( 258896 )  2025/02/02 05:21:44  
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雪がめったに降らない地域だからこそ、事前に備えておきたい(写真はイメージ/gettyimages) 

 

 めったに雪の降らない東京都心でも、3月にかけて雪が積もる日がある。車の雪道対策は済んでいるだろうか。いま、「布製」のタイヤチェーンが人気だという。 

 

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■ワイシャツ程度の大きさ 

 

 布製チェーンは収納袋に入った状態で、畳んだワイシャツ程度の大きさ(普通乗用車用)。重さは約800グラム、表面の感触はツルツルで、ポリエステル製だという。 

 

「『本当に滑り止め効果があるんですか』と、よく聞かれます」と、タイヤチェーン製造販売の最大手、中発販売(名古屋市)の服部大輔さんは言う。 

 

 服部さんは高速道路会社や大手カー用品店が主催するタイヤチェーン講習会で講師を務め、使用方法などを伝えてきた。 

 

「弊社が行った雪道走行テストでは、布製チェーンは従来の金属チェーンやスタッドレスタイヤと同等の制動力を発揮しました」(服部さん、以下同) 

 

 同社は自社ブランド製品を含めて、さまざまなタイヤチェーンを扱うが、最近、最も人気があるのはノルウェー生まれの布製チェーン「AutoSock(オートソック)」だという。価格は樹脂製チェーンより若干安い2万円弱(普通乗用車用)。 

 

 AutoSockは2000年に発売された世界初の布製チェーン。今では世界の自動車メーカー約20社が純正オプション品として採用する。NEXCO東日本やJAF、国土交通省・各地方整備局のサービスカーにも配備されている。 

 

 21年度の国内におけるタイヤチェーンの販売構成比は樹脂製60%、金属製25%、布製15%だったが(中発販売調べ)、布製の比率が年々増加し、23年度には樹脂製と並んだ(41%)。今年度は布製がトップになる見込みだという。 

 

■着脱がかんたん 

 

 人気の大きな理由は着脱の容易さだ。これまで主流だった樹脂製チェーンはタイヤのゴムとの摩擦が大きいため、装着するにはかなりの力が必要だった。 

 

「自分でつけることを断念して、JAFに装着を依頼する方もいます」 

 

 布製チェーンの場合は、タイヤの接地部以外にかぶせてから、タイヤ半回転ぶん車を移動し、残りをタイヤにかぶせるだけ。多少タイヤからズレて装着しても、少し走行すると自動的に正しい位置になるという。 

 

 

厚みが薄いため、装着できる車種も多い。たとえば現行のトヨタ・プリウスやクラウンの場合、タイヤとボディー(タイヤハウス)とのすき間が狭く、従来のタイヤチェーンを装着するには制約がある。その点、布製チェーンであれば問題なく装着できる。 

 

■毛羽立ちがスリップ防ぐ 

 

 肝心な雪道での走行性能はどうだろうか。 

 

 従来のタイヤチェーンは、金属のくさりやスパイクが雪面に食い込んでグリップ力を発揮するが、布製チェーンは「毛細管現象」という全く別の仕組みで制動力を発揮する。毛細管現象は、細い管の中で液体が吸い上げられる現象で、布の繊維のすき間でも起こる。 

 

 布製チェーンは特殊な織り方をしたポリエステルの布地で作られている。タイヤに装着して少し車を走らせると、表面がこすれて毛羽立ちが生じてくる。一見すると、布地が傷んでいるようにも見えるが、「これが最もいい状態です」と服部さんは言う。 

 

 雪道で車がスリップする原因はタイヤと雪面の間に生じる薄い水の膜だ。本来、雪とタイヤの間には強い摩擦力が生じる。ところが、車が雪の上を走ると、その圧力で表面が溶け、水(液体)で覆われる。摩擦力が極端に低下し、スリップ現象が起きる。布製チェーンは繊維が水を吸い上げてタイヤと雪を密着させるため、滑らないのだ。 

 

■乗り心地は普段と変わらず 

 

 布製チェーンが最も効果を発揮するのは、雪が固まった圧雪路だという。深雪にタイヤがはまり、大渋滞が発生するが、深雪から脱出する際にも布製チェーンは有効だという。国交省・北陸地方整備局が実施した脱出試験では、布製チェーン(AutoSock)が中型トラックで最もよい成績を収めた。 

 

 国交省が定める「チェーン規制」区間では、スタッドレスタイヤを装着した車であっても通行できないが、布製チェーンをつければ、高速道路も走ることができる(制限速度は50キロ)。 

 

 従来製品は、樹脂製チェーンでも砂利道を走るときのような振動を生じるが、布製の乗り心地は普段走るのとほとんど変わらない。 

 

 

■耐久性と注意点 

 

 布製だと耐久性が低く「使い捨て」のようなイメージを持つかもしれないが、それは誤解だという。長距離の雪道走行に最も向いている樹脂製チェーンには及ばないものの、必要十分な耐久性を備えている。 

 

「弊社の走行テストで、布製チェーンで圧雪路を500キロ走りましたが、全く問題ありませんでした」 

 

 ただし、9割ほどアスファルトが現れた路面で走行テストを実施した際は、「120キロほど走ったところで裏地が見える状態になりました。ただ、アスファルト路面を走行したからといって、急なアクセル、ブレーキ、ハンドルの操作をしなければ、すぐに穴が開いてしまうことはありません」。 

 

 注意が必要なのは、駐車時間が30分を超える場合で、布製タイヤチェーンを外す必要がある。湿気を含みやすい布製タイヤチェーンは、長時間の駐車の間に凍結する恐れがあり、凍結した状態で使用するとスリップ事故につながる可能性がある。雪道の渋滞などで動けない場合は、車の熱で凍結は防げる。 

 

 使い終わったら、水洗いして汚れを落とし、日陰干しにする。乾いたら折り畳んで収納袋に入れて車内に戻す。 

 

 どんな種類のタイヤチェーンでも雪が降る前に装着の練習をしておくことが肝心だと、服部さんは言う。 

 

「都会の場合、気温が下がる夜に雪が降ることが多い。暗いなかで取扱説明書を読みながらチェーンを装着するのは大変です。事前に練習しておけば、いざというとき、落ち着いて対応できます」 

 

(AERA dot.編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

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