( 260736 ) 2025/02/05 17:16:59 0 00 誤報が発覚した文春に対して「あらゆる選択肢が検討のもとにはある」と語るフジテレビの清水賢治新社長 Photo:JIJI
● 小さく報じるべきではなかった 文春「誤報」はなぜ起きたのか
1月27日に行われたフジテレビの10時間以上に及ぶ「出直し記者会見」の翌日、中居正広と被害女性の間でトラブルが起きた当日にフジテレビ社員が関与していたとする報道が誤報であったと、『週刊文春』が発表しました。電子版の無料で見られるページに「被害女性を誘ったのは中居本人だった」という旨の「訂正」を出して、謝罪したのです(27日午前中には、読者が限定される電子版の有料ページで、この件に関する「追記」を出しています)。
そして現在、文春のこの誤報がなければ、会見にかかった時間や記者たちによる質問の内容もだいぶ変わっていたのではないかという議論が、世間を騒がせています。
私はこの誤報は、小さく報じるべきではなかったと思いますし、きちんとした「訂正」を発表するタイミングも遅すぎたと思います。1月30日発売の文春本誌での編集長名の「訂正とお詫び」も、1ページのみ。むしろ、今回なぜ誤報が起きてしまったかについて、検証記事を載せるべきだと考えます。
問題のフジテレビ編成局幹部についての風評は、以前から私も聞いていました。しかしなぜ、被害女性がトラブル当日にその人物に誘われたという報道になったのか。被害女性が直接証言したのか、それとも被害女性の友人やフジテレビ社員といった関係者の証言・噂の類を信じたのか。そして、その証言者は複数人なのか、それとも一人だったのか――。
文春がどういう記事のウラとりをしているか、読者に説明すべき大事なことだと思います。世間では、中居が単にその社員の名前を出して「彼も来るから」と偽り、自宅に誘ったのではないかという推測も広まっています。
私たち昔の『週刊文春』に関わった人間は、どんなに大きなスクープを出しても他メディアから「一部週刊誌によると」としか引用されず、絶えず「三流」という冠言葉を付けられる悔しさをバネに、新聞やテレビを上回る正確さで驚くべき事実を伝えることを目標にして、頑張ってきました。そして実際、今では文春が「一部週刊誌」と報じられることはなくなり、むしろメインのニュースで「週刊文春によると」という前置きで取り上げられるようになりました。
これは現在、編集部にいる後輩たちの努力のお陰でもあります。実際、かつては「週刊誌だから」という理由で、スクープの部分だけが誉められ、細部の間違いは見逃されていた時期もありました。しかし、週刊誌報道がデジタル化された現在では、内容の正確さに新聞と同等のクオリティが要求されていることも自戒してほしいのです。
人間ですから、間違いはあります。間違えたら、謝る。そして、なぜ間違えたのかも読者に真摯に報告する。このスタイルをこれから堅持すれば、新しい週刊誌像を読者に知ってもらうことができるでしょう。
さて、話題をフジテレビに移すと、問題は27日に行われた「出直し会見」です。日をまたいで10時間以上に及んだ会見を見て、私は3月末に第三者委員会が調査の結論を出すまで、フジ再起の道のりは相当厳しくなったと思いました。
なぜかといえば、もともと中居正広と被害女性との話し合いは当事者間で終わっており、守秘義務まで決められている以上、フジテレビ側が独自に調べられる範囲は限られてしまうからです。
この事件については、ドンと呼ばれるフジ・メディア・ホールディングスの日枝久取締役相談役(フジサンケイグループ代表)にも報告が行っており、逆にフジテレビでコンプライアンス推進室を担当していた遠藤龍之介副会長(民放連会長)に報告がなかったことが判明しています。ベールに包まれているのは、中居と被害女性の会食に関わったとされていた編成局幹部の役割や、中居の被害女性への対応などですが、これらには当時者間における守秘義務の壁が立ちはだかっています。
ただ、今のフジテレビにとって、3月の第三者委員会の結論を待ってはいられない事情があることも事実です。なるべく早く真摯な対応と大きな変革を断行しようとしていることを、スポンサーに説明するしかありません。
● メディアも視聴者もクライアントも フジの「本気度」に納得できない理由
すでに会見前からフジテレビの港浩一社長の辞任説は流れていましたが、結局、港氏に加えて同社の嘉納修治会長も辞任を発表。フジ・メディア・ホールディングス専務の清水賢治氏がフジテレビの新社長に就任することが発表されました。遠藤副会長も会見翌日に、第三者委員会の報告書が提出される3月末をメドに辞任する意向を示しました。
が、残念ながらこの程度では、メディアも視聴者もスポンサーも、フジの「本気度」に納得はしませんでした。事件当時編成局長だった関西テレビの大多亮社長、被害者から相談を受けていたのに問題解決に向けた行動をとらなかったと報じられたアナウンス室部長の佐々木恭子氏らに謹慎くらいはさせるべきだったと思いますが、それもなし(問題の編成幹部については、後日、社内で配置転換が行われたと報道されました)。何よりも、フジ労組が第一の要望として提出していた日枝氏の会見出席もなかったからです。
● 「危機管理の原則」から ことごとく外れているフジの対応
こうしたトラブルが起きた際の企業の対応には、(1)調査、(2)謝罪、(3)処分、(4)再発防止策の発表という4セットが必要です。しかし、現状のフジは(1)の調査は中途半端なまま。(2)の謝罪はしているものの、誰に対しての謝罪かわかりません。社員なのか、被害者なのか、スポンサーなのか、原因が「プライバシー」の名の下に明解でない以上、責任者も明確にできず、謝罪の主体が誰になるかわからないのですから。そして(3)の処分も(4)再発防止策も、第三者委員会の調査を待たないと、はっきりとは決められません。
私は文藝春秋社を退社したあと、約2年間、危機管理会社リスク・ヘッジで、この世界の権威である田中辰巳氏に、危機管理のキーワードを教わりました。それは、危機管理には「感知→解析→解毒→再生」という流れが必要だということです。
今回の問題は、中居が女性に性加害をもたらした時点で、フジテレビ側に事の重大さを「感知」する能力が足りませんでした。被害者が求めるもの、そして性加害に厳しい世論がある現状をまったく理解していなかったのです。報告を受けて事件の性質を「解析」したら、中居の番組即降板は当然のことで、事件との関連性がわからないように降板させることも十分可能でした。しかし、局が中居登板を優先したことで、被害女性の「解毒」はできなくなりました。
フジテレビは、「被害女性が事件が漏れることを嫌がったから、中居の登板を続けた」と言い訳していますが、これには疑問があります。
会見で新たにわかったことは、問題を把握していたはずの港社長も被害女性と接触することはほとんどなく、精神科医を通じて様子を聞いていたということでした。精神疾患を発症し、手術まで必要だったという被害女性は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性が高いです。彼女が局内や映像で中居の姿を見たり、声を聞いたりするだけで、この症状がひどくなりえる可能性があることは、精神科医なら誰でもわかることです。精神科医が、そのことを指摘していないとは思えません。
こうして見ると、フジテレビ関係者の深層心理は、「被害女性の回復・復帰に全力を尽くそう」というより、「厄介で面倒な被害者が出現してしまった。なんとか女性が中居と戦うような事態が起きないようにしよう」というものではなかったか、そしてあの手この手で被害女性の口封じを図っていたのではないかと、疑われても仕方がありません。
● 文春の「誤報」があったにせよ フジテレビに問題がなかったわけではない
『週刊文春』の報道は、特定の日に起きた事件における「社員の関与」については間違っていました。しかし同誌の続報によると、別の現役女性アナも匿名で「私も上納された」と証言しています。真相は第三者委員会の報告までわかりませんが、被害女性をめぐる一部の報道に誤りがあったからといって、フジテレビに性加害の容認、人権意識の欠如といった問題がないとは言えないはずです。
私はむしろ、多くのメディアがフジの「性上納」という問題にフォーカスしすぎたこと(これには、文春の報道の責任ももちろんあります)が、論点をぼやかしてしまった要因の一つだと思います。被害女性がどれだけの期間、どんな治療を受けたのか詳細はわかりませんが、精神科医の意見も聞いているのに、社の幹部が事件後長期間にわたって中居に事情聴取さえせず番組出演を継続させていたこと、被害女性のケアを密にしていなかったことこそが、本質的な問題だと思うのです。
記者会見の幹部たちの発言を聞くたびに、私は深層心理の中で今回の事件を「面倒事」と捉え、触れようとしなかったのだと感じました。それは、被害女性本人が港社長に挨拶に行ったとき、「謝罪がなかった」と証言していることからもわかります。結局、彼女は映像の世界で羽ばたくことを夢見ながら、それを諦める選択をしました。前述のように「解毒」は完全に失敗したのです。
繰り返しますが、問題の本質は、本来なら自社にとってプラスになるはずの行動をとった被害女性を守れなかったことです。こうした意識はテレビ局の屋台骨を揺るがしかねません。たとえば報道という面で考えると、災害や戦争など極めて危険な場所に赴いて真実を伝えるために取材を行う社員たちの尊い行動が、事故が起きることを嫌う上層部によって、「面倒事扱い」される可能性もあります。そうしたやるせなさをフジテレビ社員は感じているからこそ、ここまで怒っているのではないでしょうか。
さて、最後は「再生」です。女性に激しい被害を与えた中居の再生は絶対にありません。しかし、フジテレビに再生の可能性は残っているはずです。いや、残すべく全社員が必死になっているからこそ、「出直し会見」までしたのです。
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