( 260516 )  2025/02/05 05:44:57  
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長時間におよぶ会見で疲れを見せる港浩一社長(左)と嘉納修治会長。ともに役職は当時(撮影:梅谷秀司) 

 

 バラエティやドラマで、かつてはテレビ界をリードする存在だったフジテレビ。中居正広氏のトラブルをめぐる対応への責任を問われ、港浩一社長と嘉納修治会長が同時退任し、75社以上がCMを差し替えるなど、まさに存続の危機を迎えています。 

 

 そしてまた、大きな動きがありました。 

 

 同社の大株主のアクティビストファンドがフジ・メディア・ホールディングス(以下、フジHD)に対し、2月3日付で新たな書面を送付した、という報道。日枝久フジサンケイグループ代表に対し、フジテレビおよび親会社のフジHDの取締役から辞任することを求めているといいます(以下、役職は当時)。 

 

■「10時間超え会見」の成否 

 

 その1週間前の1月27日。きわめて難しい状況下で、フジテレビとフジHDの代表取締役が全員そろって会見が行われていました。 

 

 そもそも“大爆死”してしまった、港社長による1度目の会見からの「やり直し会見」。準備時間も、開示できる情報も大きく変わるとは思えない中での開催でした。 

 

 唯一の変化は、その「閉鎖ぶり」が大批判された前回とは打って変わり、「オープンで行われた」ことでした。 

 

 登録申請した媒体や個人が参加でき、さらには質疑応答にも時間制限を設けないという、これはこれでかなり思い切った設定となったのです。ただ、フジテレビを実質的に支配しているといわれる日枝久相談役本人の会見参加を求める声が多数ありましたが、それはきわめて難しいだろうと思われました。 

 

 会見当日に先だって、私はさまざまなテレビ番組で取材を受け、ついには当のフジテレビの番組にも出演し、上記のような難しさを説明しました。まず開示できる新たな情報など期待できないし、フルオープンによる不規則発言や妨害のような行為といったセキュリティ上の問題もあり得る、フジテレビにとってほぼメリットが考えられなかったからです。 

 

 そして、10時間23分という、例のない長時間会見は行われました。 

 

 「ほぼメリットがない」と思われた会見でしたが、私は会見翌日、この成否について、フジテレビのニュース番組で「会見は一定の成果を上げたのではないか」という評価を述べました。 

 

■厳しく追及する質問者がフジを救った?  

 

 さまざまなメディア、個人ジャーナリストのみならず、YouTuberなど400人を超える取材陣が詰めかけ、フジテレビに対し舌鋒鋭い質問が飛び交った会見。この様子は、フジテレビが中継し、激しく問い詰められるシーンは一般視聴者にも放映されました。 

 

 

 会見冒頭で「1人2問まで」というルールが司会者からなされましたが、これだけの人数が集まった以上は理に適っていると思います。しかし実際には、1人でえんえんと自説を主張する人、ほとんど同じような質問をする人、禁止された当該女性のプライバシーに直結する質問をする人が目立ちました。 

 

 私は別のテレビ局で、会見を見つつ解説するという仕事をしていましたが、私が一番関心のあった事業継続の要である「利益問題」。CMの差し替えによる利益損失やこの先の収益対策、株主対策についてはほとんど触れられていないようでした。 

 

 会見に先立って、嘉納会長と港社長が退任することが発表されましたが、想定の範囲であり、会見を通じて特別に新たな情報はなかったと思います。前回の港社長の会見を訂正するように日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会設立という説明があり、このことは進歩ではあるものの、かえって回答を拘束することにもなりました。 

 

 そしてこの会見は過酷でありつつも、フジテレビにとっては追い風となる変化もありました。 

 

 会見の進行とともにネットやSNSでは、質問者を批判する声もあがり始め、さらには「フジテレビ(経営陣)がかわいそう」というような擁護まで出始めたのです。 

 

 怒声でつるし上げる質問者に対し、平均年齢70代の経営陣は、10時間を超える会見に最後まで冷静さを失わず臨みました。こうした姿勢と会見の進行は、それまですべての疑念と批判を一身に集めていた流れを変えたと思います。フジの窮地をアシストしたのは、厳しい“つるし上げ質問”を認めたオープン会見という設定にあったのかもしれません。 

 

■怒りや反発を焼き尽くす「焦土作戦」 

 

 謝罪会見や釈明会見は、事態の鎮静化こそゴールとすべきだと思っています。世論は、「真実が何か」を求めているように見えて、実は「悪への懲罰を見たい」という心理が強く働いているのが謝罪の場です。 

 

 

 特に近年、謝罪会見がコンテンツの1つのように扱われるようになり、会見の場だけでなく、それを見ているテレビやネットの向こう側にいる視聴者が、そうした期待や関心をもって見るようになりました。 

 

 過去には時間制限をし、質疑応答を受けない、一方的にステートメント発表をしただけの会見もありました。ガードでガチガチに固めた対応は事態をさらに悪化させ、結局そのまま表舞台から消え去ることになった有名人もいます。 

 

 本来、会見において「時間無制限」「オープン」という形式は、主催社側のリスクになります。しかし今や、自分たちを守るために質問や時間の制限をすることは、その場はしのげてもその先の事業継続ができなくなるようなダメージをもたらすリスクがあるのです。 

 

 BCP(事業継続計画)こそ謝罪の目的であるという私の考えから、フジテレビの2回目の会見のような“ノーガード戦法”には一定の合理性を感じます。 

 

 問題は解決していませんし、危機も続いています。しかし、ひたすら負け続ける戦況の流れに変化をもたらすうえで、捨て身で、怒りや反発を燃やし尽くすまで会見ができれば、成果があることは確かだと思います。10時間を超えてひたすら謝り続ける経営陣の対応は、一定の成果があったのではないでしょうか。 

 

 会見後の1月29日、『週刊文春』が、トラブルのきっかけとなった中居氏のパーティに、当該女性を誘ったのはフジテレビ社員ではなく中居氏本人だったという訂正を行いました。会見ではフジテレビ社員の関与はないと説明した港氏に対し、それを証明するように迫る質問もありましたが、文春が事件当日の関与否定したことで、流れは変わってきたと感じます。 

 

 ちなみに私は会見翌日、さらにフジテレビのニュースで会見についてコメントしたのですが、その際、私はスタジオのはずれで、目の前にいるフジテレビの人々にずばり聞いてみました。「もしかしてこうなることを見越して、あるいは期待して、2回目会見をオープンにしたのですか?」。 

 

 

 皆さん、そんなことは考えたこともないし、できる人もいないでしょうと否定されました。真相はいかに。 

 

■他社への影響 

 

 この一連の問題の影響は、他社にも広がっています。CM出稿を取りやめたのが75社を超えたとのこと。政府もCMや制作協力の中止を発表しました。予定されていたさまざまなフジ主催イベントも中止が発表されています。 

 

 さらに文春は、トラブルのあった中居氏のパーティに、笑福亭鶴瓶氏、ヒロミ氏も参加していたと報道しました。事件が起こる前の話ではあっても、トラブルにつながったとする場にいたということを問題視する声もあり、スシローがイメージキャラクターに起用していた鶴瓶氏の広告を削除する動きがありました。 

 

 リスクを評定し、行動を判断するのは簡単ではありません。先に論じた謝罪記者会見のように、リスクを避けるならガチガチに守って、何も発さず、何も言われないようにすればいい。 

 

 しかし、批判が怖くてあらゆるリスクを避けるのは、無名の民間企業であれば一定の理はあるものの、裁判の確定判決でも何でもない、単なるネット上の声に押し切られるということでもあります。 

 

 逆に通信販売の夢グループはこれまで通り、フジテレビでのCMを継続しました。『女性自身』の報道によれば、同社の石田重廣社長の「自分がCMを差し止めるような会社ではない」という謙虚な姿勢や発言をしたといい、好意的意見も多く寄せられています。 

 

 本件とは別件ですが、年末に泥酔して隣家に侵入する騒動を起こした俳優の吉沢亮さんについて、イメージキャラクターに起用していたアイリスオーヤマは、これまで通り広告起用を続けることを表明しました。こうした独自の判断には一定の評価の声があります。 

 

■リスクを避けるか、今の環境を利用するか 

 

 トラブル真っ最中のメディアで広告を出すか出さないか、正解はありません。私はブランドマネージャーとして、長年マーケティングの仕事をしてきました。出稿や媒体選びの最後の決め手は、自分のセンスだと思っています。 

 

 リスクを避けて何も手を出さないか、リスクをとって今の環境を利用するか、これって、もしかすると今のフジテレビがとれる選択肢でもあるかもしれません。 

 

 普通ならキー局、それもフジテレビでCMなど考えられないという、これまで取引すらなかった会社に、大ディスカウント価格で広告提案をしたら、ただひたすら収益が流れ出ている現状を止める一助にならないでしょうか。 

 

 フジテレビの危機は何も終わっていません。第三者委員会やガバナンス体制批判への回答はこれからです。戦況は良くも悪くも変わるもの。危機においても冷静に、事業の継続の道を図っていくしかないでしょう。それが次の経営者には求められていると思います。 

 

増沢 隆太 :東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家 

 

 

 
 

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