( 261726 ) 2025/02/07 17:05:41 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
現役時代は高収入で余裕のある生活を送っていても、老後が安泰とは限りません。十分だと思っていた退職金は、さまざまな出費によってみるみる減っていき、年金だけでは生活が立ち行かなくなるケースも。「まさか自分が……」と思っている方も、他人事ではありません。本記事では、老後資金の不足がもたらす深刻な影響と、いますぐ始めるべき対策について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
かつて大手企業で部長職を務めていた田中正一さん(仮名/70歳)。部下たちからは「温厚で頼れるリーダー」として尊敬されていました。現役時代は月収80万円を超え、年に数回の家族旅行やゴルフ会員権購入を楽しむなど、いわゆる「成功者」としての生活を送っていました。
退職時には3,000万円の退職金を受け取り、年金は月額25万円と、老後資金の心配は不要にみえました。しかし、そんな田中さんが定年退職後、久しぶりに元同僚たちと集まった飲み会での出来事が、部下たちに衝撃を与えます。
場所は大衆居酒屋。店員さんから会計を受け取った田中さんは「一人3,712円です」 といいます。その手にはスマートフォンの電卓アプリ。細かい割り勘を求める姿は、かつての気前のよさが影を潜め、部下たちは「別人のようだ」と感じたそうです。
飲み会後、かつての部下たちはひそひそといいます。
「田中さん、昔はまとめて支払ってくれてましたよね?」
「奢りだと思ったからきたのに」
「あーあ、大体店からしてランク落ちたよな」
「憧れていたのに、老後は悲惨だな」
飲み会解散後、帰路につく田中さんの表情にはどこか不安がにじんでいました。
田中さんのケースは、退職金や年金に頼る老後生活の限界を浮き彫りにします。
厚生労働省の中央労働委員会による「令和3年賃金事情等総合調査」(対象:大企業)によれば、大卒者の定年退職時の平均退職金支給額は約2,140万円です。一方、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」(対象:中小企業)では、大卒者の定年退職時の平均退職給付額は約1,092万円となっています。田中さんの退職金3,000万円は一般的な相場よりも多い額ですが、現実には以下のような出費で消えていきました。
●住宅ローン残債の一括返済:1,200万円
●子どもの結婚資金援助:500万円
●両親の介護費用:600万円
残った金額は700万円。その後も日々の生活費や趣味への出費が重なり、定年から5年で貯蓄は200万円を切ったそうです。
また、老後の生活費は意外と高額です。総務省の調査によると、夫婦2人世帯の月平均支出は約28万円。さらに、突発的な医療費や介護費用が加わることで、生活費が予想以上に膨らむことがあります。
田中さん自身も「年金だけでなんとかなると思っていたけれど、物価上昇や医療費の負担増がこんなに大きいとは思わなかった」と語ります。
田中さんの経験から学ぶべきことは、退職金や年金に過度に依存しないライフプランを構築することの重要性です。ここでは、具体的な改善策をいくつかご紹介します。
1.老後の生活費をシミュレーションする
定年後に必要な支出を具体的に洗い出し、「どれだけのお金が必要か」を可視化しましょう。家計管理アプリを使えば、支出傾向を把握しやすくなります。田中さんも現在は「老後に見合った生活」を目指し、支出の見直しを進めています。
2.投資を取り入れて資産を増やす
退職金の一部を投資信託や株式に回し、運用益を期待するのも選択肢です。ただし、リスクを最小限に抑えるため、プロのアドバイスを受けながら分散投資を行うことが重要です。
3.定年後も働く選択肢を持つ
年金だけに頼らず、定年後も副業やパートタイムで収入を得ることで、精神的にも経済的にもゆとりが生まれます。田中さんも現在は、地元のNPO活動に参加しながら講演活動で収入を得ています。
田中さんの事例は、老後に対する準備不足が「一円単位の割り勘」といった細かい場面にも影響をおよぼすことを示しています。しかし、いまから準備を始めれば、このような不安は回避できます。
特に現役世代であれば、「老後もお金に困らない人生」を実現するために、老後の生活費を計算し、無理のないライフプランを立てる必要があるでしょう。また、現役時代から資産運用や収入源の分散を始めるのも一手です。
成功した現役時代を過ごしたからこそ、老後も余裕を持って楽しむための準備が必要です。田中さんの経験をぜひ自分事として考え、今日から一歩を踏み出しましょう。
波多 勇気
波多FP事務所
代表ファイナンシャルプランナー
波多 勇気
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