( 261011 )  2025/02/06 05:41:48  
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写真はイメージ=ゲッティ 

 

 初任給の引き上げや春闘を通じた賃上げが活発化する中、賃金の上昇は若年層に偏り、おおむね「就職氷河期世代」にあたる中高年の人々の賃金は、停滞または減少している。この世代間格差はなぜ発生しているのだろうか。 

 

 まず2024年の春闘を振りかえると、平均賃上げ率は5%を超え、歴史的な伸び率となった。この中で手厚い配分を受けたのは若年層だった。 

 

 経団連が24年の労使交渉内容をまとめた「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、「ベースアップの具体的な配分方法」(複数回答)として「若年層(30歳程度まで)へ重点配分」との回答は34・6%に上った。 

 

 これに対し「ベテラン層(45歳程度以上)へ重点配分」としたのはわずか1・1%にとどまり、ベアの財源の多くが若手に振り向けられたことがわかる。 

 

 残業代などを除く「所定内給与」はどう変化したのか。 

 

 第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生さんが厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとに19~24年の直近5年間の増減率を年代別に比べたところ、最も高いのは「20~24歳」で10・3%増、次いで「25~29歳」の9・5%増だった。 

 

 30代をみると「30~34歳」の5・8%増、「35~39歳」の4・8%増と次第に増加率が縮小していく。 

 

 続いて「40~44歳」は0・1%増、「45~49歳」は2・1%増と微増にとどまり、「50~54歳」に至っては3・0%減と減少していた。 

 

 「55~59歳」は4・9%増で一見すると給与が増えたかに思える。熊野さんは「企業が昇進・昇格するタイミングを前の世代より遅らせたことで、その分賃金上昇も遅くなっただけ。金額的には減少している」と説明する。 

 

 「最も割を食っている」と、熊野さんが指摘するのが40~54歳だ。所定内給与の増加率が少ない要因の一つとして「就職氷河期世代」にあたることを挙げる。 

 

 就職氷河期世代とは、バブル経済が崩壊した1993~04年ごろに入社した人たちを指す。当時の有効求人倍率は1を割り、大企業でも大幅に採用枠を縮小。非正規雇用など労働条件が劣る職場をやむなく選んだ人も多い。 

 

 熊野さんは「就職時の雇用環境が悪ければ、そこが人生の分かれ道になって、生涯年収が変わってしまう。そうした弊害が生じている」と指摘する。年齢や能力に見合った経験を積む、年金など資産形成をするといった機会がなかった人もいただろう。 

 

 若手人材を確保しようと、初任給を引き上げる動きも加速し、30万円超を提示する企業も珍しくなくなった。 

 

 X(ツイッター)では、氷河期世代と思われる人から「うらやましい」「中間層(氷河期世代)は置いてけぼり」「せめて年金で暮らせるようにしてほしい」と半ば諦めたような意見や、就職時から報われない期間が続き、老後の見通しも厳しいことで「死ぬまで踏み台」と嘆く声もあった。 

 

 賃上げから中高年を置き去りにする動きに、熊野さんは「年齢で区切るような一律の雇用制度を見直す必要がある」と訴える。成果型の報酬制度などを導入して、年齢差別のない雇用が広がれば中高年に希望が見え、労働力不足の解消にもつながるとする。 

 

 氷河期世代の人々は時代の犠牲になり、自身の努力だけではどうにもならなかった側面もある。「おまえたちの代わりなんていくらでもいる」と踏みつけにされてきた人たちが報われる手立てを企業や政治は真剣に考えてほしい。【嶋田夕子】 

 

 

 
 

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