い、突然のケンカなど、酒で失敗した過去がある人。そんな人が、「酒なんてロクなものではない」と禁酒を決意。これ自体は立派なこと。そして禁酒を何年間も続けられるのも立派なことです。しかしながら、他人の飲酒に文句をつけられる言われはない。
どうも、禁酒に成功した人は、ひとつの“達成感”を覚えているように思えるんですよ。何か偉業を成し遂げた立派な人である、というような意識が出てきて、それが自信に繋がる。だから、「私は自らを律することができ、社会性のある立派な大人としての人生を歩んでいる。それに引き換え、酒をやめられないヤツは大人としての成熟も思慮も足りず、自制心がない!」なんて考える。
こうなると、ニュースに登場する事件の容疑者が、「酒を飲んで気が大きくなってつい痴漢をしてしまった」「酒を飲んでいて覚えていない」みたいな供述をしているのを見て、「そら見たことか!」となる。
さらには、酒で失敗した芸能人に対しても厳しく、その人が禁酒を宣言したら上から目線で「まぁ、この手の人は宣言だけはするけどどうせ隠れて飲むんだよね。意思弱そうだからね。誘惑だって多いだろうからさ」とも言う。
完全に「禁酒・断酒の有段者」のような気持ちになり、酒を飲む人を何段階も下層の人物であるかのような扱いをするようになる。呑兵衛をあたかも心配するかのようなふりはしつつ、実際は相手を見下すマウンティングをしているのが一部の禁酒成功者の姿なのではないか。本当に大きなお世話です。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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