( 259671 )  2025/02/03 17:09:24  
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行列店には、行列店ならではの悩みがある。今まであまり語られてこなかったが、ビジネスの中で解決しようとする動きも見られ始めている(筆者撮影) 

 

高い人気を誇るラーメン店は、多くの人が並ぶゆえの悩みを抱えています。記帳制を導入するお店や、整理券を配布するケースなど、店主たちはさまざまな試みで解決しようとしていますが、「日の出前から整理券を配布する」など、結果的に疲弊してしまうケースも。 

人気連載「ラーメンミュージシャン井手隊長のラーメン見聞録」。今回は、普段あまり語られることのない、行列店ゆえのリアルな悩みをご紹介します。 

 

■元フレンチシェフが営む超人気ラーメン店 

 

 「銀座 八五」。京都全日空ホテル(現・ANAクラウンプラザホテル京都)の元総料理長・松村康史さんが東京・東銀座で立ち上げたラーメン店だ。 

 

 松村さんはホテルのフレンチの料理人としての36年のキャリアがあった。そのキャリアにピリオドを打ち、人生最後のステージとして「ラーメン」を選んだ。 

 

 2015年3月に水道橋に「中華そば勝本」をオープン。「銀座 八五」は松村さんが立ち上げた3店舗目で、2018年12月オープンのお店だ。 

 

 「八五」で松村さんがトライしたのは「タレ」のないラーメンだ。 

 

【画像で見る】絶品すぎる! 元フレンチシェフの技術が詰まった「八五」の中華そば 

 

 ラーメンというのは、丼にタレを入れ、スープを注いで、麺と具を入れて仕上げるのが基本的な作り方である。 

 

 しかし、美味しいスープができれば「タレ」はいらないのではという境地に辿り着いたのである。松村さんはフレンチの技法のすべてを使ったスープ作りにチャレンジし、「八五」の味を完成させた。 

 

 厳選した鶏と鴨をメインに、昆布、椎茸、イタヤ貝、ドライトマトなど様々な食材の味を重ね、中華の上湯スープの技法を応用して、生ハムのダシで味を調えている。 

 

 ダシ感のみでぐいぐい引っ張るスープの複合的な旨味は、筆舌に尽くしがたいものがある。 

 

 なんと「八五」は2018年のオープン時にこのラーメンを850円で提供していた。私はこの味でこの価格なのかと目を丸くした記憶がある。 

 

 確実に全国的に評価されることは間違いのない一杯だと思ったし、今まで全く食べたことのないイノベーティブな一杯だった。さらに、立地もお店のしつらえも完璧だったのに、である。 

 

 

 「味はもちろん自信がありました。 

 

 ですが、6席しかない店で、多少価格を上げたとしても儲からないことはわかっていましたので、店をオープンして認知してもらえるまではこの価格で辛抱しようと850円でオープンしました。 

 

 その後、店舗展開や商品展開などに繋がればいいなという希望を残しつつ」(松村さん) 

 

 オープンの翌年には『ミシュランガイド東京』のビブグルマンに選ばれる。しかし、オープンから1年半は価格はそのままでお店を続けた。その後、コロナが直撃し、勢いは落ちていった。 

 

■記帳制を導入も、様々な問題が生じる 

 

 コロナが終息してきた頃に初めて価格改定をし、お客さんが戻ってきて行列が伸びてきた頃、「記帳制」をスタートした。 

 

 しかし、この記帳制が数々の問題を生んだ。 

 

 「朝の時間にお店の前に来ていただき記帳をしていただいた後、所定の時間に食べに来ていただくというシステムだったのですが、記帳したはいいが来てくださらないケースが多数出てきました。 

 

 デポジットでお金をいただいていたわけではなかったので、無断キャンセルになった分はロスになってしまいます。うちは6席しかないお店ですので、キャンセルがかなり痛手になってきてしまうのです」(松村さん) 

 

 記帳制のルールについて都度お客さんから問い合わせが来るし、このままではトラブルも起きかねない。そこで記帳制をやめると、今度は大行列が始まる。 

 

 真夏を迎える前に5〜6時間の行列ができるようになってしまい、このままではまずいと整理券制を2〜3カ月導入したが、それもうまくいかなかった。 

 

■ネット予約システムを導入、最初は懐疑的だったが… 

 

 そこで出会ったのが「TableCheck」という、ネット予約のシステムだった。レストラン時代の友人で京都「真白」の小霜シェフが使っていると聞き、導入してみることにする。 

 

 「ラーメン屋なのに予約料をお客様からいただくというのは申し訳ないなという気持ちはありました。 

 

 日頃予約の取れない高級料理店ならば当たり前のものかもしれませんが、ラーメン屋には合うのかなと疑問には思っていましたが、試しに始めてみました」(松村さん) 

 

 そこで、並んで食べたいお客さんのニーズにも応えるために、朝から12時までは並んで食べられるようにし、12時からは予約制にすることにした。 

 

 すべて予約制にしなかったというのはポイントだろう。ふらっと食べに来たい人のニーズに応えるために、それぞれのニーズに合わせて選択できるようにしたのは松村さんのこだわりだ。 

 

 

 予約料は500円。1200円のラーメンを注文したとするとお会計は1700円になる。それでも長い時間並ぶよりはこちらのほうがいいと考えるお客さんが多いことを知った。 

 

 「やってみなければどうなるかわからなかったですが、いざ始めてみると500円払っても喜んでいるお客さんのほうが多いことがわかりました。 

 

 今や予約制のお店も増えてきましたが、うちも含めて、予約を使わなくても済むお店になってしまわないように、これからもお客さんに満足していただける味、お店づくりをしていかないとと襟を正す思いです」(松村さん) 

 

 松村さんはフレンチからの転身だが、ラーメンの味はいろいろと試したいものはあったものの、予約制がラーメン店に導入される日が来るとは思わなかったという。 

 

 時代とともにラーメンを食べる層が広がってきて、いろんな形のラーメン店が受け入れられるようになった流れから、たくさんの選択肢が生まれてきている。 

 

 「八五」のTableCheckの予約は、毎週土曜日の朝9時に翌週の分が開始される。いまや毎週5秒で売り切れるスーパープレミアムチケットだ。 

 

 リピーターも大変多く、外国人観光客の中にも日本に来るたびに「八五」を訪れるというリピーターがいるそうだ。 

 

■あまり語られない、店側の困りごとも解決 

 

 そんなラーメン店の新たな道を示してくれているTableCheckだが、実は簡単にラーメン店に受け入れられたわけではない。 

 

 以前から高級料理店ではすんなりとネット予約が受け入れられるようになっていたが、社長の谷口優さんはもっとカジュアルな場でも席が予約できたら便利だろうと考えており、2016年頃からラーメン店への営業を行っていた。 

 

 ラーメン店は客席の回転率が落ちる時点で検討してもらえないと思ったので、「ファストパス」という形で予約でなくても優先的に入れる権利を販売する形を考えた。 

 

 しかし、当時はことごとく断られたという。お客さんが手数料を払うなんてありえないと門前払いを喰らい、当時は諦めたそうだ。 

 

 その後、コロナに突入し、コロナ明けに「八五」で2023年11月に導入されたのがラーメン店としては初である。 

 

 「記帳制や整理券制のルールがいまいちわかりづらい、インバウンド客への説明が難しい、キャンセルが多い、など、数々の課題をTableCheckであれば解決できると思ってご提案しました。 

 

 

 お客さんは一回ガッカリしてしまうとなかなかその意識を変えることは難しい。TableCheckを活用してもらうことでそこのストレスをなくしてもらえるのではないかと思いました」(谷口社長) 

 

■外国人観光客とも良い関係性を築ける 

 

 TableCheckを活用してもらうことで、遠方から来るお客さんも楽しめて商圏が広がり、外国人観光客も行列を気にせず気軽に利用することができる。 

 

 外国人観光客はリピートしないので敬遠しているお店も多かったが、観光客がそのお店に満足すればその国でどんどんそのお店の評価は上がっていく。「八五」は外国人観光客のリピーターをも獲得しており、まさに理想的な形になっている。 

 

 「TableCheckを導入することで不快に思う人も多いのではと危惧された部分もありましたが、ネガティブな反応はほとんどありませんでした。 

 

 『八五』さんが成功したことで、行列店や外国人観光客の多いエリアのお店を中心に利用が広がっており、現在70から80店舗のラーメン店が活用してくれています」(谷口社長) 

 

 TableCheckとしても行列を完全に否定しているわけではない。 

 

 あくまで、お客さんの新たな選択肢を作るということが目的だった。道路に一般道と高速道路があるように、お客さんが好きなほうを選べる形を作り上げるのが、サービスの目指す理想の形だった。 

 

 「この形であれば“集客が減る”というリスクがありません。通常のルートを残しながらご活用いただけるのがポイントです。 

 

 お店のニーズに合わせて柔軟に手数料の価格を変えることもできますし、ピーク時間だけ予約制にすることも可能です。これからもお店に合わせて使いかたはさまざまになっていくと思います」(谷口社長) 

 

 手数料の中から一部はお店にフィーとしてバックしているのも、このサービスのポイントだ。ラーメンの価格がなかなか上げられない中、新たな収益源として活用してもらうことも考えたいと谷口社長は言う。 

 

 

 
 

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