( 261256 )  2025/02/06 17:53:45  
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15年以上「一人部屋おじさん」をしているライターの佐藤大輝氏(34歳)は、これまで実家暮らし社会人(子供部屋おじさん)へ積極的にインタビューを行うなど、令和時代における居住形態の最適解について考えてきた。 

 

今回も「イージーモード」の実家暮らし人生を送る会社員を取材、企業の調査結果とあわせ、実家暮らしの実態に迫っていく。 

 

少し前の調査になるが、保険マンモス株式会社が、実家暮らしの男女500名にアンケートによると、家に入れている平均金額は40257円。年齢別に見た場合、20~30歳は33623円。31~40歳は41875円であった。 

 

この金額に対して驚く人は、おそらくそれほど多くない。私自身、実家暮らしの友人や知人から「生活費として親には3万円を渡している」といった話をよく耳にしてきた。 

 

しかし冷静になって考えてみると、3~4万円では1ヶ月分の食費にも満たない。総務省統計局が2024年に公表した「家計調査報告(家計収支編)平均結果の概要」によると、単身世帯における食費の平均月額は4万6391円。1日あたり約1550円だった。この金額は朝食に300円、昼と夜にそれぞれ600円ずつ使った場合にほぼ等しい。 

 

またご存じの通り、自炊には意外と水光熱費が発生する。私は埼玉県や茨城県など、プロパンガス圏内で7年間ほど暮らしたことがある。感覚値として、都市ガスとの料金の差は2倍近くあったように思う。洗い物は冬場でも冷水を使っていた。ガスボンベで調理した方が安上がりなんじゃないか考え、フライパンを持ってベランダで調理していたこともある。すべて節約のために、だ。 

 

ここ最近は地方も都市部も関係なく、電気代の高騰がエグイ。庶民の味方であるはずの白米ですら、わけのわからない値段になりつつある。生活に伴うコストは上がっていく一方だ。多くの国民が物価高騰に苦しむ中、子供部屋おじさんが家に入れるお金に変化はあるのか。もし仮にあったとして、彼らからすると自由に使えるお金が減るだけ。そういった意味で、私は実家暮らし社会人が「勝ち組」のように感じることがある。 

 

過去に私はマネー現代の取材記事で、社会で働き始めてから12年間以上、実家2階の子供部屋から職場に通っている男性会社員(33歳)を取材したことがある。その男性は正社員で、年収は約500万円。趣味は海外旅行で、年間旅費に200万円ほど使っていた。両親へは1円も渡してない。なぜ家にお金を入れないのかを聞いたところ、次のような回答があった。 

 

 

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「僕が家に1円も入れてない理由は、親から請求されたことが一度もないからです。こう言うと『社会人なら普通は言われなくても入れるもんだ!』みたいな批判があるようですが、いやいやいや、請求が来ない限りは普通払わないでしょ。税金で例えると分かりやすいです。もしも所得税や住民税が給料から天引きではなく、自分で払ってもいいし払わなくてもいいって制度になったら、その人たちは払うんですか?」 

 

「経済的自由は幸福感に直結します。一人で住むことにこだわって、会社と家の往復だけをしてる人って多いですけど、あれ絶対に人生損してますよ。実は僕の知り合いで2人、亡くなった方がいます。1人は高校の後輩で、心不全が原因でした。もう1人は会社の同期社員です。自分がいつ死ぬかなんて誰にもわかりません。天国にお金を持って行っても意味ないです」 

 

「実家暮らしは実家暮らしで、例えば騒音に気を遣ったり、親族同士の付き合いがあったり……実はそれなりにストレスがあります。一人暮らしみたいに完全に自由なわけじゃない。世の中はトレードオフ。ただそれだけの話だと僕は思いますけどね」 

 

(33歳・サラリーマン子供部屋おじさん) 

 

記事冒頭の調査結果によると、実家暮らし男女の26%が「家にお金を入れてない」ことが明らかになった。つまり実家暮らし社会人の約4人に1人が、稼いだお金のすべてを自由に使っていた。年齢別で見た場合、20~30歳は36%。31~40歳は21%が、家にお金を入れていなかった。なお実家暮らしをしている理由の1位は「お金に余裕がないから」。2位は「預金をしたいから」。3位は「職場が実家から近いから」だった。 

 

私は19歳の時から一人暮らしをしているが、20代前半の頃までは480万円の奨学金の返済や、これに伴うプレッシャーなど、経済的にも精神的にも死んでいた。そこで私は23歳の時、「実家に帰りたい」と両親に弱音を吐いたことがある。けれど両親からは「もう一人前の社会人なんだら、一人で頑張りなさい」と同居を拒否された。経済合理性はもちろんのこと、親との良好な関係を含め、私は実家暮らしの人が少しだけ羨ましい。 

 

とはいえ34歳になった今、私は「一人部屋おじさんを続けてきて良かったな」と思う部分が少なくない。住宅補助費どころか残業代すら1円も出ないブラック企業で、手取り16万円の安月給の中、それでも工夫しながら生活を回したからこそ、生活力と金銭感覚が磨かれた。自分の人生を守る、目には見えない資産となってくれた。精神的にもタフになった自信がある。もしかしたら勉強や部活と同じで、適度なストレスや困難は、人を成長させてくれるのかもしれない。 

 

 

よくこの手の議論になると「実家暮らしだけど自分でご飯を作っている」「ちゃんと預金している」などの反論があるが、私たちが言いたいのは「そう」ではないのだ。議論の全体像を把握できていない点が、私はどうしても「子供っぽい」と思ってしまう。 

 

「人様の家庭に口を出すな」といった意見も多いようだが、これもまた子供っぽい論理に感じる(そういった方々は芸能人や政治家など、プライベートに関する不祥事に無反応なのだろうか)。 

 

先ほど紹介した「子供部屋おじさん」にこの話題を振ってみたところ、このような回答があった。 

 

「僕は自炊をほとんどしたことがありません。いつも夕飯は母が作ってくれるので、それに甘えてます。掃除とかも母親がぜんぶやってくれます。さすがに自分の部屋は自分で掃除しますが、トイレ掃除とかは何年もやってないです。排水溝の掃除に関しては、人生で1回もやったことがありません。なので一人暮らしの友達から「夏場はキッチンの排水溝から臭ってくる」と悩みを聞かされても、まったく共感できません」 

 

「実家暮らしの生活力の無さって家事云々ではなく、一番深刻なのは「節約力が身に付かないこと」だと個人的には思ってます。安いか高いかどうかは関係なく、性能や面白いかどうかを判断基準に物(あるいはサービス)を買うようになる。仮に散財に走っても、翌月にはリカバリーできるわけですし……」 

 

「僕が言うのもあれですけど、実家暮らしの人の経済力って、親のスネをかじってるから実現できてるわけです。正直に言って、ゲームとしてはイージーモード。だけど僕のようにプライドを捨てて、『イージーモードで別にいいじゃん!』みたいに開き直ってる人は少数派。イージーゲームであることを認めたがらない人。ノーマルモードでプレイしていると思い込んでいる人は、かなり多いような気がしてます。一人暮らしの人が感じるモヤモヤ感の正体は、たぶんこれなのかなって」 

 

(33歳・サラリーマン子供部屋おじさん) 

 

経済的にはイージーモード。けれどその他の面、たとえば「恋愛」などにおいて実家暮らしはハードモードになるリスクがある。この記事で紹介した子供部屋おじさんは、じつは以前マッチングアプリに登録してたという。 

 

「僕は某マッチングアプリに挑戦したことあるのですが、ここでマッチングした女性からマルチ商法の勧誘を受けたことがあります。メッセージのやり取りを少しだけ重ねた後、女性側から『会って話してみたい』と提案があり、都内某所のハンバーガーチェーンに鼻息荒く向かいました。しばし談笑した後、相手の女性側から『ねぇねぇ、将来さ、やりたいことってある?』と唐突に聞かれました。そこで、『こんなビジネスがあるんだけど』とマルチ商法の勧誘を受けたんです」 

 

この悲しい思い出が「実家暮らし」によるものかはもちろん断言できないが、子供部屋おじさんの婚活にはハードなリスクが存在する可能性をご理解いただけたのではないだろうか。 

 

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33歳・サラリーマン子供部屋おじさんが、実家暮らしであることを隠さずにマッチングアプリに挑戦したらどうなるのか。1か月間、マッチングアプリで本気の恋活をした「驚きの結果」を、つづく記事〈33歳年収500万円「子供部屋おじさん」が絶句…マッチングアプリの女性から受けた「厳し過ぎる洗礼」〉で紹介する。 

 

佐藤 大輝(ライター) 

 

 

 
 

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