( 259069 )  2025/02/02 16:07:32  
00

フジテレビは週刊文春の記事訂正により、世論の風向きが変わった。

清水賢治社長は訂正に関していら立ちを示し、フジテレビ経営陣も“恨み節”を漏らしている。

週刊文春の記事による疑惑が直接的か間接的かによって、フジテレビのイメージが大きく変わる中、公表された訂正で一息つくことができた。

ただし、公表された訂正がきっかけとなり週刊文春による批判が高まり、メディアや一般の意見も分かれている。

フジテレビは初動対応や社内調査の不開示などの失敗を改善し、信頼回復に向けて取り組むべきだと指摘されている。

(要約)

( 259071 )  2025/02/02 16:07:32  
00

フジテレビの清水賢治社長 Photo:Anadolu/gettyimages 

 

 週刊文春の記事訂正でフジテレビを取り巻く世論の風向きは変わった。1月17日の“自滅会見”、27日の“10時間会見”と続いた手痛い失敗劇。フジテレビは四面楚歌(そか)の苦境に陥ったが、突然の記事訂正で一息つくこととなった。元タレント中居正広氏の女性トラブルで舞台となった食事会の設定に、社員が直接には関与していなかったとされたためだ。こぶしを振り上げていたメディアははしごを外されたかたち。いち早く反応したSNSでは「文春廃刊」がトレンドワードに上がり、怒りの声であふれた。第三者委員会設置、トップ2人の辞任と、“無条件降伏” の“土下座対応”だったフジテレビだったが、「社員の関与」については全面否定を貫いてきた。文春の“敵失”を受け、拒絶し続けた社内調査の公表を、今こそ再検討すべきではないか? “不祥事企業No.1”三菱自動車の広報部で危機管理を担当した広報コンサルタントが、フジテレビの信頼回復への道を探る。(広報コンサルタント 風間 武) 

 

● 週刊文春の訂正で 情勢に変化 

 

 「なぜあのタイミングで訂正を出したのかがいちばん疑問に思った。もう少しきちんとした対応が必要だと思う」 

 

「影響力が絶大なメディアだと言える文春さんにとって、その義務は何だろうということについていろいろ厳しい意見があった」 

 

 1月30日に開かれた取締役会の後、メディアの取材に応じた清水賢治社長は、言葉を選びながらも週刊文春へのいら立ちを隠さなかった。言外に、謝罪会見を開き経緯を公に説明すべきとの思いをにじませた。 

 

 フジテレビ経営陣から“恨み節”が漏れ聞こえるのも無理はない。 

 

 訂正箇所はフジテレビにかけられた疑惑の核心部分だったからだ。社員が女性を食事会に誘い自分たちはドタキャンして中居氏と2人きりにさせトラブルが起きた――、という複数の証言に基づく迫真のストーリーは、読む者に強い怒りの感情をかき立て、企業としての責任追及へ駆り立てるだけのインパクトがあった。 

 

 社員の関与が直接的か、間接的かで受けるイメージは大きく変わる。清水社長も、「(会見が)一連の週刊誌報道がベースとなるような質疑応答に終始してしまった。ベースとなるファクトが崩れ、ほころびがあるとそこから上に乗っかってくるものが崩れてしまう 」と手厳しい。 

 

 SNSの「X(旧ツイッター)」でも、「文春廃刊」がトレンドワードに躍り出た。 

 

 

 「フジが10時間会見したんだから文春も会見すべき!」「ごめんなさい間違ってました、で済む段階ではないのでは?」 「文春が正義みたいになってるの異常!」などとの非難の声であふれた。直前まで「フジテレビ倒産」などと経営危機を煽るような投稿ばかりだったから大きな変わりようだ。 

 

 さらに、訂正のきっかけが、元大阪府知事・大阪市長の弁護士の橋下徹氏から、「しれっと誤りを上書きするのは不誠実」の指摘、という文春編集長の説明も火に油をさした。余談だが、 ネット上の「goo辞書」国語辞書の検索ランキングでは、「しれっと」が1位だった(1月31日現在)。 

 

 新聞・テレビなどもオールドメディアも大きく報じたのはご存じの通りだ。特にフジサンケイグループの産経新聞は社説(1月31日付)で、「週刊文春の一連の対応は『雑誌編集倫理綱領』が求める姿勢に反するものだ。経緯の詳細を明らかにすべきである」と“援護射撃”した。 

 

● ボタンの掛け違いは 初動対応の失敗 

 

 1月27日の“10時間会見”に至るフジテレビの危機管理広報は失敗続きだった。詳しくは筆者の過去記事をご覧いただきたい。 

 

 さて、いささか長くなるが重要なので経緯を振り返ろう。 

 

(1)昨年12月26日、週刊文春が記事で、会食設定にフジテレビ社員が関与と指摘。 

(2)27日、フジテレビが「事実でないことが含まれ、当該社員は会の設定を含め一切関与していない」と否定コメント。 

(3)1月8日、週刊文春が第二弾記事。 

(4)9日、中居氏が「トラブルがあったことは事実」と公式サイトで認める。 

(5)14日、大株主の米投資ファンドが「第三者委員会調査を要求」と報道。 

(6)15日、フジテレビが「昨年より外部の弁護士を入れて事実確認の調査を開始」とコメント。 

(7)16日、週刊文春が第三弾記事。 

(8)17日、フジテレビが第一回会見。“閉鎖会見”と非難を受ける。 

(9)18日、トヨタ自動車や日本生命保険など大手スポンサーがCM差し止めへ。 

(10)23日、週刊文春が第三弾記事。フジテレビは日弁連ガイドラインに則った第三者委員会の設置を発表。 

(11)27日、週刊文春が電子版記事(有料)に「女性は中居氏に誘われた」と一部修正。フジテレビは社長会長の退任を発表し、第二回会見。“10時間超会見”となる。 

(12)28日、週刊文春が訂正を公表。フジテレビは「当初より一貫して、社員は食事会の設定を含め一切関与していないと主張」とコメント。 

 

 

 こうして丁寧に流れを追うと、フジテレビにとって、12月27日の全面否定コメントが最初のボタンの掛け違いとなったことが分かる。 

 

 1月31日現在も公式HPに掲げられ続けているが、SNSなどでの誹謗中傷・名誉棄損は控えてほしいと文末で釘を刺す、かなり強気の内容。メディアとしては、当然、十分な社内調査が行われた上で、確固とした経営判断が示されたものと受け止めた。 

 

 ところが年が明けると、弱気なコメントに転換。新たに事実確認の調査をするとし、 腰砕けの印象となった。経営への不信が高まりはじめ、1月17日の“閉鎖会見”の致命的な失敗を経てスポンサー離反を招き、“無条件降伏”という最悪の事態に追い込まれた。 

 

 なぜ、週刊文春の初報へ強い対決姿勢で臨んでしまったのか? この判断が、フジテレビの失敗の始まりだったといっても言い過ぎではあるまい。 

 

● 失敗の原因は 社内調査の不開示 

 

 初動対応の失敗は1月17日会見の下記の質疑でも明らかだ。 

 

 記者「(1月15日に)出されたコメントでは昨年来、調査を続けていますという現在進行形。12月の時点で調査を終了していないにもかかわらず否定されたコメントを出されたのは?」。 

 

 港浩一社長(当時)「いろいろなものを調査継続中ということでございます。詳細はですね、調査委員会に全部我々が資料を出して、そのホームページの記載自体も正しかったかどうかというのも判断していただきたいと思います」。 

 

 この質疑がフジテレビの信用崩壊に至る決定的な瞬間だったように見える。 

 

 「前言撤回の上、調査委員会(日弁連ガイドラインに則り独立性の確保された第三者委員会ではない)に丸投げして隠れみのにするのでは?」とメディアが受け止めても無理はあるまい。 

 

 それでも全面否定コメントを撤回しないなら、この段階で社内調査の結果を公表するべきだったのではないか? 

 

 少なくとも疑惑の核心部分である社員の直接関与について、港前社長は「当該社員の聞き取りのほか、…通信履歴など幅広に調べております」と明言している。幹部らによる経営判断に至る社内調査が行われ、なんらかの報告書がまとめられていたのは間違いない。 

 

 

 後にコンプライアンス部門がかかわっていなかったと明らかになったように、不十分な内容ではあったのだろう。だが、1月27日の“10時間会見”でまさにその内容について、延々と“押し問答”が繰り返されたように、メディアの関心の的であったことに違いはない。 

 

 やはり、危機管理広報の観点からは、フジテレビは調査報告書の概要を公表すべきだったと言わざるを得ない。法務部門や弁護士のリーガルチェックを厳重に行い、プライバシーに十分に配慮することは大前提だ。 

 

 逆に絶対に公表しない腹積もりなら、その前の強気の全面否定コメントは“自殺行為”で撤回すべきだったと言わざるを得ない。 

 

● 信頼回復にまず必要なのは ボタンの掛け違いを正すこと 

 

 週刊文春側の説明では、1月8日に第二弾記事を出す前には“誤報”を認識していたようだ。もしもこの時点で素早く記事訂正が公にされていたら、その後の一連の流れは大きく異なったはずだ。清水社長が1月30日に「なぜあのタイミングで訂正を出したのかがいちばん疑問」と指摘したのも理解できる。 

 

 おそらく近いうちに週刊文春は、何らかのかたちで、社内処分やおわび会見の実施に追い込まれるだろう。社会的圧力は日に日に高まりつつある。全メディアから厳しい批判を浴びるに違いない。 

 

 その時こそ、フジテレビにとって汚名返上のチャンスだ。 

 

 ボタンの掛け違いを正すため、社内報告書の概要公表を検討頂きたい。第三者委員会報告まで2カ月を無駄にするべきではあるまい。信頼回復への第一歩となるかもしれない切り札と筆者は考える。 

 

 港社長は第一回会見で「事実関係や会社の対応が十分だったのかなどについて、昨年来、外部の弁護士の助言を受けながら、社内で確認を進めてきた」としており、その後も、暫定的にでも問題点の抽出は進んでいるはずだ。 

 

 自浄能力を、ひいてはガバナンス能力を完全に失っていた訳ではない、と証明する手掛かりになるかもしれない。 

 

 ただし、残念ながら、本件問題に対するフジテレビの対応が全面的に免責されるというわけにはいかない。 

 

 中居氏のトラブルをコンプライアンス部門を介さず幹部だけで対応にあたったガバナンス問題や、中居氏の番組出演の継続を許した判断など、問題点は多い。 

 

 これまでの社内調査に一定の納得感を獲得して信頼崩壊からの脱出を図りつつ、“本番”である第三者委員会調査に真摯に向き合っていって頂きたい。 

 

風間 武 

 

 

 
 

IMAGE